第7話


 国王様の招集により、謁見の間には城にいたほとんどの人間が集められた。ほどんどというのは、毒味役の数名とコック、そしてお下がりとしてそれを食べた侍女数名が意識のない状態で別室に運び込まれたからだ。



「これはどういうことなのだ!」



 毒を口にした人間があまりに多すぎる。これでは無差別に近いわね。今までの権力争いでさえ、その相手のお茶などに毒を入れられることはあっても皆が口にするものにまで入れるなんてことはなかった。



「先ほどリオン殿下の命によって捕らえた侍女も同じ毒を口にしたようです」



 捜査の指揮に当たっている騎士団長の報告は最悪なものだった。彼女が今一番、あの毒に近い人物だったというのに……。



「陛下……、わたくしも死ぬのでしょうか?」


「側妃様?」



 国王様の左下の椅子に腰かけていた側妃様が、真っ青な顔で震えていた。側妃様が息をするたびに、あの毒と同じ匂いが漂ってくる。


 ああ、これはいけない。



「側妃様、あの毒をお召しになられたのですか!」



 私の問いに、震えて言葉にならぬまま涙を流す。



「教えて下さい。あの侍女は……。リオン様の元へお菓子を持って行った侍女は、側妃様の侍女ですよね。側妃様と同じ香の匂いが、彼女の髪からしました」


「……そうよ。アレはわたくしの侍女よ。前任者が国に帰るということで、国から新しく送られたばかりの侍女だったの。とても賢い子で、この国でのわたしの息子の立場を嘆いて力になってくれるって言ったのよ。でも、こんなことになるなんて」


「そなた、なんということを」



 この側妃様は隣国の元王女。国王様と王妃様の間に子が出来ず、一年が経過した頃、側妃にと望まれこの国へ来た。しかし、側妃様がお見えになったのと同時期に王妃様がご懐妊。


 自分こそは国母になると意気込んできたのに、現実は自分の息子は王位継承権第二位。


 嫉妬と、怒りといろんな感情がどちらの側妃様にもある。だからこそリオン様は、生涯側妃を持たないと公言しているのよね。誰も苦しまないために。



「王、今は言及は後です。すぐに使用された毒を探し当て、解毒剤を作ることが先決ですわ」


「正妃様……」


「あなたもその毒を口にしたのならば、加害者とは言い切れないでしょう」


「正妃様、わたくしは…わたくしは……。申し訳…もうし……わけ、あ……りません」



 側妃様は顔を覆いながら、深々と王妃様へ頭を下げました。


 たぶん、これまでのことも全て……。そんな気がした。



「ディアナ、宮廷医と薬師とで毒の選別を頼めるかい?」


「すまぬが、頼めるか」


「はい、もちろんですわ。国王陛下、リオン様」


「では、ディアナ様こちらへ」



 遅延性の毒で、まだ死者が出ていないのならば間に合うかもしれない。いえ、絶対に間に合わせないと。


 私は急ぎ謁見の間を出た。





 毒は側妃様の国で使われている強い睡眠効果のあるお薬と、体の臓器を損傷させるという毒が混合されたものだった。側妃様が自分の国ということを告白して下さらなければ、きっと間に合わなかったことだろう。

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