【第5話】目撃情報
山下が元少年Aの追跡取材の計画を立てると言い出してから三日が経った。その間、彼は必至に元少年Aの目撃情報や、医療少年院を出てからの彼の動向を調べたようだ。
その日、私が出勤すると、ボサボサの髪に無精ひげ姿の山下がデスクに突っ伏していた。徹夜して元少年Aについて調べていたのだろう。それを察した私は、急いで給湯室へ向かって彼のためにコーヒーを沸かした。
「…編集長、おはようございます」
「ん…、あ、あぁ…」
オフィスに泊まり込んで調べ続けていたのだろう。山下のデスクに乱雑に散らばった資料を整えて、突っ伏す彼の横にマグカップを置いた。
「コーヒー淹れたんで、とりあえずこれで目覚ましてください」
山下はゆっくりと顔をあげて、マグカップを手にした。
「ありがとう…。いやぁ、大変な作業だっだよ…」
「でしょうね。編集長の顔見ればわかります」
彼が必死に集めた資料を手に取り、ざっと流し読みをした。どうやら、目撃情報はネット掲示板に多く書き込まれているようだった。
「これって、掲示板…6chの書き込みですよね」
「ああ、なんか犯罪者の現在に関する専用のスレッドがあるみたいでな…」
「そこに元少年Aの目撃情報もあったんですね」
山下がプリントアウトしたスレッドの内容によると、彼は北関東の館坊町という町で暮らしているらしい。
「これだけの情報で、どうやって彼を探し出しましょうかね…」
「そりゃあ、現地に行って住人に聞き込むしかないだろー」
なんて古典的な方法だ…。
でも、まあ仕方がない。これだけの情報しかないのだから、あとは現地に行ってどうにか元少年Aを探し出すしかないだろう。
追跡取材のために、山下は元少年Aがいるらしき館坊町にある民宿を一週間連泊で予約してくれた。出発は二日後。出発するまでの二日間、私は休みをもらって家に籠った。
「本当に彼を見つけられるのかな…」
自宅のデスクに向かい、目撃情報やら彼の動向やらに関する資料に何十回も目を通す。
何度読んでも書いてあることは変わらないが、とにかく想像を膨らませたかった。彼を見つけられたらどう声をかけるか、何を聞くのか…。
彼と接触できる見込みは未知数だが、きっと見つけ出せると根拠のない確信が私のなかにあった。
「もしもし、お疲れ様です」
「沙夜ちゃん、お疲れ。どうしたの?」
本業で一週間この地を離れるからと、店に出勤できない旨を高田に連絡した。自分にとってこれは大きな仕事だと伝えると、彼は嫌な反応は一切せず純粋に応援してくれた。
山下も高田も私の初めての大きな仕事を応援してくれている。その期待に応えなければというプレッシャーは案外なかった。寧ろ、元少年Aに接触できるかもしれないという期待感が占めている。
それだけ私は、彼に対して謎の興味がある。猟奇的な事件を起こした犯人に対して、不謹慎な感情なのかもしれないが、彼に会えるかもしれないという期待感からワクワクしていた。
「元少年A…。どんな青年なんだろう…」
納受の愛 智琉誠。 @Chill_Makoto
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