最初の嘘
長島芳明
最初の嘘
男は素晴らしい叡智を得てしまった。それは大変に素晴らしく言葉にはできなかった。あえてそれを言葉にするとなれば、その英知で得た言葉を使うとなれば、それは幸福であり、愛であった。
しかしその叡智は得てはいけないものだと、きつく言われていたものであった。
男は困ってしまった。愛する女にそれが見つかったらひどく怒られてしまうだろう。
そこで男は得たばかりの叡智を使って、どうやってごまかすかを考えて実行に移した。
「おい。君は酷いやつだな。約束を破ったばかりか、僕にまでその罪を着せるとは何事だ」
「あら? 私はそんな覚えはないけれど。私は貴方からその素晴らしい叡智を得たものと記憶しているけど」
「勘違いしないでおくれよ。君はヘビにそそのかれてその叡智を手にしたと言ったじゃないか」
「言った覚えはないけど」
「いや、言ったよ。それを忘れる何で酷い奴だ。だから今日から君は僕の言うとおりに生きてもらい、子供を産む苦しみは君に任せるよ。なぜなら君は罪人だから。君は約束を破って叡智を手にしたばかりか、それを僕にまで巻き込むんだからこれぐらいは同然だ」
女は反論してみたが、男が強固に主張するので、「私は寝ぼけて、そんなことをしてしまったのかしら?」と思って渋々納得した。
やがて約束を破ってしまったので、男と女は荒野に放り出された。男は女にブツクサと文句を言いながら、二人は世界を創り上げていった。
男は叡智の半分が自分にあり、女にそのことが気づかれなかったので心底ほっとした。何かとあれば「この苦労は女のせいだ」と口にしていた。
今後も、自分が吐いた嘘はばれないであろう。なぜなら、ノドの奥にその秘密はしっかりとしまいこんであるからだ。外見から少し見えるが。
※ 喉仏を英語で表すと 『Adam’s apple』
最初の嘘 長島芳明 @gunmaNovelist
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