第20話
「さて…女子たちはもう行ったかな?」
女子生徒たちが水を飲むために森へ入った少し後。
浜田は浜辺を見渡して、女子生徒たちがその場に残っていないことを確認する。
「じゃあ、男子全員集合して」
浜田は浜辺に残った男子生徒たちを自分の元へ集合する。
「全員集まったぞ、浜田」
取り巻きの一人が、男子生徒の数を数えて、全員がその場にいることを浜田に告げた。
「よし」
浜田が頷いて全員を見渡した。
「することは、わかってるよね?」
「「「…っ」」」
何人かの男子生徒がごくりと喉を鳴らした。
「きょ、今日もやるのか…」
「あ、あれを…今日も…?」
疑問を呈すような呟きも、ちらほらと聞こえてくる。
「ん?何か意見があるのかな?」
「「…っ!?」」
だが浜田が一言そう言うだけで、全員が口を閉ざし、シーンと場が静まり返った。
「昨日僕たちはある方法で魚をとった。残念だけど、それ以外の魚を取る方法が現状存在しない。だから、生きていくために今日もその方法を取らざるを得ない」
「「「…」」」
「それじゃあ、聞こうか。誰か立候補してくれるものは?」
立候補。
その意味を男子生徒たちは即座に理解した。
もしここで名乗り出れば……どうなるかは目に見えている。
ゆえに誰も手を挙げるものはいなかった。
「うーん、立候補はなしかぁ、困ったなぁ」
浜田がそう言って生徒たちを見回した。
「「「…っ」」」
選ばれたくない男子生徒たちは、浜田と目が合わないように下を向いて俯く。
「まあ、そう言うことなら今日も国木田くんに協力してもらおうかな」
「…っ!?」
浜田がそういった瞬間、あちこちでホッとしたようなため息が漏れた。
一方で選ばれた国木田は、悲鳴のような声をあげる。
「ま、また自分なの!?ど、どうして!?昨日だって自分だったのに…!」
「ん?僕の決定に逆らうの?国木田くん」
「…っ!?」
「君は言ったよね?僕のためならなんでもしてくれるって。あの言葉は嘘だったのかな?」
「で、でも…」
「嘘をつくってことは僕を裏切るってことだ。裏切り者はこのクラスに入らないなぁ…」
追放。
そんなに文字が国木田の頭にチラついた。
「け、けど自分は…」
国木田が足を抑える。
昨日、魚を取るために浜田にやられた足の傷は治るどころか悪化している。
ここは無人島。
包帯どころか、消毒薬すら存在しない。
これ以上体を傷つけられたら、その後にどんな運命が待ち受けているか、理解できない国木田ではなかった。
「そんな…ひどい…二日連続で自分なんて…」
国木田は絶望し、地面に膝をついた。
「お願い…浜田くん…今日は他の誰かにして…」
泣いて浜田にそう懇願する。
だが、浜田は無慈悲にも首を振った。
「あ…」
国木田がぽかんと口を開けて固まる。
そんな国木田に、誰も手を差し伸べるものはいない。
むしろ国木田が選ばれなかったら自分が国木田の役回りをやらされる可能性があるため、男子生徒たちは浜田に加勢して国木田を容赦なく攻める。
「おい国木田。いい加減にしろよ」
「浜田の決定は絶対なんだよ、逆らうなよ」
「お前一人の犠牲で全員が助かるんだぞ?むしろ光栄に思えよ」
「自分一人の命とその他全員のクラスメイトの命、どっちが大切か、わかるよな?」
「あ、あ…」
誰も味方をしてくれるものがいない。
そう理解した国木田は、ぽかんと開いた口から掠れた声を漏らした。
…そして次の瞬間。
「うわぁあああああああ!!!」
突如として立ち上がり、怪我した足を引き摺りながら悲鳴を上げて逃げ出した。
「嫌だぁああああああ!!!誰か助けてぇええええええ!!!死にたくないぃぃいい!!!!!」
泣き叫びながら必死に森の中へ逃げ込もうとする国木田。
直後、浜田が顎をしゃくって冷たい声で男子生徒たちに命令した。
「捕まえろ」
男子生徒たちは浜田の命令を受けて、すぐに国木田を捕まえる。
そして逃げられないように地面に押さえつけ
た。
「嫌だぁああああ!!!誰か助けてぇええええええ!?」
国木田はジタバタともがくが、大人数で地面に押さえつけられているため、当然逃げることは叶わない。
そんな国木田に石を持った浜田がゆっくりと近づいていった。
「今日は逆の足にしようか。なるべく新鮮な血の方が魚たちも寄ってくるでしょ」
「ひぃ!?」
「あんまりうるさくしないでね、国木田くん。間違ってこの石が頭にあたっちゃうかもよ」
「…っ!?」
国木田が声を失って口をぱくぱくとさせる。
そんな中、浜田が容赦なく国木田の足に石を振り下ろした。
直後、浜辺に国木田の壮絶な悲鳴が響き渡った。
(ひ、酷い…あんな…あんな方法で魚を捕まえていたなんて…)
(わ、私たちがいない間に、国木田くんにあんなひどいことを…)
(だ、だから、浜田くんは魚を取る方法を隠してたんだ…)
(み、みんなに言わないと…でも信じてくれるかな…?)
「ん?今何か…」
「浜田?どうかしたのか?」
「いや、森の方で何か動いたような気がしたんだけど」
「…?誰もいないぞ?気のせいじゃないか?」
「……そうだといいけどね」
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