第16話


夕刻。


日が段々と傾いてきて、あたりが暗くなって

くる。


浜辺からは水平線の向こうへ沈みかけている夕陽が映っていた。


そんな中、選ばれなかった半数の生徒たちが、必死になって木と木を擦り合わせて火を起こそうとしている。


だがサバイバル知識に欠けている彼らに正しい火の起こし方などわかるはずもなく、苦戦していた。


「遅いな…」


「おいおい、さっさとしろよ」


「おっそーい。お腹すいたー」


「さっさとしてよねー」


選ばれた生徒たちは、火おこしに苦戦している選ばれなかった生徒たちにそんな文句を垂れている。


「浜田くん!火がついたよ…!」


「浜田…!火がついたぞ…!」


「ん?本当かい?」


そんな中、二人の生徒が立ち上がって浜田の方へ駆け寄ってきた。


男子生徒一人と女子生徒一人。


二人とも火のついた木材を持って浜田へ必死にアピールをする。


「お、俺のほうが早かったぞ浜田!!」


「違う!私よ…!」


二人は言い争いを始め、やがて取っ組み合いの喧嘩に発展する。


「いいぞー」


「やれやれー」


「あははっ。超必死じゃん。ウケるー」


選ばれた生徒たちは、そんな二人を止めるでもなく遠巻きに茶化しながら眺めている。


「や、やめて二人とも!?何してるの!?」


彩音は思わず止めに入ろうとしたが…


「うるせえ!邪魔だ!」


「きゃっ!?」


暴れる男子生徒に吹っ飛ばされる。


「おらあ!」


「あっ!?私の火が!?」


男子生徒はそのまま、女子生徒の火を踏みつけて消してから、浜田の足元へ這いずり、縋りついた。


「ほ、ほら、浜田…!火は俺がつけたぞ…!俺の方が早かったぞ…!これで魚は俺のものだよな!?」


「うぅ…酷い…そんな…」


火を消された女子生徒は倒れたまま泣いているが、男子生徒は目もくれず必死に浜田にアピールしている。


浜田はそんな男子生徒の方をニヤニヤしながら叩いた。


「よくやってくれたね。ありがとう。約束通り魚は君にあげるよ」


「うおっしゃぁあああああ!!!」


ガッツポーズをする男子生徒。


「うぅ…う…」


力で押さえつけられた女子生徒は、嗚咽を漏らして泣いているが誰も手を差し伸べない。


「…最低…男のくせに女の子を力で押さえつけるなんて…」


彩音は魚を獲得した男子生徒を軽蔑の目で見た後、女子生徒の方へ行って手を差し伸べた。


「大丈夫?怪我はない?」


「…島崎さん?」


「ほら,立てる?」


「…っ」


「…?」


「……かないで」


「え?」


「私に近づかないで…!!」


「…っ!?」


突然金切り声を上げた女子生徒に彩音は驚く。


そんな中女子生徒はよろよろと立ち上がって、恨めしげに彩音を見つめた。


「いいよね、島崎さんは、選ばれた側だから」


「へ…?」


「選ばれた側だから……もう魚を食べられることがわかってるから、そうやって私を憐んで、いい子ぶる余裕もあるんだよね」


「…違うっ…いい子ぶるとか私はそんな…」


「もう話しかけてこないで」


「…っ」


ズキリとした痛みが彩音の胸に走る。


女子生徒はそのままトボトボとした歩みで、選ばれなかった生徒たちのところへと戻っていったのだった。




「わっ…すごい…!本当にかかってる…!」


「上手くいったな」


罠にかかった獲物を見て、佐藤が興奮した声をあげる。


夕刻。


昼間に作った罠を見にきた俺たちは、罠に小さな獲物が一匹かかっているのを発見した。


白い一羽のウサギだ。


まさか昨日の今日で罠に獲物がかかるなんてな。


最悪二、三日はキノコで凌ぐつもりだったが……今日は動物性タンパク質を体に取り込めそうだ。


『ぎゅいぎゅい!』


捉えられたウサギは必死に逃げようと鳴き声を上げてもがいている。


俺はそんなウサギの首根っこを、締めるために捕まえる。


「佐藤。もし苦手なら…」


「ううん、私は大丈夫だから」


「そうか」


俺は佐藤の前でウサギを絞めた。


ウサギは脱力し、鳴かなくなった。


「それじゃあ、こいつを拠点に持って帰って焼いて食べるか。十分二人分の夕食になるはずだ」


「う、うん…わかった…!」


拠点というのは初日に俺が作った簡易住居とその周辺のことを指す。


初日に俺が作った簡易住居は……すでに佐藤も一緒に入れるように二人分に拡張してある。


彩音を助け出したらいずれ3人が入れるように拡張するつもりだ。


「帰るか」


「そうだね」


日暮れが近い。


俺は罠で捉えたウサギを持って、佐藤と共に拠点へと戻るのだった。


(彩音のやつ…ちゃんと食事をとっているだろうか…)


そんなことを考えながら…





〜あとがき〜


異世界ファンタジーの新作


『主人公に殺されるゲームの悪役貴族に転生したから死なないために魔法鍛えまくって主人公手懐けてみた』


https://kakuyomu.jp/works/16817330650769517973


が連載中です。


そちらの方もよろしくお願いします。



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