第26話


一瞬何を言われたのか分からず、彩音はぽかんとしてしまう。


数秒間の静寂が辺りを支配した。


「なっ…!?」


やがて浜田の言葉の意味を理解した彩音は、赤面し,自分の体を守るように抱く。


「どどど、どういう意味!?」


「どう意味って、そのままの意味だよ」


「そ、そのまま…?」


「僕は君を抱きたい。君と交わりたい。こういえばいいのかな?」


「な、なんで私と浜田くんが!?」


ぞわりと寒気が彩音の背筋を撫でた。


生理的嫌悪を感じた時のあの独特な感覚が彩音の全身を支配する。


「そうだね、1番の理由は僕が君を抱きたいと言う願望だけど、まぁこれは君への罰でもある。僕を二度も貶めようとした君に対する罰がたった一回食事を抜くぐらいじゃ、足りないと思わないかい?」


「貶めようって…わ、私はただ本当のこと

を…!」


「本当のことだとしても、君の罪は重いよ。なぜなら僕がこのクラスのリーダーから失脚することはクラスの崩壊を意味するからね。僕以外に誰がクラスを纏められるって言うんだい?」


「だ、だからって国木田君や、佐藤さん、翔ちゃんにあんなことしていい理由にはならない…!」


「ふふ…君は正義感が強いね、島崎さん。こうなった今でも僕にそうやって歯向かってくるところなんか最高だ。僕を盲従する他の女たちよりよっぽど魅力的だよ」


「…っ!?」


「早くその顔を絶望に染めてあげたいなぁ」


ドス黒い笑みが浜田の顔に浮かんだ。


「い、いやっ…」


彩音は引き攣った悲鳴をあげて,逃げようとする。


「おっと」


「どこに行く?」


「逃げられないぞ、島崎」


だが周りを囲んでいた浜田の取り巻きの男子たちにあっという間に抑えられてしまう。


「ふふふ…僕はこの時を待っていたよ、島崎さん…実を言うとね…かなり前から僕は君を自分のものにしたいって狙ってたんだ…佐久間君みたいな冴えない男は君にはもったいないよ…」


浜田がズボンを脱いでパンツ姿になりながら、彩音に近づいてくる。


「いやだっ…お願い誰か助けて…!」


彩音は必死に暴れて助けを求める。


「君たち。何をしてるの?口を塞いで?」


「お、おう…」


「す、すまんっ」


だがすぐに浜田の指示で口を塞がれてしまい、助けを呼ぶこともできなくなる。


「んーっ、んんんーっ」


「うふふ…君の体は引き締まっていてきっと僕好みだ…さあ、どんなものか見せてもらおうか…」


「んーっ、んーっ…!」


浜田の手が彩音の服にかかる。


彩音が全てを諦めて目を閉じかけた、その時だった。


「やめろぉおおおおお…!島崎さんに何をするんだぁあああああ!!!」


そんな声が夜の静寂をかき消した。




「ん?」


「お?」


「なんだぁ?」


浜田や取り巻きの男子たちが声のした方を見る。


「お前らぁ…島崎さんに…何してるんだぁ…」


「え…国木田くん…?」


拘束の緩んだ彩音が背後を振り返る。


「島崎さんを放せぇ…島崎さんはお前らみたいなゲス野郎が触れていい人じゃねぇんだよぉおお…!」


足を引き摺りながら、片手に石を持ち、そこに立っていたのは国木田光雄だった。


ギラギラと血走った目で浜田や取り巻きの男子たちを睨んでいる。


「ちっ」


浜田が苛立ったように舌打ちをしながらズボンを履き直した。


そして突然現れた国木田を鬱陶しそうに見る。


「何かな?国木田くん」


「浜田ぁ…島崎さんを放すんだぁあ…島崎さんを解放しろぉ…」


「どうして?」


「島崎さんはお前らみたいなゲス野郎が触れていい相手じゃねぇんだよぉ…!」


「意味がわからないな。どうしたんだい国木田くん。君、今僕の邪魔なんだけど」


「そんなこと知るかぁ…!島崎さんを放せぇ…!」


「あれ?国木田君、僕の命令はなんでも聞いてくれるんじゃなかったの?」


「その手には乗るかぁ…もう自分はお前の奴隷じゃないんだぁ…!このままお前に使い潰されるぐらいなら…お前をここで殺してやるぅ…!ふぅ…!ふぅ…!」


国木田の全員からさっきが放たれる。


浜田が「はぁ」とため息をついた。


「僕を裏切るのかい?国木田くん」


「そうだぁ…自分は…お前たちを倒して自由を手に入れるんだぁ…」


「やれやれ…賢い選択とは思えないな。この人数に、そんな貧弱な武器で勝てると思ってるの?」


浜田が国木田の方手にもった石を見ながら言った。


国木田は口から荒い息を吐きながら,血走った目で浜田や取り巻きの男子たちを見つめている。


「そんなの知るかぁ…殺すぅ…浜田ぁ…お前を殺すぅ…」


国木田は浜田たちにつけられた傷のせいで、昨日から高熱を発症しており、体力をかなり消耗していた。


そのせいで冷静な判断ができなくなり、浜田たちに対する復讐心のみが国木田を突き動かしている状態だった。


そのことを、浜田は素早く察知する。


「国木田くん。本当に僕を殺すつもりかい?」


「当たり前だろぉ…同じ苦しみを味合わせてやるよぉ…浜田ぁ…」


「そうかい。じゃあ、君にはここで死んでもらおうか」


浜田が取り巻きの男子たちに顎でしゃくった。


「やっちゃっていいよ。これはもう使えなさそうだ」


「了解」


「わかったぜ浜田」


浜田の取り巻きの男子たちが全員で国木田を取り囲む。


「く、国木田君…!逃げて…!私のことはいいから…!」


彩音は必死にそう叫んで国木田を逃がそうとするが…


「へへへ…大丈夫だよ島崎さぁん…自分が今からこいつら全員殺してぇ…君を助けるか

ら…そしたらさぁ…自分と結婚してよぉ…」


「へ…?」


「君だけだよぉ…手を差し伸べてくれたのは…ふふふ…これって運命だよねぇ…待っててねぇ…今から助けるからぁ…ここを出たら結婚式あげようねぇ…ふふふ…」


「何言ってるの!?」


焦点の定まらない目でそんなことを言う国木田に彩音は戸惑いの声をあげる。


「何言ってやがる国木田」


「こいつ完全にイカれたな」


「もうこいつはダメだ」


浜田の取り巻きが、国木田を囲みながら少しずつ距離を詰め出した。


「殺してやるぅぅううう…!」


国木田は足を引き摺りながら、右手の石を振り翳し、自分を囲む男子には目もくれず、浜田に向かって突っ込んでいく。


「死ねぇぇええええ!!浜田ぁああああ!!」


「だめぇええええええええ!!!!」


彩音の悲鳴が浜辺一帯に響き渡った。





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