第24話


海の中に垂らした糸がググッと引っ張られた。


確かに手応えを感じた俺は、魚が完全に針に食いつくのを待ってから思いっきり引っ張る。


「よし、釣れたぞ…!」


「本当に!?すごい…!」


バシャっと水音が鳴って、水中から一匹の魚が飛び上がった。


俺はすぐにその魚をキャッチして陸の方へ投げる。


昨日捕まえたうさぎの骨で作った針には返しがない。


こうしないと魚が針から外れてすぐに逃げてしまうのだ。


「結構大きいぞ。種類も問題なく食べられるやつだ」


俺は釣れた魚のエラに手を入れて手早く締める。


なかなかのサイズだ。


一人分の夕食にはなりそうである。


「すごい…本当に釣れるなんて…」


ずっと俺の横で観察していた佐藤が、釣れた魚を見て目を輝かせている。


「佐久間くん、釣りもできるんだね…!」


「お、おう…まぁな」


俺は少し照れ臭くなって頭をかきながら、閉めた魚を海の水で洗う。


「さて、日暮れまでにもう一匹釣るぞ」


「う、うん…!頑張って…!」


「釣れなかったらこれ一匹を二人で分けることになるからな。そうならないように頑張るさ」


「わ、私のことは気にしないで…これ一匹だけしか釣れなかったら私は今日はキノコで我慢するから…」


「いやいや、流石にそう言うわけにはいかないだろ。安心しろ。日暮れまでまだ時間がある。必ずもう一匹釣って見せるさ」


俺は餌となる海藻を針につけて、海の中に垂らす。


俺たちが今釣りをしているこの場所は、最初に行き着いた浜辺とはまた違う海岸だ。


だからあいつらに見つかる心配はないだろう。


「あいつら、どうしてんのかなぁ…」


俺は糸を垂らしながら、浜田たちがいるだろう浜辺の方角を見る。


この島に俺たちが漂着して三日目。


流石にあいつらも、きのこだけってわけにはいかなくなっているだろう。 


一体何を食べて凌いでいるのだろうか。


「明日あたり、彩音の様子をこっそり見に行

ってみるか…」


もう生活基盤は十分に整ったと言っていいだろう。


そろそろ彩音を迎えにいく時だ。


俺はそんなことを考えながら、魚が来るのを待つ。


「お、また反応が…!」


結局この日は、日暮れまでに三匹の食べられるサイズの魚を釣ることが出来た。


俺たちは夕食用に三匹のうち二匹をしめて、残り一匹は、海岸に作った簡易的な生簀の中で生かしておくことにした。




「おいしかったねぇ…」


「そうだなぁ…」


パチパチと炎の燃える音が静かに響いている。


この島に漂着して三日目の深夜。


俺と佐藤は昼間に捕まえた魚を焼いて食べ終えて、心地よい満腹感に浸っていた。


燃えている暖かい火の横で、暖をとる。


喉が乾けば、コップがわりの竹筒の中に入った水を飲んだ。


無人島とは思えない快適さだ。


「そろそろ、寝るか」


しばらくして、俺はそう言って立ち上がった。


「そうだね」


佐藤も頷いて、立ち上がった俺についてくる。


俺は近くに建てた簡易住居の中で寝そべった。


佐藤も俺の隣にやってきて寝転がる。


「…っ」


「ちょっと狭いね」


簡易住居は、佐藤がきてから二人分に拡張したとはいえ、少し手狭だ。


佐藤の腕が俺の腕に当たり、少しどきりとさせられる。


「さ、佐藤…もしあれなら俺は外で寝ようか?」


今日は雨も降ってないし無理に簡易住居の中で寝ることもない。


そう考えた俺は佐藤に提案するが…


「ううん、私は大丈夫だよ?」


「そ、そうか…?」


「うん」


佐藤がそう言ったので、俺はこのまま簡易住居の中で二人で寝ることにした。


「…」


「…」


緊張して目を閉じてもすぐには寝付けない。


同級生の女子と一緒に寝るなんて初めての経験だ。


「佐久間くん…もしかしてドキドキしてる…?」


「…!?」


寝始めてから一時間が経った頃。


まだ俺と同様に起きていたらしい佐藤が、突然そんなことを言ってきた。


「す、すまん…心臓の音、伝わってたか…?」


「うん、少しだけ…」


「マジですまん…ちょっと緊張してな…」


「仕方ないよ。こんな状況、私も初めてだから…ちょっと緊張してる」


「そ、そうか…」


「ねぇ、佐久間くん…」


「な、なんだ…?」


「佐久間くんって…島崎さんと付き合ってるの…?」


「あ、彩音と!?なんで俺が!?」


「だって、いつも一緒にいた気がしたから…」


「つ、付き合ってないぞ!?彩音とはただ幼馴染ってだけで…」


「そっか…じゃあ、他に付き合ってる人、いたりするの…?」


「い、いないが…」


「そっか、いないんだ…」


「お、おう…」


「ねぇ、佐久間くん…」


「な、なんだ…?」


隣で佐藤がこっちを向く音がした。


「吊り橋効果って知ってる…?」


「え、吊り橋効果…?」


初めて聞く単語だった。


「聞いたことないな。なんだそれ?」


「…」


「佐藤…?」


「ううん…なんでもない」


「…?」


「ごめんね、変なこと聞いちゃって。おやすみ」


「お、おう…おやすみ…?」


なんだったんだ?


そう疑問に思いつつも、今の会話で俺は多少の緊張がほぐれたのを感じた。


明日は、彩音を助けにいくつもりだ。


クラスメイトの目を掻い潜って助けないといけないため、どれほどの長丁場になるかわからない。


体力は温存しとかなくては。


そう思って目を閉じた。


…今度は眠気はすぐにやってきた。




〜あとがき〜


異世界ファンタジーの新作


『主人公に殺されるゲームの悪役貴族に転生したから死なないために魔法鍛えまくって主人公手懐けてみた』


https://kakuyomu.jp/works/16817330650769517973


が連載中です。


そちらの方もよろしくお願いします。






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