第17話
「美味しいー」
「意外といけるな」
「マジでうめぇ…」
「これ食べられないあいつらは本当に気の毒だな」
夜。
浜辺で生徒たちがキャンプをしていた。
火で炙った魚を、舌鼓を打って食べているのが、浜田と浜田に選ばれた約半数の生徒たち。
二日ぶりのまともな食事に、浜田に選ばれた生徒たちは歓喜の声をあげている。
「クソ…いいなぁ、あいつら…」
「うまそうだなぁ…」
「俺たちはカニとか貝とかで我慢か…」
「こんなんじゃ全然足りねぇよ…」
「痛っ……カニの甲羅が口に刺さった…」
そんな彼らを羨ましそうに見つめるのが選ばれなかった残り半分の生徒たちだ。
彼らは浜田に選ばれた生徒たちのように魚にありつくことはできず、キノコや、蟹、貝などと言った魚介類で腹を満たしていた。
「ん?誰か来たぞ?」
「島崎さんだ」
「何しに来たんだ?」
「魚を食べられない俺たちをおちょくりにでも来たのか?」
そんな中、浜田に選ばれた者たちのところから選ばれなかった者たちの方へ一人の女子生徒が近づいてきた。
島崎彩音だ。
彩音は、選ばれなかった生徒たちに恨みがましい視線を向けられながら、一人の女子生徒の元まで歩いた。
そしてまだ口をつけていない自分の分の魚を彼女に差し出した。
「これ、よかったら食べて…?」
「へ…?」
驚いて顔を上げたのは、先ほど最後の一匹の魚を男子生徒と争って、力で押さえつけられてしまった女子生徒だった。
女子生徒は、彩音が差し出した魚を驚いたような表情で見つめている。
「島崎さん…?」
「あの魚は本来あなたのものになるはずだった」
そう言った彩音が、火をつけたことで最後の魚を浜田からもらった男子生徒を睨みながら言った。
「火をつけたのはあなたの方が早かった。だから……よかったらこれ、食べて?」
「…っ」
女子生徒の喉がごくりとなる。
「い、いいの?」
「うん」
彩音が笑って頷いた。
「で、でも、それじゃあ、島崎さんは何を食べるの…?」
「私は…じゃあ、よかったらそれもらおうかな」
女子生徒の近くにあった貝やキノコを指さして彩音は笑った。
「よかったら交換しない?」
「…っ」
女子生徒が口元を押さえて涙ぐんだ。
「島崎さん…私…あなたにあんな酷いこと言ったのに…どうして…?」
「あんなの全然気にしてないよ。私はただ公平に考えて、この魚はあなたのものになるべきだなって、そう思っただけ」
「…うぅ…島崎さん…」
女子生徒がポロポロと涙を流し、魚を受け取った。
それから潤んだ瞳で彩音を見ながらいった。
「は、半分にしよう?私一人で食べられないよ…二人で食べよう?」
「え、いいの?私のことは気にしないで?一人で食べていいんだよ?」
「ううん。島崎さんと分け合いたいの」
「…!」
彩音は目を見開いて少し驚いた後に、にっこりと微笑んだ。
「そっか。じゃあ、二人で食べよっか」
「うん」
その後、二人は隣同士に座り、炎で魚を焼いて互いに分け合って食べたのだった。
「はぁあ…美味しかったぁ…」
そんな呟きと共に、佐藤が膨らんだお腹をさすった。
その表情は、満足そうに緩んでいる。
「調味料も何もないが……最高だったな」
俺もそんな佐藤に同意して、いっぱいになったお腹をさする。
俺たちの前では、パチパチと炎が燃えていた。
時刻は日がすっかり暮れた頃。
俺と佐藤はちょうど今、昼間に仕掛けた罠で捕まえたウサギ肉を火で炙って食べ終えたところだった。
ただウサギの皮を剥いで、調味料も何もない状態で焼いただけの夕食だったが、人生で一、二を争うほどに美味しく感じた。
空腹は最大の調味料ともいう。
俺たちは二人して,腹一杯まで極上のうさぎ肉を食べ終えた至福のひと時に、ため息を吐いた。
「佐久間くん…?何してるの?」
しばらくして、十分満腹感に浸り切った俺は、火が消えないように適宜木材をくべながら、残ったウサギの死体を処理し始めた。
ウサギの皮は火の中へ、そして骨だけを取り除いて集めている俺に、佐藤が怪訝そうな目を向けてくる。
「これか?これは骨を集めているんだ」
「骨を…?集めてどうするの?」
「釣り針として使う」
「…!そんなことできるの!?」
「出来るぞ」
この無人島の周りの海には、たくさんの魚や魚介類が生息している。
釣りをしない手はない。
元々、罠で獣を捕らえた暁には,こうして釣りをするための針を作るつもりだったのだ。
「すごい…!針を作って魚をとって、食べるってこと?」
「そういうことだ」
「あ、でも、糸とかは…?」
「制服の糸を使う」
俺は近くに脱いで置いてある制服のジャケットを指差した。
「一本だと細いが……いくつか束ねればしっかり魚の引きにも耐えられる強度になるだろ」
「す、すごい……佐久間くんって器用なんだね…いろんなこと知ってるし…」
「…っ」
佐藤が感心したように俺を見つめてくる。
ちなみに現在の佐藤はメガネを外していて美少女モードだ。
俺は美少女の佐藤にキラキラした瞳で見つめられ、ちょっと照れ臭くなりながらも、ウサギの骨から針を作る作業をなんとか続けるのだった。
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