第22話


「もうすぐ浜辺だね……」


「う、うん…みんな信じてくれるかな…?」


「わかんない…でも絶対に違和感は感じると思うんだ…私たちがいない間にまた魚がたくさん取れていたら…」


「うん…国木田くんのためにも絶対にこんな

方法、辞めさせないとね…」


彩音と谷川はそんな相談をしながら、他の女子たちと共に浜辺へと戻っていた。


おそらく浜辺には、昨日同様怪我した国木田がいて、女子の水分休憩の間にたくさん捕まえられた魚がいるはずだ。


それだけの証拠があれば、十分に皆を説得できる。


そう信じて、彩音と谷川は顔を見合わせる。


「大丈夫かい!?国木田くん!」


「おい国木田しっかりしろ…!」


「酷い傷だ!!」


「国木田お前…!みんなの魚を捕まえるためにこんな怪我しやがって…!!」


浜辺に行くに従ってそんな声が聞こえてきた。


「「…!?」」


彩音と谷川の二人は目を見開き、顔を合わせる。


「ま、まずいかも…」


「これって…」


嫌な予感が二人の脳裏をよぎる。


「え?なになに?」


「どうしたの?」


「誰か怪我したの…?」


浜辺から聞こえてきた声に、女子たちが一斉に走って森を抜け、浜辺を出た。


「国木田、しっかりしろ…!」


「今手当するからな…!」


そこでは男子生徒たち……主に浜田の取り巻きの運動部たちを中心とした……が、足から血を流す国木田を心配そうな表情で見つめ、破いた制服などで出血部分を覆ったりして、治療していた。


「やっぱり…!」


「私たちを騙すために…!」


彩音と彩音の言葉を信頼している谷川には、彼らがしようとしていることがすぐに理解できた。


だが、他の女子生徒は……その現場をただ怪我をした国木田を他の男子生徒が治療しようとしている、と言うふうに捉えたようだった。


「ど、どうしたの?」


「何があったの浜田くん?」


女子たちが恐る恐る浜田に何があったのかを尋ねる。


浜田はいかにも神妙そうな面持ちで、国木田を見つめながら言った。


「国木田くんが怪我をしてしまったんだ…」


「国木田くんが…?」


「ああ。彼、みんなのために魚を取ろうと海に潜ってたんだけどね…どうやらその時に岩の間に足が挟まってしまい、無理やり抜こうとしたらあんな怪我をしてしまったんだ…」


「そ、そうだったんだ…」


「私たちのために…」


「国木田くん…結構クラス思いなところあったんだね…」


「すごいよ国木田くん…みんなのために…」


浜田の言葉を、浜田に選ばれた女子たちが一

瞬で信じてしまい、国木田を感謝するような目で見始める。


「な、なんだ…そうだったんだ…」


「一瞬本当に島崎さんの言葉が本当だと思ったんだけど…」


「国木田くんの怪我はそう言うことだったんだね…」


そしてそのほかの女子も、流されるように浜田の言葉を信じ始めている。


(やられた…!まただ…!)


彩音は、浜田にまたしてやられたと思った。


おそらく浜田は、彩音が浜辺の様子を見に戻ってきたのを察知したのだ。


だから、わざわざこんな芝居を打っているのだ。


国木田を怪我させたのは自分たちじゃない。


あくまで国木田は自ら魚を取るために怪我をしたのであって…男子たちが魚を取るために無理やり怪我させたのではないと。


そう女子たちに信じらせるために演技をしているのだ。


「うぅ…うぅうう…」


「国木田大丈夫か?」


「ありがとな、俺たちのために…」


足から血を流し、泣いている国木田を、浜田の取り巻きの男子たちが治療しているが、その表情や言葉は、彩音の目にはどこか嘘くさく見えた。


そしてそれを周りで観察している他の男子生徒は、なんとも言えない微妙な表情でずっと口を閉ざしている。


「彩音ちゃん…これって、そう言うことだよね?」


谷川がヒソヒソと彩音に耳打ちしてくる。


「う、うん…私たちを騙すための…演技だと思う…」


「だよね…やっぱりおかしいもん…私は彩音ちゃんの言葉を信じるよ」


「ありがとう淳子ちゃん」


「でも、どうしよう……多分浜田くんの指示なんだろうけど…かなり巧妙な一手だよ…今から私たちが真実を言っても信じてくれる人は少ないんじゃないかな…」


「でも言うしかないよ…!じゃないと、国木田くんが…」


この状況で口を閉ざせば、それは実質リンチされている国木田を見殺しにすることになる。


正義感の強い彩音には、この状況を見過ごすことは出来なかった。


「みんな!見てくれ!国木田くんの奮闘もあって、あんなに魚が捕まえられたよ!」


浜田がそう言って浜辺に集めてある魚を指差した。


「三十匹以上…!今日は人数分魚を捕まえることができたよ!全員の食糧が確保できたんだ!」


「やったぁ!」


「すごい!!」


「こ、これで魚が食べられるね…!」


「ありがとう浜田くん…!」


女子たちが人数分の魚が捕まえられたと言う報告に歓喜する。


中には浜田に感謝を述べる声も混じっていた。


浜田がニコニコ笑いながら言った。


「みんなありがとう!でも、これは国木田くんのおかげでもある!怪我をしてまで魚を捕まえようとしてくれた国木田くんにみんな拍手を送ろう…!」


そう言って浜田が国木田に向かってパチパチと拍手をし始めた。


「よっ、国木田!」


「えらいぞ国木田!」


「お前はこのクラスの英雄だ!」


いつも浜田を担いでいる取り巻きの男子たちが早速浜田に追従して国木田に拍手を送る。


すると他の生徒たちもパチパチと拍手し出し、ついには彩音と谷川以外の生徒全員が国木田に向かって拍手し始めた。


「ありがとう国木田」


「おめでとう国木田」


「おめでとう」


何がおめでとうなのかわからないが、クラスメイトたちが一斉に国木田に向かっておめでとうと拍手している様は、真実を知っている彩音や谷川からしたら恐怖ですらあった。


騙されている女子生徒たちはまだしも……国木田を自ら傷つけておいて、その責任を国木田自信になすりつけ、英雄として祭り上げている男子たちに彩音はもう我慢ができなかった。


「みんな聞いて!!浜田くんたちは嘘をついている…!!」


「あ、彩音ちゃん…!?」


谷川が慌てて止めに入ろうとするが、彩音はそんな谷川を手で制し、覚悟を決めた表情でクラスメイトたちに向かって自分が見た真実を暴露するのだった。

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