第5話


「佐久間くんは僕が見つけた飲み水を自分が見つけたって主張して僕の功績を横取りしようとした。これは決して見逃せる行為ではないよね」


「違う。先に見つけたのは俺だ。俺と彩音を尾行して功績を奪ったのはお前だろ。浜田」


濡れ衣を着せてくる浜田に俺は堂々と言い返す。


だが、クラスメイトたちはどうやら完全に浜田の言葉を信用してしまっているようだった。


「ふざけるなよ佐久間」


「浜田くんの功績を横取りしようとしないでよ!」


「これ以上輪を乱すなよ佐久間!」


「佐久間お前いい加減にしろよ」


「…っ」


あちこちから俺に集まる非難の声。


誰も俺の言葉に耳を傾けてくれる生徒はいなかった。


「良かった。みんなは僕と佐久間くん、どっちが正しいかちゃんとわかっているみたいだね。安心したよ」


浜田が俺をせせら笑いながらそんなことを言う。


「当たり前だろ」


「この水は浜田が俺たちのために探してくれたんだ」


「佐久間なわけがない」


「きっと佐久間は浜田が羨ましくて嘘をついたんだ。そうに決まってる」


浜田の周りに普段集まっている取り巻きたちが浜田を援護する。


そしてますます浜田だけが正しいという空気が醸成されていく。


「違うよみんな…!浜田くんは嘘をついてるの…!この水は私と翔ちゃんで見つけた

の…!お願いみんな信じて!」


ただ一人、彩音だけは必死にそう訴えているが、誰も耳を貸さない。


この状況から本当のことを彼らに理解させるのは不可能だ。


悔しいが、俺は完全に浜田にしてやられてしまった。


「みんな聞いてほしい。佐久間くんが僕たちの輪を乱そうとしたのはこれで二度目だ。僕たちは今、この無人島に置き去りにされて命の危機にさらされている。そんな時に、佐久間くんみたいに簡単に嘘をついたりして輪を乱すような奴が仲間内にいるのは命取りになると思うんだ。そうだよね?」


「浜田の言う通りだ!」


「佐久間は俺たちの仲間じゃない!」


「佐久間は裏切り者だ!」


あちこちから俺への罵倒が飛んでくる。


俺を庇う彩音の声は当然のようにかき消される。


「みんなが僕と同じ意見で安心したよ。僕は佐久間くんは放っておくといつ僕たちを裏切るかわからない危険な人だと思う。だから……僕は佐久間くんをこのクラスから追放しようと思う。いいかな?」


「賛成!」


「佐久間は追放だ!」


「消えろ佐久間!この裏切り者!」


「あんたなんか海に流されてそのまま死ねば良かったのよ!」


追放!追放!と追放コールが生徒たちの間で湧き起こってしまう。


「…」


俺はもはや言葉すら発することは出来なかっ

た。


こうなった以上何を言っても無駄だとわかったからだ。


「そう言うわけだ、佐久間くん」


浜田が勝ち誇ったような顔で俺に言った。


「君はクラスの意思で追放処分になった。もう君とは一緒に行動できない。二度と僕たちの前に姿を現さないでくれるかな?」


「…ああ、わかったよ」


ここで逆らうと何をされるかわからない。


そう思った俺は、一旦素直に浜田に従っておくことにした。




「やれやれ…酷い目にあった」


それから数時間後。


俺はたった一人で無人島の森の中を歩いていた。


俺は浜田の策略に嵌められ、まんまとクラスを追放された。


だが、決してこの状況を悲観ばかりしていない。


むしろこれからはなんのしがらみもなく自由に行動できるので良かったぐらいだ。


幸い、俺には昔あることがきっかけで蓄えたサバイバル知識がある。


一人で森の中で過ごすことになったからといってそう簡単に飢え死にしたりとかはしないはずだ。


「彩音のやつ…大丈夫だろうか…」


浜田だちがいる海岸からどんどん離れながら、俺は残してきた彩音のことを思う。


「みんなこんなのおかしいよ!追放だなんて……お願い。浜田くん!翔ちゃんを追放しないで!」


皆が俺の追放に賛成する中、幼馴染の彩音だけは反対して俺を庇ってくれた。


だが、俺は彩音まで巻き込む必要はないと思っていた。


浜田の標的になるのは俺だけでいい。


そう思ったので、あの場では彩音に俺を庇うのをやめさせた。


「いいんだ彩音…今一旦俺はここを離れる。だが、生活基盤を築いたら必ず迎えにくる。それまでお前は波風立てずにクラスの奴らと行動するんだ」


「翔ちゃん…?本当に大丈夫なの?」


「ああ。俺は一人でも大丈夫だ。俺を庇いすぎるとお前の立場まで危うくなる。お前が浜田に狙われたら俺は守ってやれない」


「わ、わかった……翔ちゃん。じゃあ一旦ここでお別れだね」


「ああ。そうなるな」


「絶対、絶対死なないでよ…?約束だからね?」


「ああ、約束だ。俺は死なないよ。森の中で生活基盤を気づいたら必ず迎えにくるから」


「うん…待ってるね」


別れ際、確か彩音とはそんな会話をしたように思う。


その後、俺は追放となり、彩音はクラスに残った。


彩音は俺と違って、可愛いし人当たりもいいから、慕っているものも多い。


だから、多少俺を庇ったぐらいのことで酷い目に遭うことはないと思う。


「さて…まずは水の確保からだな」


十分クラスメイトたちがいる海岸から離れたと判断した俺は、再び飲み水探しを始める。


俺と彩音で探した湧き水スポットは今後はまだたちが使うだろうから使えない。


追放された俺がこれから森の中で暮らすには新たな湧き水スポットを探す必要がある。


「あそこ一つだけってことはないはずだ。早いところ湧き水の出る場所を探してそこを拠点に生活基盤を気づいていくとするか」


数年前、あることをきっかけに無駄に集めまくっていたサバイバル知識が、まさかこんなところで役に立つとはな。


「ノートとかも作ってたっけ…俺のサバイバル日記とか言って……はは。あんなの黒歴史でしかないと思っていたが、まさかあの時集めた知識が自分の命を救うことになるなんてな」


人生何があるのかわからない。


そんなことを思いながら、俺は飲み水を探して辺りを練り歩くのだった。

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