第23話
「みんな聞いて!浜田くんたちは嘘をついてるの…!」
クラス全体が怪我をしている国木田を讃えるムードになっている中、彩音が一人声を上げた。
「え…?」
「何?」
「島崎さん…?」
クラスメイトたちの視線が彩音一点に集まる。
「ま、まずいよ彩音ちゃん…今は言わないほうが…」
「ごめん、淳子ちゃん。でも私、これ以上黙っていられないよ」
止めようとした谷川を手で制して、彩音は自分が水分休憩中に一人浜辺で引き返し、そこで見たことを暴露する。
「浜田くんたちは嘘をついている。国木田くんは自分で怪我したんじゃない!浜田くんや他の男子たちに押さえつけられて、無理やり怪我させられたの…!」
「え…?」
「はぁ…?」
「またなの?島崎さん」
多くの女子たちが彩音の暴露にぽかんとしたり、呆れた表情を見せる。
だが、男子の一部がびくりと体を震わせたのを、彩音は見逃さなかった。
「私は見たの…!水分休憩中に悲鳴が聞こえたような気がして一人浜辺に引き返した
の……そしたら浜田くんたちが国木田くんを取り押さえて……それで、無理やり怪我させたの…!」
「島崎さんさぁ…」
「いい加減にしなよ…」
浜田に選ばれた容姿の整った女子たちは完全に呆れ顔で彩音を見ていた。
だが何人かの男子たちの顔には、すでに罪悪感のようなものが浮かび上がっていた。
彩音に真実を暴露され、どうしたらいいのかわからず、口を閉ざしながらも、浜田やその取り巻きたちを仰いでいる。
また、浜田は不気味なほど静寂を保って、彩音を観察していた。
「みんなおかしいと思わない?どうして私たちが水分休憩をしている短い時間に男子たちはこれだけの魚を捕まえられたの…?昨日に引き続き今日もだよ?みんなで魚を捕まえようとしていた時は全然ダメだったのに。でもその答えは簡単。浜田くんたちは、私たちのいない間に、私たちに絶対に見せられないような酷いことをしてたんだよ!国木田くんに…!」
「…っ」
国木田が顔を上げた。
救いを求めるように彩音の顔を見る。
彩音がそんな国木田をいて頷くながら、決定的な一言を口にした。
「浜田くんたち男子は、国木田くんにわざと怪我させて、その血を使って魚を集めていたの…!そこに集めてある魚は全ぶ国木田くんの血を使って捕まえたものなんだよ…!だから、浜田くんの言葉を信用しちゃダメ…!」
「「「…」」」
シーンとした静寂があたりを支配した。
全てを暴露した彩音は心の中で祈る。
言った。
とうとう言ってしまった。
ここから先は賭けだ。
自分の言葉がクラスメイト…特に女子たちに信じらもらえればチャンスはある。
だがもし彼女たちが、自分ではなく浜田を信じたりしたら……
「頭おかしいんじゃないの…?」
「島崎さん本当にどうしちゃったの…?」
「いい加減にしてよ島崎さん…」
しばらくして彩音を糾弾する声が静寂を破った。
真っ先に彩音にくってかかったのはやはりというか、浜田に選ばれた女子たちだった。
彼女たちは、浜田についていく限り自分たちの命は安泰だと考えているからか、浜田の言葉を鵜呑みにする傾向にある。
今も、完全に彩音よりも浜田の言葉を信じたようだ。
必死に浜田は嘘をついていると主張している彩音を白い目で見ている。
だが、水飲み場の時とは違い、変化があったのは他の女子たちだった。
「確かに…どうして私たちがいない間に魚がこんなに取れたんだろう…」
「ちょっとおかしいよね…」
「全員で魚を捕まえようとした時は全然ダメだったのに……昨日と今日、私たちがいない間に男子たちはどうやって魚を捕まえたの…?」
昨日はまだに選ばれなかった女子たちは、浜田の言葉を鵜呑みにはせずに、何かがおかしいと声を上げ始めた。
「ちょっと、あんたたち、浜田くんを疑うわけ?」
「そ,そう言うわけじゃないけど…でも」
「でも何よ?」
「お、おかしいと思って…」
「おかしいって何が?」
「国木田くんが二日連続で怪我して…二日連続で私たちがいない間に魚が取れたことが…」
「男子たちが頑張ったんでしょ?」
