第14話


「浜田くんごめん…遅くなった…!」


「水分補給終わったよ〜」


「浜田くん…すっごいお腹空いたんだけど、魚、とれた…?」


しばらくして、水分補給のために森の中へ入っていた女子たちが浜辺へと戻ってきた。


彼女たちは、自分達が湧き水を飲んでいる間に浜辺で何が起こったのか、一切知らない。


だから地面にうずくまって足から血を流しながら泣いている国木田を見てギョッと驚いた。


「えっ!?」


「何これ!?」


「国木田くん…!?」


「どうしたのその怪我…」


「うぅ…痛い…痛いよぉ…」


国木田は泣きながら助けを求めるように女子たちを見るが、何があったのかを話すことはできない。


近くで浜田が睨みをきかせているからだ。


「やあ、おかえり」


帰ってきた女子たちを浜田が笑顔で出迎える。


「は、浜田くん?」


「何があったの?」


「国木田くん、怪我してるみたいだけど…」


「ああ。あれ?あれなら大丈夫だよ」


浜田はニコニコ笑いながら言った。


「え…大丈夫?」


「いやでも…」


「かなり大怪我なんじゃ…」


「ん?僕が大丈夫って言ってるのに、気になるの?」


「「「…っ」」」


一瞬浜田から鋭い怒気が放たれ、女子たちはびくりと体を震わせる。


「う、ううん…なんでもない…」


「浜田くんが大丈夫っていうなら大丈夫だよね…」


「でしゃばっちゃってごめん…」


浜田と目を合わせられず、俯く女子たち。


「そうか。僕を信じてくれるんだね。よかったよかった」


浜田はニコニコ笑ってから、浜辺の真ん中に集められた魚を指差した。


国木田の血を使って、男子たちに集めさせた魚だった。


「それよりも喜んでくれ。君たちがいない間に僕たち男子で魚をあんなに捕まえたよ」


「ええ!?」


「すごい!!」


「どうやって!?」


驚く女子たち。


ようやくタンパク質でお腹を満たせる。


そんな期待から彼女たちの顔が一気に明るくなる。


「僕たちで協力してとれたんだ。全部で十五匹。残念ながら全員分は取れなかったよ」


「十五匹も…!?」


「たくさん取れたんだね!」


「これなら二人で一匹を食べられるね…!」


「いや、魚を分けたりはしないよ」


女子の誰かが言った言葉を浜田が即座に否定する。


「え…どういうこと?」


「それじゃあ、食べられない人が出てくるんじゃ…」


「うん、そうだね」


浜田は笑顔を崩さずに行った。


「魚は一人一匹ずつだ。でも人数分はない。

魚を食べられない残りの半分の人には……残念だけど、そのほかの魚介類を食べてもらうよ」


「え…」


「そんな…」


「それじゃあ不公平なんじゃ…」


「ん?何か意見があるかな?」


「「「…」」」


一瞬異論がでかけたが、浜田の一言で全員が黙ってしまう。


誰も浜田に目をつけられたくないために、意見ができない状態になっていた。


「何もないならこの案は採用ね。それじゃあ、今から魚を食べられる人間を選んでいくよ」


浜田はそう言って30人弱のクラスの中から15人の魚を食べられる生徒を選んでいく。


「まず僕。リーダーだからね。それから君と君と…君と…」


まず最初に迷わず自分を選ぶ浜田。


その後、期待するように自分を見る生徒たちの中から魚を食べられる人間を選んでいく。


「君と君…それから君もだね」


「よっしゃ」


「やったっ」


選ばれた生徒はガッツポーズを取る。


「…」


「…っ」


逆に浜田にスルーされた生徒は絶望し、落ち込む。


「君も食べていいよ…それから君も…」


一見浜田は無作為に選んでいるように見えるが、明らかにそこには浜田の忖度が介在していた。


まず選ばれたのが、浜田の取り巻きの男たちだ。


浜田のこの島での権力は、力ある運動部の男子を取り巻きとして侍らせていることが大きい。


だから彼らを蔑ろにすることは出来ないという判断だった。


そんな取り巻きの男子生徒たちの次に選ばれたのが、いわゆるクラスの一軍と呼ばれる集団に属していた容姿の整った女生徒たちだ。


浜田は綺麗どころを次々に指差して選んでいき、容姿の整っていない女子生徒は一人も選ばれなかった。


「この選び方…」


「そんな…こんなのって…」


一瞬浜田のわかりやすい選び方に不満がでかけるが…


「ん?何かな?」


「「…っ」」


人睨みきかされた女子たちは途端に黙ってしまう。


浜田に逆らいクラスから追放されることを恐れたのだ。


「それから、最後に島崎さんも」


「え、私!?」


そして最後に名前を呼ばれたのが、彩音だった。


一番驚いたのは彩音自身だった。


自分は一度追放された翔太を庇って浜田に目をつけられている。


だからこの場では絶対に魚を食べられる半分には選ばれないと思っていたのだ。


「なんで私が…?」


「僕が決めたんだ。君も魚を食べるべき人間だよ」


「…っ」


そう言った浜田が一瞬、物色するように彩音を見て暗く笑った。


彩音は何かおかんのようなものが背筋を撫でるのを感じた。


「は、浜田くん…」


「ん?何?」


最後に彩音が選ばれた後、選ばれなかった生徒のうちの一人が浜田の名前を呼んだ。


「ま、まだ14人しか選んでないよ?魚は十五匹いるんじゃ…」


「そうだね。でもミスじゃないよ。これはわざとだ」


「わ、わざと…?」


「残り一匹は、この中から火を起こすことが出来た生徒にあげようと思ってね」


「火を…?」


「うん。魚を焼くための火だよ。流石に生のまま食べるわけにはいかないからね。魚を食べるための火を起こした生徒には、この最後の魚を食べられる権利をあげるよ」


「「「…」」」


選ばれなかった生徒たちが一瞬互いに顔を見合わせた。


「ほら、早く。早いものがちだよ?」


「「「…!」」」


そして次の瞬間には,我先にと森の中へと走っていった。


「頑張ってねー」


浜田はそんな生徒たちを見送りながら、ニヤリとほくそ笑んだ。

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