鬼を討つ者 シリーズ

零ノ陣

【鬼を討つ者 セツナ組み合わせ版】


・キャラクター

主人公

・セツナ(幼少期)

 8歳。元気いっぱい、好奇心旺盛。


・澪

 名は澪と言う漢字をもって「ミオ

 心優しい青年の外観を持つが、歳は凡そ50。

 刀の腕は確かで鬼人。もとは虚の里で里長を務めていた。


・妲己

 セツナと祖父(澪)の世話役。元、虚の里第三番隊隊長。歳は20。

 胸が大きく、血のように赤い髪が特徴。

 ヤンデレ気質の持ち主。


男1、2、3,4など

 虚の里に居た者たち。


・あらすじ・

 幕末。人の世に鬼が跋扈している時代。

 セツナは、かつてあった虚の里長である澪と妲己。里の強者たちと一緒に過ごし、育てられていった。

 皆が鬼人の中、たった一人の人間であるセツナだったが、幼さ故に順応していく。 

 しかし、ある日を境に澪たちは忽然と姿を消した。

 一人残されたセツナは、皆を探しに一人旅に出ていったのだった。

 16歳に成る頃。夜空の下で寝ていたセツナは、鬼灯の里に所属する鬼人に保護されることに。だが、持っていた刀が虚の里に伝わる処刑刀だったことから、セツナは無実の罪を着せられ拘束されることに――


