第21話


「早くみんなに知らせないと…」


男子たちが、どうやって魚を捕まえていたかを知ってしまった彩音は、逃げるように浜辺を離れて森の中を走っていた。


「国木田くんが怪我してたのはそう言うことだったんだ……男子たちは国木田くんの血を使って……」


男子たちは女子が水分補給でいない間に、国木田に怪我をさせて、その血を使って魚を集め捕まえていたのだ。


国木田はおそらく浜田や他の男子たちに脅されて、そのことを女子たちに打ち明けられなかったのだろう。


「私たちが知れば絶対に反対されると思って、水分休憩の間に……最低っ…」


おそらく女子の水分休憩の時間を利用して男子だけでことを実行したのは、このことが女生徒たちに知られれば確実に反感を買うとわかっていたからだ。


だから女子が水分休憩でいない間にことを済ませて、国木田には黙秘を強要した。


昨日、水分補給から帰ってきたら突然十五匹もの魚が捕まっていたのはそう言うことだったのだ。


「早くみんなに知らせないと……国木田くんが死んじゃう…」


二日連続で魚を捕まえるために無理やり怪我をさせられた国木田は相当重症だろう。


ここは無人島で言わずもがな、消毒液や包帯などの治療道具はない。


放っておけば傷口から細菌が入るなどして国木田が死んでしまうかも知れない。


「みんな!!聞いて!男子たちが…!」


急いで水飲み場へと戻った彩音は、呑気に水を飲んだり体を洗い流している女子たちに向かっていった。


「え?」


「ん?」


「何?」


慌ただしい様子の彩音に、女子たちが視線を送る。


「どうしたの?彩音ちゃん…」


ただならぬ様子の彩音に谷川が心配そうな声をかけてくる。


彩音は女子生徒たち全員を見渡し、覚悟を決めて真実を暴露した。


「男子たちが……今浜辺で、国木田くんを使って魚を捕ってるの!!!」


「は?」


「え?」


「いきなり何?」


「どう言うこと?」


女子たちはぽかんとしている。


まだピンときていないようだ。


彩音はさらに説明を加える。


「国木田くんに無理やり怪我をさせて血を出させて……その血を使って魚を集めて捕ってたの!!」


「「「…」」」


シーンとした静寂が辺りを支配した。


やがて…


「何言ってんの島崎さん」


「頭大丈夫島崎さん」


「浜田くんがそんなことするわけないじゃん島崎さん」


あちこちから彩音の言葉を疑う声が聞こえてきた。


「島崎さん、また嘘つくの?」


「島崎さん、初日もあの嘘つきの佐久間の味方してたよね?」


「まだ浜田くんを蹴落とそうと企んでるの?」


「ち、ちが…」


先頭きって彩音を糾弾するのは、昨日浜田に選ばれて魚を食べさせてもらった容姿の整った女子生徒たちだ。


浜田くんがそんなことするはずない。


また嘘つくの、島崎さん。


そんな声があちこちから聞こえてくる。


「嘘じゃない…!本当に見たの!信じて!」


彩音は必死に訴えるが、浜田に気に入られ、魚を食べる側に選ばれた女子たちは、自己利益もあるためか、彩音に訝しむような視線を向けている。


「私は嘘は言っていない!みんなも国木田くんが足を怪我してるのは知ってるでしょ!?あれは浜田くんたちにやられた傷だったんだよ…!」


「えぇ…流石にそれは…」


「浜田くんでも流石にそんなことはしないんじゃ…」


彩音は浜田に選ばれた女子たちの説得は諦めて、その他の女子に向かって真実を訴える。


だがその他の女子たちも、流石にそんなことはしないだろうと彩音の言葉をすぐには信じようとしなかった。


「ほ、本当のことなのに……どうして誰も信じてくれないの…?」


彩音が誰も浜田ばかりを信じて自分の話に耳を傾けないことに絶望し、呆然とする。


だがそんな彩音の袖を引く女子生徒がいた。


「彩音ちゃん……それ、本当なの?」


「淳子ちゃん…?」


谷川だった。


たった一人、彩音の言葉をすぐに否定せずに詳しい話を聞こうとする。


「何があったのか聞かせてもらえる?」


「う、うん…」


彩音はひとまず谷川に自分が浜辺で何を見たのかを全て話した。


すると流石の谷川も驚いたようだった。


「嘘…そんなことを…男子たちが…?」


「う、うん…」


「は、浜田くんの命令で…?」


「多分、だけど…」


「…っ」


谷川はしばらく絶句する。


いくら浜田でも、クラスメイトに直接危害を加えてまで食料を調達しようとするとは彼女も考えていなかったのだ。


「私もおかしいと思ってたんだ…昨日、私たちが水分休憩言っている間の短い時間に、あんなに魚が取れたのはそう言うことだったんだね…」


「多分真実を知ったら流石に女子から反対が出るから……だから男子たちだけ浜辺にいる間にやったんだと思う…今日も多分…」


「や、やばいね…彩音ちゃん。このままだと国木田くんが死んじゃうよ…」


「うん…でもみんあ信じてくれない…」


彩音はぐるりと女子たちを見渡した。


すでに谷川の女子生徒たちは、彩音の話に耳を傾けるのをやめて、水分補給や水浴びを再開している。


「本当のことなのに…」


「確かに…ごめんだけど彩音ちゃんの話を聞いただけじゃ信じられない気持ちもわかる…だってあまりに酷い話なんだもん…流石の浜田くんもそこまでしないってみんな思っちゃうよ…」


「そ、そうだよね…」


「でも、浜辺に行けばやっぱりみんな違和感に気づくと思う…どうして自分たちがいない間に魚を捕まえられたのか…国木田くんはなんで怪我したのか…浜辺に戻ってからもう一回みんなを説得してみよう…私も協力するから」


「う、うん…!」


今真実を必死に訴えても賛同者は少ないだろう。


それなら状況証拠が揃っている浜辺に戻ってから、女子生徒たちを説得した方がいい。


二人はそう考えて、今は浜田たちのしたことをこれ以上訴えるのはやめようと決めたのだった。

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