第6話


「さて、邪魔者を追放したことだし、海岸に戻ろうか。水はみんな喉が渇いた時に好きに飲んでいいからね。ただし、僕に報告すること。いいね?」


「「「はぁーい」」」


「「「了解だぜ浜田」」」


「うん、よろしい」


従順なクラスメイトたちに浜田は笑顔を浮かべながら内心ほくそ笑む。


翔太と彩音の二人が見つけた湧き水スポットを自分が見つけたことにしてクラスメイトたちの心を掴むことに成功した。


これで自分のこのクラスでのリーダー的立ち位置はほとんど確立されたと言っていいだろう。


「ふふふ…」


浜田はクラスメイトたちを先導して海岸に戻りながら、暗い笑みを漏らした。


一行は、間も無く元の海岸へと戻ってきた。


「さて、喉を潤したことだし、早速集めた食料をみんなで食べることにしよう」


浜田はクラスメイトたちを見渡しながらそういった。


「集めた食料はどこかな?」


「ここだぜ、浜田」


一人の男子生徒が近くの岩の上を指差した。


そこに、生徒たちが森や海の中で撮ってきたキノコや魚介類などが集めてあった。


「…これだけかよ。使えないな。役立たずどもが」


そのあまりに少なすぎる量を見た浜田は誰にも聞こえないようにボソリと呟いた。


生徒たちが全員で手分けして探した食料は、どう見ても全員分には達していなかった。


集めた食料全てが食べられるとしても、せいぜい十人分ぐらいだろう。


浜田は思わず舌打ちをして愚痴をこぼしそうになったが、グッと堪えて笑顔を作った。


「こんなに集めてくれたんだ!ありがとうみんな!」


食糧探しをしていた生徒たちをひとしきり褒めた後、浜田は特に一番多く集まったキノコ類を見ながら言った。


「でもこれ全部が食べられるとは限らないよね…?もしかしたらお腹を壊すかもしれないし…うーん…」


浜田はクラスメイトたちを見渡した。


それから一人の女子に目をつけて、指差した。


「君でいいや」


「え、私…?」


指を刺された生徒は戸惑う。


そのおかっぱあたまの地味な少女の名前は佐藤恵と言った。


佐藤は本が好きな根暗な少女で、友達が少なく、いつも教室の端っこで本ばかり読んでいるような、いわゆるクラスで孤立した女子だった。


浜田は庇う立場の人間が周りにいない佐藤をわざと狙い撃ちにしたのだ。


キノコが食べられるかどうかを判断するための『毒味係』として。


「佐藤さん。君に頼みたいことがあるんだ」


浜田はにっこりとした笑みを佐藤に向けた。


「え、えっと…何かな…?」


佐藤がビクビクしながら浜田を見上げる。


浜田は至極当然と言うように佐藤に命令した。


「君がこのキノコを食べてみるんだ。いわば、味見係というやつだね」


「え……ええっ!?」


その言葉の意味を理解し、佐藤が怯える。


味見係、といえば聞こえはいいがはっきりと言ってこれは毒味係だった。


浜田は自分を犠牲にして、この集められたキノコが食べられるかどうかを確認しようとしている。


そのことを佐藤は理解してしまった。


「いや、な、なんで私が…!?」


当然佐藤は嫌がり、断ろうとした。


だが、浜田にガシッと腕を掴まれてしまう。


「リーダーである僕の命令が聞けないの?」


「ひっ…!?」


「佐藤さん。もしかして君もこのクラスの輪を乱すの…?佐久間くんみたいに」


「〜〜〜っ」


それは言外に、命令に従わなければ追放すると言っているようなものだった。


佐藤は震える手で恐る恐るキノコを手に取った。


そのキノコは、見た目は椎茸のような茶色い色でぱっと見毒があるようには見えない。


「大丈夫…きっと大丈夫…」


佐藤は自分にそう言い聞かせ、思い切ってそのキノコを口に含んだ。


「んっ、んっ……ごくっ…」


「食べたかい?」


「う、うん…」


「そうかい。味はどんな感じかな?」


「ふ、普通…?ちょっと土っぽいような気がする…」


「そうかい」


浜田はにっこりと笑っていった。


「念の為、もう少し待ってみようか。大丈夫そうならみんなでこのキノコを分けて食べることにしよう」


そう言った浜田は、まるでモルモットでもみるような目で佐藤を見てきたのだった。



「うぐっ…うぇえええ…おげぇええええ…!」


それから数時間後。


そこには、地面に悶え、苦しみながら胃の中のものを吐き出している佐藤の姿があった。


彼らが集めたキノコには毒があり、食べられるものではなかったのだ。


それを口にして飲み込んでしまった佐藤は現在、こうして全身に血管を浮き立たせながら苦しんでいた。


「うわ、マジかよ…」


「汚ねぇ…」


「おいおい佐藤。大丈夫か?」


男子たちは半分冷やかしのような、面白いものを見るような目で佐藤を見ている。


「だ、誰か助けてあげなよー…」


「あんたが生きなさいよ」


「うわー…佐藤さんすっごい吐いてる。苦しそー」


「やっぱり毒キノコだったんだねー…食べなくて良かったー」


女子たちは、気の毒だ、可哀想だと口に出しながらも、誰も佐藤の元に駆け寄ったりするものはいなかった。


「うげぇええ…だ、誰か…助けて…」


苦しみに悶えている佐藤は、クラスメイトたちに向かって手を伸ばす。


だが、その手を取るものはいない。


「うーん、ダメだったかぁ…残念だなぁ」


浜田は苦しむ佐藤を、実験体をみるような目で見下ろしながら、集めたキノコの半分を踏みつけて地面に捨てた。


「みんな。残念だけど一番多く集まったこの茶色いやつは毒があるみたいだ。食べるのはやめておこう」


そう言った浜田は、次にいつも自分の周りにいる取り巻きの男たちを近くに呼び寄せた。


「君たちに仕事を頼みたい」


「「「…?」」」


「佐藤さんを森の中に捨ててこい」


「…!?」


「いいのか…?」


「マジで…?」


少し驚く彼らに浜田は特になんの感情も浮かんでなさそうな済ました表情で言った。


「別にいいだろ。どうせあの様子だと助かりそうにないし…口減しにもなって一石二鳥だ」


「わ、わかった」


「了解」


「可哀想だが、みんなが生き残るための犠牲だもんな」


取り巻きの男たちは多少罪悪感に駆られながらも、皆のためだと自分に言い聞かせて、佐藤の体を運び出す。


「いやっ……誰かっ…だずげで…」


引きずられていく佐藤が涙声で助けを呼ぶが、誰も手を差し伸べるものはいない。


浜田が引きずられていく佐藤を呆然と眺めているクラスメイトたちに行った。


「みんな安心して。佐藤さんには森の中で休んでもらうことにした。彼女のおかげで、この茶色いキノコは食べられないことがわかったね。これは大きな進展だよ!」


まるで自分の功績だと言わんばかりに浜田は信じられないほど明るい声でそう言ったのだった。

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