第15話


「あいつら必死に探してるな」


「なんかウケるんですけど」


「そうまでして魚一匹が欲しいのー?」


「まぁ俺たちは浜田に選ばれたからな。ありがたく魚食べるとしようぜ」


浜田が選んだ半数の生徒は、残りの半分の生徒が最後の一匹の魚を食べるために我先にと森の中へ入っていく様子をどこか小馬鹿にするように眺めていた。


浜田に選ばれなかった約半数の生徒たちは、森の中へ入り、木の枝や棒を持ってきて早速擦り合わせて火を起こそうとしている。


「おうおう、俺たちのために頑張れ」


「きゃははっ。めっちゃ必死なんですけどー」


「私たちは誰かが火をつけるのを待つだけだねー」


選ばれた生徒たちは選ばれなかった生徒たちに茶化すような言葉を投げかける。


「同じクラスメイトなのに……食料は分け合うべきなのに…こんな選別するような真似をして…」


この状況に疑問を感じているのは、選ばれた生徒の中で彩音だけのようだった。


浜田が食料を分け合わずに、勝手に魚を食べられる生徒を選別したせいで、クラスは完全に二分してしまった。


おそらくこのまま獲れた魚が半分の生徒の胃袋に収まって仕舞えば、今回選ばれた生徒と選ばれなかった生徒の間の溝は決定的なものになる。


浜田は最初、クラスをまとめ上げるときに協力が大事だと言っていた。


その言葉と、現在の浜田の行動は完全に矛盾していた。


だが、その矛盾を誰も指摘しない。


皆、浜田の一声で追放になるのを恐れているのだ。


「ね、ねぇ…国木田くん?大丈夫?怪我してるみたいだけど何があったの…?」


彩音は見ていられずに浜辺に座り込んでいる国木田に声をかけた。


国木田の足からは血がダラダラと流れている。


傷はかなり深いようだった。


彩音にはすぐに治療が必要に思えた。


「島崎…さん…?」


「何があったの?なんでこんな怪我を…?私たちがいない間にここで何があったの?どうやって魚を取ったの?」


「そ、それは…」


国木田が一瞬チラリと彩音の背後の浜田を見た。


そして開きかけていた口を閉じて俯いた。


「国木田くん?」


「……でもない」


「え?」


「なんでもない!僕のことは放っておいてよ!!」


「…っ!?」


はっきりと拒絶され彩音は戸惑う。


思わず背後の浜田を仰いだ。


「…」


浜田がニヤニヤと彩音を見ている。


彩音は浜田が何か隠していると確信した。


おそらく自分たちがこの浜辺にいない間に何かがあった。


だが国木田くんは浜田くんに何があったのか言わないように口止めをされている。


それがなんなのかを突き止めないと…


「ねぇ、国木田くん。正直に答えて。浜田くんに何かされたの?」


「…っ」


まるで彩音の言葉を肯定するかのように国木田の体が震えた。


「教えて…ね?私が助けるから。力になるから」


「ぼ、僕は…」


国木田が何か仕掛けたその時だった。


「ねぇ、島崎さん」


「さっきから何してるの?」


「え?」


彩音が振り返る。


するとそこにはしかめ面をした女子生徒数人が立ちはだかっていた。


「何してるのって……私は、国木田くんが怪我してるから…助けないとと思って…」


「そんなことしなくていい」


「浜田くんが問題ないって言ってるんだから国木田くんは大丈夫なんだよ」


「え…」


彩音は絶句する。


だが女子生徒たちは自分たちが正しいことを信じて疑っていないような口ぶりで、彩音を攻める。


「クラスの輪を乱さないでよ、島崎さん」


「私たちはリーダーの浜田くんの指示に従わないといけないんだよ?」


「…で、でも」


「何か文句あるの?」


「浜田くんに直接言ったら?」


「…っ」


彩音は言葉につまり浜田の方を見た。


浜田は少し離れたところで、ニヤニヤしながらこのやりとりを観察していた。


「最低……クラスを分断させて……自分がクラスを掌握したいからって…」


彩音は浜田の目的が段々とわかってきた。


浜田はわざとクラスを選別し、分断したのだ。


選ばれたものと選ばれなかったものの二つに。


選ばれた者たちは、浜田に感謝し、忠誠を誓うだろう。


そして選ばれなかった者たちは、選ばれた者たちよりもより浜田に尽くすかもしれない。


自分が選ばれた者たちの側になるために…


それが浜田の目的なのだ。


クラスを分断し、そして統治する。


「…翔ちゃん…早く助けにきて…」


彩音は誰にも聞こえないように、最も信頼できる人物の名前を呟いた。

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