第4話
「はぁ…マジで喉が渇いた…」
「もう無理…動けない…」
「やっぱり水を探した方が良かったんだよ…」
「どうしよう…今からでも浜田くんを説得する…?」
「お、俺は嫌だぜ……浜田の不幸をかってこの無人島で仲間外れにでもされたら…」
浜田の指示で食糧を探していた生徒たちの体力は限界に近づきつつあった。
照りつける太陽に加えて悪戯に動き回り体力を消耗したせいで、彼らの喉は急速に渇いてしまった。
やはり最初に水を探した方が良かったと今更ながら気付いたがもう遅い。
誰かが浜田に水を探した方がいいと進言すべきなのはわかっているが、誰もリーダー格の浜田の不幸を買いたくなくてその役を譲り合っている。
しかもかんじんの浜田の姿が見えない。
「私たちどうしたら…」
「俺たちこのまま渇いて死ぬのか…?」
生徒たちが絶望しかけたその時だった。
「みんな…!向こうで飲み水を見つけてきたぞ…!」
そんな声が海岸に響いた。
「えっ!?」
「嘘…!?」
「本当に!?」
絶望しかけていた生徒たちが一斉にそちらの方を向いた。
「よし、もうすぐでみんなのところに戻れるぞ」
「早く知らせてあげないと……みんな喉が渇いて苦しんでるかもしれない」
「そうだな」
水を飲めるスポットを発見した俺と彩音は急いできた道を引き返していた。
それは、もうすぐでクラスメイトたちのいる海岸に辿り着こうという時だった。
「みんな…!向こうで飲み水を見つけてきたぞ…!」
「「えっ…!?」」
前方からそんな声が聞こえてきた。
俺と彩音は顔を見合わせる。
「今の…」
「浜田の声だったな…」
「どう言うこと?」
「彩音…俺たちはしてやられたかもしれない…」
先ほどから近くに感じていた気配。
まさかあいつのものだったんじゃ…
だとしたら俺たちはまんまと浜田にしてやられたことになる。
「まずいぞ……飲み水発見の手柄をあいつに横取りされるかもしれない…」
「どう言うこと!?」
「俺たちはあいつに尾行されていたん
だ…!」
「…!」
彩音が大きく目を見開く。
俺は彩音の手を引いて走り出す。
「とにかく急ごう。遅れれば遅れるほど不利になる」
「わ、わかった…!」
俺と彩音は急いで走って海岸へと戻った。
だが、遅かった。
そこでは浜田が皆の称賛を受けていた。
「僕一人で森の中に入ってみんなのために飲み水が見つかるスポットを探していたんだ…!そしたら大きな岩から湧き出る湧き水を発見したよ」
「すごい…!」
「流石浜田くん!」
「頼りになるぜ!」
「私たちもう喉がカラカラだったの…!」
「待たせちゃってごめんね、みんな。みんなに食糧を探してもらってたのは、飲み水の確保はリーダーである僕が責任を持って行う必要があると思ったからなんだ」
「マジかよ浜田!お前どんだけ優しいんだよ!」
「流石だよ浜田くん!やっぱり私たちのリーダーは浜田くんしかいないよ!」
浜田はどうやらすでに飲み水発見の功績を自分のものとして吹聴しているようだった。
生徒たちは完全に浜田の言葉を信じて、浜田に盲信するような目を向けている。
「浜田!てめぇ…!」
俺は思わず浜田に詰め寄ってその胸ぐらを掴んでいた。
「やりやがったな…!汚いぞ!俺と彩音の功績を横取りするな…!」
浜田がニヤリと笑った。
「功績?一体なんの話だい?」
「…っ」
その浜田の勝ち誇ったような表情を見て俺は確信する。
やっぱりこいつは俺と彩音の後をつけてやがったんだ。
そして自分の求心力を高めるために、飲み水発見の功績を横取りしやがったんだ。
「みんな聞いてくれ!飲み水を発見したのはこいつじゃない。俺と彩音なんだ!」
俺はみんなに訴えかける。
だが、みんなは何言ってんの?と言う顔で俺を見ていた。
どうやら先に飲み水を見つけたと言い出した浜田の言葉を完全に信じているようだ。
「急にどうした佐久間」
「飲み水を見つけたのは浜田だろ?」
「人の功績を横取りするのは良くないんじゃないか?」
「輪を乱さないでよ佐久間」
「…っ」
くそ、迂闊だった。
完全に浜田にしてやられた。
今や俺たちの方が、浜田の功績を横取りしようとする悪者になってしまった。
浜田がニヤニヤしながら俺を見た。
「よくないねぇ、佐久間くぅん。僕の功績を言いがかりで横取りしようとするなんて……君は本当に輪を乱すばかりで邪魔な存在だねぇ?もちろん償いはしてもらうよ?」
「…っ」
ニヤニヤしながらそんなことを言う浜田に、俺は何も言い返すことができなかった。
「ぷはぁあああ…!」
「生き返るうぅうう…」
「ただの水がこんなに美味しく感じたの初めて…」
その後、浜田はドヤ顔でクラスメイトたちを率いて森の中を歩き、俺たちが見つけた湧き水スポットに彼らを導いた。
生徒たちは俺と彩音が発見した湧き水で大いに渇いた喉を潤し、そして功績を横取りした浜田に感謝していた。
「本当にありがとう、浜田くん!」
「お前のおかげで助かったぜ…!」
「やっぱりお前が俺たちのリーダーだ!浜田!!」
「うん、そうだね。ありがとう」
浜田は皆に持ち上げられて満更でもなさそうだ。
「クソ…迂闊だった…」
「最低…浜田くんこんな人だったなんて…」
俺は完全に浜田にしてやられたことに歯噛みをし、そして彩音は浜田のクズさ加減に呆然としていた。
「さて、みんな水分補給は済んだかな?」
「おう、バッチリだぜ」
「ありがとう浜田くん」
「うん、そうか。良かった良かった。それじゃあ、みんなでこれから重要なことを話し合おうか」
「重要なこと?」
「なになに?」
「うん、それはね…」
浜田が俺を見てニヤリと笑った。
俺はものすごく嫌な予感がした。
「僕の功績を横取りしようとした佐久間くんをどう処分するかってことだよ」
俺の嫌な予感は的中した。
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