 これは、セツナが紡いだ物語。

 家族を見つけるために、子供が旅をした軌跡の物語。












〇ある屋敷。朝。

SE:足取りがゆっくりな足音。

澪「セツナ~」

澪「おーい、セツナ~!」

澪「……何処に行った? 庭か?」

SE:引き戸(スライドドア)の音。

澪「ここに居たか、セツナ、飯が出来たぞ」

セツナ「《何かを見つめている感じ》……」

澪「セツナ? おーい? セツナ? こら、聞いてっか?」

セツナ「あっ! 祖父、祖父! 鳥が来た! スズメ? それとも、ウグイス?」

SE:鳥の鳴く声(メジロ)、しばらくずっと鳴く。

澪「あぁ? ……ありゃ、目白メジロだ」

セツナ「へぇ! 祖父、すごいね! 見てないのにわかるの?」

澪「そりゃそうさ。鳴き声をきぃてみぃや」

セツナ「声?」

澪「あぁ、チーチー鳴くだろう? そりゃ、目白の特徴的な声じゃ」

SE:メジロの鳴き声。

セツナ「っ!! 祖父、本当にチーチー鳴いてる! すごいね!」

祖父「ふはは……、だろうよ。……セツナ、目白を飼ってみるか?」

セツナ「えっ!? 飼ってもいいの!? セツナ、育ててみたい!!」

澪「おいおい。そんなに木の下で飛び跳ねて動くと鳥が逃げちまうって……よっこらせと」

SE:庭を歩く音(片足が不自由な音があると良し)。

セツナ「祖父、どうやって目白を捕まえるの? 籠、ないよ?」

澪「あぁ~? たしかに、まだ無かったな」

SE:腕を上げる音。鞘に納められた刀の音。

澪「《小声》……。これくらいの力なら。気絶させられるだろう」

セツナ「……? 祖父? 刀、どうするの?」

澪「あぁ、セツナ。目白の真下に居ると良い」

澪「目白がお前に飼われたいと、降りてくるだろうさ」

セツナ「わ、わかった! セツナ、下に行く!!」

SE:子供が走る音。

澪「……穢れを知らず、星々が浮かぶ夜空をそのまま封じ込めたような輝きを持つ蒼 

い瞳。黒色(こくしょく)の髪は、着ている小袖が良く似合う。背丈も年相応だな」

澪「……大きくなったなぁ」

セツナ「祖父~! この辺で良い!? ここなら、ちゃんと鳥さん来てくれるかな!?」

澪「ははは。そんな騒ぐと目白が飛んじまうっての。……おーし。いくでぇ……ふん!!」

SE:刀を振るう音。空気を打つ音。

SE:鳥の鳴く声、終了。落下音。

セツナ「わわっ!! 本当に目白が、落ちてきた!!」

澪「おしおし。良く捕まえたな。はは、お前のことが好きなのか、震えておるなぁ」

セツナ「《頭を撫でられて嬉しい》えへへ」

セツナ「祖父はすごいね! なんでもわかるんだもの。セツナには、まだ無理だなぁ」

澪「《乾いた笑み》……はは。五十年。長く生きてりゃあ、わかるってもんさ」

セツナ「んー。セツナも、祖父くらい生きればわかるかなぁ」

澪「はは。わかるさ。いつか、な。で、そいつの名前どうするよ」

セツナ「……んー。目が白いから、白目シロメがいい!!」

澪「っは。目白の白目か。…………ややこいなぁ」

SE:ダンっと、壁を叩く音。

澪「おっと、いっけねぇ」

妲己「こらぁ、里長? セツナを呼びに行くうから、任せたんに」

妲己「なんであんたまで一緒になって庭に立っとるん?」

澪「やぁやぁ。俺はもう、里長じゃあ、ねぇぞ。妲己姫」

セツナ「さとおさ?」

澪「それに、セツナが混乱しちょる。この子の前では、祖父って呼んでくれやぁ」

妲己「《澪をからかうように》はいはい。ほらぁセツナ。おじいちゃんと一緒にこっちにおいでぇ」

妲己「ご飯が出来とる。他のみんなが、腹空かして待っとるけんなぁ」

セツナ「うん! ご飯、食べたい!」

SE:子供が走る音。

澪「ははは。妲己姫や。俺を怒らせん方がいいぞ?」

