第2話
「どうしていつもいつも、ディアナはこんなことをするんだい?」
むしろ私は、どうして私なんかをリオン様のお妃候補にしたいのかというコトの方が、未だに分からない。この髪の色も、薄いブルーの瞳も社交界では平凡そのもの。
背も殿下より頭一つ以上も小さく、胸だってたわわではない。今年で17歳となったけどセクシーさは幼稚さの陰に隠れ、未だに成長途中。
婚約は幼い頃に決められ、それ以降お妃教育を行ってきた。しかし、ダンスにしても勉強にしてもいつもどれもこれも及第点しか取れないこんなぽんこつな私は、お妃様になど到底向いていないんだもの。
それでもリオン様は、絶対に婚約破棄などして下さらない。
「どうして? あの、どうしてと言われましても、その……」
「んー?」
「こ、これは事故なのです。したくてしたわけじゃなくて、そう。不可抗力というものなのですわ」
私はリオン様の顔を見上げた。
ああ。私を見つめ、小首をかしげながら覗き込む姿もまた様になっている。長い睫毛がなんともうっとりとしてしまうけれど、この甘いマスクに騙されてはダメ。
そう。こんなに優秀で見目うるわしいリオン様の隣に並ぶのは、もっとふさわしい方がいると思う。
でもきっと、今よりも好きになってしまったら他の令嬢がリオン様の隣にいる姿を見たら泣いてしまうよね。
傷が深くならないうちに……どんどん好きになってしまわないうちにって思うのはごく自然なこと。なのに誰も私の気持ちなんて分かってはくれない。
「考え事をしていて、そしたら手と足が同じになっていて」
これはホント。
厨房から何やらいい匂いがして、後ろ髪を引かれつつ部屋に戻ろうとした時にうっかり足を滑ってしまったの。
朝ご飯を食べた後だというのに、午後のティータイム用のお菓子の匂いが気になったなど、淑女としてはあるまじき行為なので内緒ですが。
なのでここは、考え事をしていたのだと濁すに限る。恥ずかしすぎるもの。
「うん、そこまで覚えてる大丈夫だね。でも、気を付けないと。ディアナが大きな怪我をしたら困るからね。やっぱり、すぐにでも王宮へ引っ越そう。うん、それがいい。王宮なら騎士が付いているから階段から落ちることも、転ぶことも、噴水に飛び込むこともないからね。33回目こそ本当になってしまっても困るし」
「えええー!」
私はどこで返答を間違えたのかな。リオン様はもう満面の笑みです。
あれ、あれ? 全然気づかなかったんですけどー?
「あの」
「考え事をしながらの階段は危ないね。一体、今回は何を考えていたんだい?」
ああ、落ちた時の状況を話すのはアウトだったのね。うーーーー、盲点だった。次からはこれも気を付けないと。
いえその前に、先ほどから何やら他の方向に話が進んでる。このままじゃ、こんな未熟な私が城へ行くことになってしまうではないの。
ダメダメダメダメ。絶対に無理。リオン様に迷惑がかかってしまう。
そんなことになれば、婚約者であるリオン様が笑いものになってしまう。これだけは何としてでも回避しなくちゃ。
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