第7話
「さて、佐藤さんのおかげでこの茶色いキノコは食べられないことがわかったね…それじゃあ、次はこの赤い方のキノコを確かめようか」
浜田がそういって、赤いキノコの山を指差した。
生徒たちが見つけてきたキノコは主に二種類。
先ほど佐藤が口にした茶色いキノコと、その他の赤いキノコである。
「さて、今度は誰に味見してもらおうかな。
一応聞くけど立候補とかある?」
浜田がクラスメイトたちをぐるりと見渡した。
さっと皆が浜田から目を逸らす。
明らかに毒々しい色の赤いキノコを食べたいものなど誰もいなかった。
「誰も立候補はいないか…みんな遠慮してるね。じゃあ、僕が選んじゃうね」
浜田はクラスメイトたちを一人一人眺めていく。
「…っ」
「…!?」
「…」
浜田の視線が自分に巡ってきた生徒たちは、ビクッと体を震わせたり、俯いたり、手を合わせたりしている。
そんな中、浜田が一人の男子生徒に目をつけた。
「うん。じゃあ赤いキノコの味見は君にお願いしようかな」
「え…あ…あぁ…」
メガネをかけた低身長のその男子生徒の名前は、国木田光雄といった。
国木田は、佐藤と同じでクラスで孤立気味の男子生徒だった。
いわゆる根暗、陰キャと呼ばれるようなタイプの人間であり、コミュ障で他人に対して常にオドオドしている。
浜田が彼を指名した理由は佐藤の時と同じだった。
佐藤や国木田のように、友人のほとんどいない存在を犠牲にすることで、クラスの反発を避けたかったのだ。
下手に人望がある人物を選んでしまうと、その人物を好きな生徒の反発をかい、リーダーの地位が危うくなる。
浜田は、味方の少ないクラスで孤立気味の二人を故意に狙い撃ちしたのだった。
「良かったぁ…」
「俺じゃなかった…」
「私じゃなくて安心した…」
「国木田ならまあいいか…」
「国木田くんならまぁ…」
浜田に指名されなかった生徒たちがほっと胸を撫で下ろす中、顔を真っ青にした国木田が浜田と他のクラスメイトたちを交互に見た。
「じじ、自分ですか!?な、なんで自分
が…」
「この役は君が適任だと僕が判断したからだよ」
「きょ、拒否権は…」
「え?僕の命令が聞けないの?」
「…っ!?」
冷たい目で浜田に睨まれた国木田は身をすくめる。
「別に拒否してもいいけど……その時は君はこのクラスの輪を見出したってことになるけど、それでもいいかな?」
「た、食べます…」
国木田は、翔太のようにこの無人島で追放されて一人で餓死するよりはマシだと考えて、キノコを食べることを選択した。
「…っ」
恐る恐る赤いキノコを手にして、みるからに毒を含んでいそうなそのキノコを口にした。
「…もぐもぐ…ごくん…」
「ちゃんと食べたかい?」
「…っ」
こくこくと頷く国木田。
キノコを咀嚼した時の彼の口の中に広がった味は、ピリリとした刺激的なものだった。
苦くてあまり美味しくない。
もしかしたらこのキノコも毒キノコなのではないか、しばらくすると自分も佐藤と同じ運命と辿るのではないかと国木田は心配する。
「それじゃあ、少し待ってみようか」
「…お願いします…毒キノコじゃありませんように…お願いします…」
クラスメイトたちにジロジロと観察される中、国木田は両手を合わせてひたすら祈るようにそう呟くのだった。
「よかった…本当によかった…!」
それからしばらくして。
そこには、なんの異常も来さずにピンピンしている国木田の姿があった。
意外や意外、見るからに毒々しい色の赤いキノコの方が実は毒を含んでいなかったのだ。
「へー、こっちが食べられる方なのか」
国木田を犠牲にして毒味を完了させた浜田は、意外だと言うようにそう呟いてから、無事だったことに涙を流している国木田の頭を撫でた。
「ありがとう、国木田くん!君のおかげでみんなが助かったよ。さあ、赤いキノコを食べようか」
「…!」
「国木田くん?」
「あ、あの…じ、じぶん、浜田さんの役に立ちたいです…!」
「ん?」
「浜田さんの命令になんでも従います…だから、その、つ、追放だけは…仲間外れだけは…」
国木田は恐怖のあまり、生存本能で浜田に媚を売ってしまった。
現状、この無人島においていちばんの権力者は浜田だ。
毒味を成功させたこの機会に、国木田は浜田に媚びていつも彼の周りにいる取り巻きたちのようなポジションになれないかと考えたのだ。
「顔を上げて、国木田くん。僕はそんな酷いことしないよ」
「浜田くん…?」
浜田は縋るような目を向けてくる国木田に、にっこりと笑いかけながら言った。
「きみは僕の命令をちゃんと聞いてクラスの輪を乱さなかった。これからも……期待してるよ?」
「…!任せてよ浜田くん!自分にできることがあればなんでもするから」
「うん、ありがとう!」
ニコニコと笑う浜田に、国木田はこれで浜田に気に入られることができた、自分は安泰だと勘違いをしてしまった。
実際には、浜田は従順になった国木田を利用することしか考えていなかった。
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