妲己「あんらやだわぁ。わっちにそんなつもりはありません? ただ、ただ、祖父と孫と言えば、そうかなと。思っただけです~」

セツナ「今日のご飯はダキが作ったの?」

妲己「うんうん。せやでぇ、わっちが作ったんよぉ」

セツナ「なら、美味しいね!! 祖父のご飯、いっつも炭みたいで不味いんだもん!!」

妲己「《笑う》ぷはっ! セツナ、そんなこと言ったらアカンて……。み、澪が。祖父が、震えちょる…………」

澪「こぉら、セツナ!! 人が作ったもん炭言うな!!」

SE:縁側から家の中に入る音。畳を走る音。

妲己「《笑いを堪える》せやでぇ、セツナ。そないなこと言ったら……って、こらぁ!」

妲己「よう見たら、まぁた素足で庭に出て!! そのまま畳の上を走らんのぉ!! おじいちゃん、しっかりしつけなさいな。全くもう!!」

SE:大人が、子供を追いかける音。

セツナ「わー! 鬼ごっこ!? 良いよ、やる~!」

妲己「違うわ! んっもう! 誰に似てこんなにすばしっこいのやら……!!」

SE:大人が、子供を追いかける音。

セツナ「あははは! 楽しい~!」

妲己「こぉっらセツナ! 誰が掃除すると思ってんねん! はよ、止まりんしゃい!」

澪「……はは、仲がいいもんじゃなぁ」

SE:庭を歩く音(片足が不自由な音があると良し)。

妲己「っしゃ、捕まえたぁ! こぉら、わっちが足の裏を擦り綺麗にしちゃる!」

セツナ「わ~! ご、ごめ……ん、なさっい! あはは。あっははは!!」

セツナ「くすぐ、ったい! あははは!!」

妲己「全く! とことん綺麗にしちゃるんだから! あら?」

妲己「手に持っているのは、目白かい? ……なんか、震えちょるが~」

セツナ「そう! 目白だよ! 祖父が捕まえてくれたんだ! 名前はねぇ、白目(シロメ)!」

妲己「……目白の……シロメ……? 名前は、誰が考えたんだい?」

セツナ「セツナだよ! セツナが考えたの! 可愛いでしょ!?」

妲己「……せやなぁ。わっちも良い名前だと思うわ~」

セツナ「でしょう!! えへへ」

SE:子供が走り始める。

妲己「あっ! セツナ、まだきちんと拭けてないんよ~! 」

SE:縁側に腰を下ろす音。

澪「よっこらせ……妲己姫」

妲己「なんです~? わっち今、セツナを追いかけないといけんのにぃ」

澪「……俺の分の布巾も頼むわぁ」

妲己「あぁ~!? なんであんたも裸足で庭に出るんよぉ!!」

妲己「毎度毎度畳を綺麗に掃除してる身にもなって欲しいわぁ、もう!!」

澪「んなははは。すまんのぉ」

妲己「もう! 一年前まで鬼神きしんと呼ばれていた面影は!」

妲己「麗しく、歪で、儚いあなたは何処へ行ったんでしょうかねぇ」

妲己「今持って来ますからぁ、そこで待っててください」

SE:人が離れていく音。

澪「あいよぉ。ゆっくり頼むわぁ」

SE:心地よい風や草木の音。

澪「…………どぉにも。力が入りすぎちょるのぉ」

SE:拳を握る音。

澪「もう、時間がないんかねぇ…………はぁ」

澪「ははっ。吐く息が白いときたもんだ……」

SE:ざわつく草木。

澪「………祖父。祖父ねぇ。…………はは。苦しい言い訳だったなぁ」

SE:近づいてくる足音。

妲己「……今更ですぅ? わっちも、里長も普通の人間じゃない。鬼を喰うとるんだから」

澪「…………実際、年齢を考えれば祖父なのは間違いねぇだろぃ?」

SE:膝を着く音。

妲己「普通の人間は五十年も生きてれば、腰が曲がりますぅ」

澪「オレだって脚が悪い。年相応だろうさ」

妲己「はいはい。そんな足の悪いおじいさんの足を拭いちゃるから、足上げてくださいな」

澪「あいあい、すまんなぁ。妲己姫」

 




〇別日、庭。昼

セツナ「祖父ー! なんで急に剣術の稽古をするのー!」

澪「いいかぁ、セツナ。今の時代、剣術の腕が立つ人間はなぁ」

セツナ「うん!」

澪「どうにか生きていけるもんだ。だから教えてやる」

セツナ「本当!? やったぁ! セツナ、頑張る!!」

澪「ふははは。その意気だな」

澪「だが、セツナ。忘れるな。オレが教えるのは、身を守るためのものだ」

セツナ「身を、守るため?」

澪「そうだ。誰にも。お前が傷つけられないようにな」

セツナ「ん~? よくわからないけど、わかった!!」

澪「だはは。良く、わからねぇなら仕方ねぇ」

セツナ「セツナ、祖父のように、強くなる!!」

澪「理屈じゃなく、身体で覚えてくれや、セツナよ」

SE:庭を歩く音(片足が不自由な音があると良し)。

澪「いいか? 実戦方式で、お前に業を叩き込む。疲れたらすぐに言え」

澪「わしとお前じゃあ、体力にまだまだ差があるからなぁ」

セツナ「わかった!」

澪「まずは、わしが放つ突き業をお前に放つ」

澪「受けの方法をその次に教えるからぁ、覚悟しておくんやぞ」

セツナ「うん!! わかった!!」




〇縁側。同刻。

男1「ははっ、セツナのやつ嬉しそうに里長のこと見てやがるな」

男2「そりゃあ、セツナは里長の剣術を知らねぇからだろうさなぁ」

男1「だなぁ。いくら木の棒だったとしても」

男2「あの鬼神には、孫でも勝てねぇなぁ」

男1「あぁ、俺ら虚の里の強者でさえ、誰一人として勝てなかったからなぁ、里長にはよ」

男1「…………お前。今日の晩飯賭けるか?」

男2「良いねぇ。なら、俺はあえてセツナに賭けるぜ。セツナが倒れなければ、俺の勝ちだ」

男1「おうおう、なら俺は里長に賭ける。孫相手でも、手は抜かねぇ――」

妲己「…………お前ら、なに呑気に賭け事をしているんだい?」

男1「おわっ!? 嬢!?」

男2「いつからそこに、御出でで!?」

妲己「ふん。最初から居るっちゅうの」

妲己「あんたらが不真面目に模擬戦を見ているから気づけないだけじゃ~」

男1「お、おう。今からちゃんと見るよ……あっ!」

澪「ふん!!」

SE:地面がえぐれる音。

妲己「あんの、馬鹿たれ長は……!!」

SE:飛び出す音。小太刀を抜く音。小太刀で木刀を防ぐ音。

澪「うぉあ!? なんじゃ、妲己姫!! 邪魔するんじゃねぇ!!」

妲己「あんたは馬鹿かいな!! わっちらとちごうて、セツナはまだ子供!」

妲己「それも剣を握ったことのない、素人や! なんで初手からそれなん?」

妲己「馬鹿なん? 自分の孫殺したいんか!?」

SE:木刀を弾く音。小太刀を振るう音。

澪「殺そうとなんてしとらん!! ちゃんと止めるつもりだったで!?」

妲己「嘘を吐くんじゃないよ! あれは止めない勢いだったよ!」

妲己「セツナ、下がってな。わっちが懲らしめた後、剣術を教えたる!!」

SE:踏み込みの音。攻防の音

セツナ「…………」

男1「セツナ! こっちこい! あぶねぇからなぁ!」

SE:激しい攻防。地面を靴が擦る音。

男3「良いねぇ! 俺はぁ、里長に賭けるぜ!!」

男4「ははは! じゃあ、俺は妲己だ! そぉら皆も賭けろ賭けろ!!」

男3「いいや、里長だろ!! 老いを重ねたとはいえ、まだまだつえぇからな!!」

男2「ンなこと言ってる場合kあ!? おいおい、セツナのやつ動かねぇってやべぇ! 巻き込まれんぞ!?」

男1「こいつら、気づいてないのか!? せ、セツナー!」

男2「こっちにこいって! おい!!」

SE:激しい攻防。野次馬。

妲己「あんら、なんやわっちらで賭けが始まっちゃったねぇ」

澪「ははは。懐かしいな。皆で虚の里に居た頃にゃあ、毎晩やってたんやがなぁ」

SE:小太刀を振るう音。

妲己「はははは!! たしか、わっちが一勝。勝ち越しているんやっけねぇ」

SE:木刀で攻撃を弾く音。

澪「はっ! ふざけたことを。九十六勝九十五引き分けでわしの方が一勝多いんじゃわぁ!!」

SE:距離を取る音。

妲己「はは。抜きなさいな、刀を。わっちも、本気出したる」

澪「抜くまでもねぇ。殺気で殺したるわ、小娘が」

妲己「おぉ、怖いのぉ。でも。そないな殺気が、やっぱりわっちは好きやなぁ」

澪「ははは。ぬかせ、変態。なに戦いの場で頬(ほほ)を赤く染めてやがる」

妲己「あははは。そらぁ、だーい好きな里長から殺意を感じるんですもの。この妲己姫」

妲己「その感覚に心が高ぶって仕方あらへんもん! 良い、良いわぁ」

妲己「殺意はやっぱり、そうでなくっちゃ」

妲己「あんたのそれ以外、なーんにも感じなくて物足りなかったからねぇ」

澪「そぉかい。なら、お望み通り、殺しちゃろか?」

妲己「あはっ! じゃあ、遠慮なく。本気で斬ったるわぁ。覚悟しんさい、ミオ

澪「おぉ、おぉ。元三番隊隊長の本気とやらを。味わったる――」

妲己「あはっ! あんたの艶美な殺意と――」

澪「お前の狂気的な殺気」

妲己「どちらも、差異はないなぁ」

澪「言っとれ。…………殺す」

男1「おい、セツナが一歩も動かねぇぞ! 大丈夫か!?」

澪&妲己「「あ?」」

セツナ「…………?」

セツナ「《明るく元気な声音で》剣術、教えてくれないの?」

妲己「……おや。おやおやおや。はて、なんて言う恐ろしい器を持ってはるんやろ」

妲己「それとも、まだ子供で殺意を感じ取れないのかしら?」

澪「だははは! 流石はわしの孫やのぉ。これくらいじゃ、屈せんか!」

妲己「馬鹿だねぇ。恐怖を感じないってのはぁ、大層危険なことやないの」

妲己「自分より強い相手に無謀に突っ込むのと」

妲己「きちんと恐怖を感じ、逃げるのは別の強さじゃろ」

妲己「あんたが教え込みたいのは、後者じゃないんか?」

澪「……はははは。そんな正論ぶつけられたら、なにも言えんなぁ」

妲己「はぁ。呆れた、セツナ。着いておいで」

セツナ「……? どうしたの、ダキ?」

妲己「……なぁんも。さぁ、セツナ。わっちが業を先に教えたるさかい」

妲己「その後、この爺から教わりんしゃい」

セツナ「わかった! ダキ、ありがとう!!」

妲己「だっきや。ダキじゃない。あんたには、まず語学から教えにゃいかんかねぇ」

セツナ「……ご、がく?」

妲己「うんうん。いくでぇ、セツナ。屋敷の中で教えたるからなー」

澪「わしの孫を、大切に。丁寧に扱ってくれよ~」

SE:向き直る音。

澪「さて、模擬戦は終了じゃ。しかしこの殺意がどうにもまだ収まらんねんなぁ」

澪「野次馬のお主ら、わしが鍛え直したるから相手しろ」

澪「どうせ里が消滅してから、ろくに武器を握ってないんやろう?」

男3「ひぃっ」

男4「勘弁してくれよぉ、お頭ぁ! あんたにゃ隊長以外、立ち向かえませんって!!」

澪「うっさいわ呆け! そんなんじゃ、いつまでも鬼神オレには勝てんぞ!!」

澪「良いから腰につけてる刀を抜け!」

SE:地面を蹴る音。

男4「う、うわぁぁあっぁぁあぁぁぁああ!?」

SE:地面を足の裏で踏みつける音(ドン、みたいな)

澪「どうしたどうした!! オレは木刀だぞ!?」

澪「お前らはそんな軟弱ものだったのかぁ!?」

男3「や、やってやらぁぁぁぁあああ!!」

澪「ふは! そう、その意気じゃ!!」





〇屋敷の中。昼。

妲己「さぁ、セツナ。今からお前に恐怖を叩き込んだる」

妲己「そしてお前はその狂気を扱えるようになりんしゃい」

妲己「それが、自分の身を守る、最初の業や」

セツナ「ダキ。恐怖ってなに?」

妲己「……恐怖と言うのは、強さの一つやなぁ」

セツナ「強さ?」

妲己「せや。恐怖が分からない奴は、それがどんなに強い奴だったとしても。慢心して死ぬ」

SE:畳の上を歩く音。

妲己「なんでだと思う?」

SE:歩く音終了。

セツナ「んー、わかんない。なんで、死ぬの?」

妲己「ふっ!!」

SE:押し倒す音。

セツナ「うわっ!」

妲己「セツナ。怖いかい?」

セツナ「……怖くないよ?」

妲己「この首に添えている手刀でさ?」

セツナ「うん! 怖くない!」

妲己「…………ふぅ」

SE:立ち上がる音。

妲己「セツナ。恐怖ってのはぁ、人間が持つ死を回避するための能力だと。わっちは考える」

妲己「それがないと、今みたいに押し倒され、首に添えられた手刀で。実際は刃物なんかで首を斬られて死ぬ。ほれ、起こしちゃる」

セツナ「ん。ありがとう、ダキ」

SE:手を取る音。立ち上がる音。

妲己「だっきやちゅうのに。もぉ、まずは語学やなぁ」

セツナ「わかった! セツナ、頑張るね!」

妲己「あいあい。でも、まぁ今日一日で覚えられるもんでも、ないやろうから」

妲己「これから毎日訓練したる。その合間に、刀の稽古もつけたるよ」

セツナ「うん! わかった!!」

妲己「あっはは。ほんまに、セツナは。真っすぐな子やのぉ」

SE:抱き締める音。頭を撫でる音。

セツナ「う、うぅぅ。くすぐったいよ、ダキ」

妲己「《ちょっと泣き声》良いじゃないか。減るもんじゃあ。あらへんよ~」

セツナ「……? ダキ、泣いてる?」

妲己「…………泣いてへん。わっちは、泣いては……」

セツナⅯ「この日。確かに妲己は泣いていた。僕にはまだ、その涙の理由が分からない」

セツナⅯ「それでも、妲己は泣いていたのだ」

セツナⅯ「それからあっという間に、七年が過ぎた」

セツナⅯ「十五歳に成長したセツナは、妲己が編んだお手製の羽織に身を包み」

セツナⅯ「祖父から受け継いだ刀を握って」

セツナⅯ「一人、空の下で眠っていた」









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誄歌のシナリオまとめ 川端 誄歌 @KRuika

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