第25話


「私、どうなっちゃうんだろ…」


夜。


星空を見上げながら彩音はそう呟いた。


「すぅ…すぅ…」


隣では谷川淳子が規則正しい寝息を立てている。


「なんで私、追放されなかったんだろう…」


彩音はぐぅううと空腹を訴えるお腹をさすりながら、昼間の出来事を思い出す。


『国木田くん、大丈夫…私がついてるから…本当のことを言って…』


『ぼ、僕は……浜田くんたちの言うように自分で怪我をしました…正しいのは浜田くんです…』


『だそうだよ?島崎さん』


浜田たちが国木田を犠牲にして魚を捕まえていることを突き止めた彩音はその事実をクラスメイトたちに暴露した。


だが結局彼らに信じてもらうことはできず、挙げ句の果てには国木田にも裏切られた。


『島崎さんやっぱり嘘ついてたんだね…』


『そうまでして浜田くんを貶めたいの?島崎さん…』


『クラスの輪を乱さないでよ島崎さん…』


彩音は浜田を蹴落とすためになりふり構わず嘘をつく嘘つきとして吊し上げられ、クラスメイトたちから糾弾された。


ただ一人谷川だけは必死に彩音を庇ってくれたのだが、たった一人の加勢では無意味だった。


『淳子ちゃんありがとう…でも今は、大丈夫。私を庇わないで…私は大丈夫だから…』


彩音はこのままでは谷川まで巻き添えにしてしまうと、自分を庇うのをやめさせた。


おそらく自分は追放される。


いや、それで済んだらマシな方だ。


もしかしたらもっと酷い運命が待ち受けているかもしれない。


そう覚悟したのだが、浜田が彩音に与えた罰は拍子抜けするほどに軽いものだった。


『島崎さん…君は僕やクラスメイトを二度も裏切った。僕たちに嘘をついて、クラスの輪を乱した。これはとても重い罪だ』


『…っ』


『でも、僕は優しいからね。追放だけはしないでおいてあげるよ。君に与える罰は……今夜君だけ魚が食べられない、と言うものかな』


『え…?』


『十分に反省してね。次はないから』


驚くほどに軽い罰に彩音は戸惑った。


翔太の追放を迷わず決断し、佐藤に無理やり毒味をさせ、魚を捕まえるために国木田を傷つけた浜田なら、もっと酷いことを自分にしてくると思った。


だが彩音の予想は外れた。


…しかしいい気はしなかった。


彩音はなんだか浜田が不気味に思えた。


浜田の真意を探ろうと、その顔を真正面から見つめるが、浜田はニヤニヤと口元に笑みを浮かべながら、彩音を見ているだけだった。


『感謝しなよ島崎さん』


『浜田くん優しいね。私は追放した方がいいと思ったんだけど』


『次はないからね、島崎さん』


浜田に許された彩音に、浜田に選ばれた女子たちがそんなことを言う。


結局その後も彩音が何かされることはなく、夕食の魚を一人食べられないという罰だけで済んだのだった。


「なんで私を許したんだろう…まだ私に何か利用価値が?」


彩音は浜田が自分を軽い罰で許した理由を考

える。


浜田が自分を追放しなかった理由があるとしたら、それはまだ自分に利用価値があるからと考えるのが妥当だ。


しかし浜田から見て今の自分に価値などあるだろうか。


浜田の権力の維持に直結する取り巻きの男子でもないのに、どうしてまだクラスにいることを許されているのだろう。


「もしかして……国木田くんの役目を私にやらせるために…?」


明日になれば自分が魚を捕まえるために血を流さなければならないのだろうか。


「でもそれで国木田くんが助かるなら…」


三日連続で体を傷つけられれば、国木田は体力を限界まで失い、そのまま死んでしまうかもしれない。


それよりは自分が血を流す役目を肩代わりしたほうがまだマシなのかもしれない…


そんな半ば自暴自棄な考えが、彩音の頭をよぎったその時だった。


サク…サク…


サク…サク…


「…?」


砂浜を歩いて何人かが自分の元まで近づいてきた。


彩音は起き上がって顔を上げる。


「おい、島崎。起きろ」


「こい、浜田の呼び出しだ」


「え、何…?」


そこにいたのは浜田の取り巻きの男子たちだった。


暗闇の中、退路を断つように彩音を取り囲んでくる。


「やっ…淳子ちゃん…」


怖くなった彩音は淳子を起こして助けを求めようとする。


そんな彩音の口を、男子たちが無理やり手で押さえて塞いだ。


「んーっ、んーっ…」


「静かにしろ」


「谷川を巻き込みたいのか?」


「…!」


「お前が大人しく従わないようなら谷川も一緒に連れてこいと浜田に言われている」


「どうする?お前一人でくるか、谷川も一緒にくるか…」


「…っ」


谷川まで犠牲にすることなど出来るはずもなかった。


彩音はそこはかとない不安を感じたが、黙って男子たちについて行くことにした。


「よし、ついてこい」


「足音を立てるな。他の生徒が起きないように静かにだぞ」


「…っ」


彩音は男子たちに囲まれながら、他の生徒たちが寝ている浜辺を静かに移動する。


やがて彩音は、浜辺の一番端っこまで連れてこられた。


そこでは火がわずかに燃えており、その前に座っている浜田の姿があった。


「浜田、くん…?」


「やあ、島崎さん。こんばんは」


彩音たちがやってきたのを認めると、浜田が立ち上がってズボンの砂をパンパンと払った。


それからニヤニヤと笑みを浮かべ、彩音に近づいてくる。


「な、何かよう…?」


彩音は恐る恐る尋ねた。


浜田が口元に下卑た笑みを浮かべる。


「もちろん用がある。だからこうして来てもらったんだ」


「…っ」


国木田君の役目を明日から君にこなしてもらう。


そんな宣告をされるのだろうか。


身構える彩音に、浜田がいった。


「率直に言おう。島崎さん。僕とセックスをしよう」


「…へ?」







〜あとがき〜


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https://kakuyomu.jp/works/16817330650769517973


が連載中です。


そちらの方もよろしくお願いします。



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