「そ、そうかもしれないけど…」
「あー、鬱陶しいわね!そんなんだからあんたたちは浜田くんに選ばれなかったのよこのブス…!」
「なっ!?」
「ちょっとそんな言い方なくない!?」
「今はクラスみんなで協力する時でしょ!?」
「何よ、僻み?ブスのくせに生意気」
「今ブスは関係ないでしょ!?」
「あんたたちの性格の方がよっぽどブスよ!!」
「なんですって!?」
選ばれた女子たちと選ばれなかった女子たち。
十五名近くの女子生徒が二つに割れて互いに言い争いを始める。
「お願い…みんな信じて…」
彩音は自分を信じる側の勢力が勝つことを祈って見守ることしかでいない。
「あわわ…ど、どうなるの…?」
谷川は言い争いを始めた女子たちをみてどうしたらいいかわからず戸惑っていく。
「あなたたちはいいよね!魚を食べられたんだから…!浜田くんの言葉を信じてればいいんだから!!」
「何よその言い方!?浜田くんに楯突くわけ!?クラスの輪を乱さないでよ!!」
「乱しているのはそっちでしょ!?自分たちだけで魚を食べて私たちが不満に思わないとでも!?」
「そんなの知らないわよ!!あんたたちは浜田くんに選ばれなかったんだからその辺の海藻でも食べてればいいじゃない!」
「ほら、そうやってすぐ私たちを蔑む!あんたたちのその態度がクラスの輪を乱してるって言ってるの!!」
女子たちの言い争いはどんどんヒートアップしていく。
彩音はチラリと浜田の方を見た。
「お、おい…浜田…?」
「どうするんだ?」
「このままじゃまずいぞ…?」
「クラスが崩壊しちまう…」
取り巻きの男子たちが浜田にヒソヒソと何かを呟いている。
浜田がニヤリと笑って立ち上がった。
「ちょっと黙ってくれるかな」
「「「…っ!?」」」
ピタッと女子たちの言い争いが止んだ。
静かな、しかし怒気を孕んだ浜田の声に女子たちが一斉に黙る。
「喧嘩はやめてよ。クラスの輪が乱れる」
「「「…」」」
「なんだかよくわからない疑いが僕や他の男子たちにかけられているようだけど……はぁ、困るなぁ、島崎さん。また君かい?」
「…っ」
浜田が彩音に視線を移す。
その口元はいやらしく歪んでいる。
「君は確かあの嘘つきの佐久間くんの時も、彼を庇っていたよね」
「わ、私は真実を言っているだけだから…っ」
震える声で彩音はそういった。
浜田はニヤニヤ笑いながら、わざとらしくため息を吐いた。
「はぁ…悲しいなぁ…僕や他の男子が国木田くんを傷つけてまで魚を撮ろうとするはずがないだろう?君の訴えは完全なガセだよ。インチキ、嘘、偽り、フェイクにすぎない」
「違う!!私は絶対に見たの…!あなたたちが国木田くんを押さえて石で足を傷つけて…」
「ふぅん?そっか。それじゃあ、本人に聞いてみるとしよう」
「え…」
「国木田くん本人に何があったのか、聞いてみよう。君の訴えが本当かどうか、彼に聞けばはっきりするよね」
「…っ」
彩音は国木田を見た。
国木田が彩音に救いを求めるような視線を送る。
だがその直後…
「さあ、国木田くん。島崎さんの言葉が嘘かどうか、言ってごらん」
「…っ」
浜田に刺すような視線を向けられ、国木田の表情が引き攣った。
「ほら、躊躇うことはないよ。島崎さんに真実を教えてあげて?」
「ぼ、僕は…僕は…っ」
浜田やその取り巻きの男たちは、暗い表情で国木田を睨み続けた。
彩音には彼らのその表情は、本当のことを言えばわかっているな?と脅しているようにしか見えなかった。
「国木田くん、大丈夫…私がついてるから…本当のことを言って…」
彩音が国木田にせがむようにそう言った直後……
「自分で…怪我しました…」
「…っ!?」
「ぼ、僕は……浜田くんたちの言うように自分で怪我をしました…正しいのは浜田くんです…」
「そんな…」
圧に屈した国木田に、彩音が絶望する。
「だそうだよ?島崎さん」
勝ち誇ったように浜田が絶望する彩音をニヤニヤ見つめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます