第8話
すっかり日も暮れた頃、やっと全員に薬師の作った解毒剤を飲ませることが出来た。
毒を口にした者たちは数日は寝たり起きたりを繰り返し、傷ついた臓器はすぐには良くならないだろうということだった。
しかし宮廷医は危機的状況は脱したと言っていたのでひとまずは安心かな。
「ディアナ、今日は本当にお疲れ様。みんながさすが僕の婚約者だと、口々に言っていたよ」
「こ、今回はたまたまお役に立てただけです」
「ディアナはもっと自信持った方がいいよ。君には君にしかない力があるのだから」
「しかし……」
日が暮れて、帰るわけにもいかなくなった私はリオン様の隣のお部屋を使うように通された。と、ここまでは良かったんだけど。
リオン様が私が寝付くまで心配だからと、今私の部屋へやってきて私と一緒にベッドの縁に腰かけた。
「父上も、今回のことで年内に結婚の日取りを決めるように大臣たちに通達を出していたからね。ああ、長かった。やっとだね、ディアナ」
「ね、年内……。こんなに出来が悪くぽんこつなのに……」
今年はあと何か月残っていたっけ。もうほどんど残ってない気がする。今から死に物狂いで頑張ったって、間に合わないでしょう。どうしよう。
「ん-とね。なんでも及第点としか取れないということは、全てにおいてちゃんと出来てるってことなのに。ああ、本当は今日だって、僕の部屋で寝て欲しかったんだけどな」
「い、いえ、それはさすがに」
緊張して寝れません。リオン様の匂いのするベッドなんて。いや、その前に一緒とか無理。絶対に無理。だって顔が赤くなるし。緊張でしゃべれなくなるし。
「そうだね。それはこの先の楽しみに取っておこうね。気づいてた? ディアナ。僕の部屋が君の瞳の色と同じだって」
「な、なななん、瞳? 私の色……」
あああ、薄いブルーだ部屋も私の瞳も。通りで落ち着くと思った。でも、まさかリオン様が私の瞳の色を選ぶだなんて……。
「僕の好きな色だよ」
そう言って、私に手を伸ばしたリオン様は、そのまま瞼にキスをした。
「!」
「今日はここまでね、ディアナ。じゃ、また明日」
何事もなかったような涼しい顔で、リオン様が部屋を出て行く。私はそのままベッドに倒れ込んだ。そしてじっとしていられなくなり、顔を抑えたまま足をバタバタさせる。
今日はなんて日だろう。いろんなことがありすぎだし。いいこともダメなことも。でもイイコトがあまりに大きすぎてもう、許容量オーバーすぎだよ。
「あああぁぁぁぁぁぁぁ……今ならこのまま記憶を失くせそう……。うん、失くしたい」
恥ずかしすぎて、それなのに嬉しいすぎてリオン様のために33回目は今度こそ記憶喪失になれそうな気がする。
これはもう寝たら記憶を……やっぱり無理かな。
うぅぅぅぅ。ぽんこつだけど、ダメな婚約者かもしれないけど、やっぱりリオン様の隣にいたい。
誰よりも誰よりも好きだから。リオン様も同じ思いだといいな。
そう口にしかけて、私は見なくても分かる真っ赤な自分の顔を枕に埋めた。
自称ぽんこつ令嬢は、今日も記憶をなくしたい。なのに殿下からの溺愛が止まりません. 美杉。節約令嬢、書籍化進行中 @yy_misugi
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