【第4話】睡眠不足
昼も夜も労働に勤しみ、私は疲労困憊で帰宅した。こんなに疲れているのに、脳裏には元少年Aのことばかり。疲れているながらも、私はノートパソコンを開いて、女子高生連続殺傷事件について検索かけた。
世間を揺るがした大事件だったこともあり、事件についてまとめたサイトや元少年Aについて考察しているサイトが数多くヒットする。検索上位から順に眺めていく。記載されている内容は、どれも職場で読み漁った資料と重なるものばかり。これといって新たな発見はなかった。興味が溢れて止まらない私は、なんだか物足りない気がした。
時刻は深夜2時半。明日も朝から出勤だ。夜の出勤用の濃い化粧をメイク落としシートで雑に顔を擦って落とし、服を脱ぎ捨てる。そのまま倒れ込むようにベッドに沈み込んだ。そして、いつも通りベッドサイドから睡眠導入剤を手にし、相変わらず規定量以上の錠剤を口内に放り込む。
薬でぼんやりとする意識と、ほのかな多幸感。何故だか今日は眠気を感じられない。そんななかでも、私の頭から元少年Aの存在が離れない。ただ仕事のために調べ始めただけだったのに、どうしてここまで彼への関心が抑えられないのだろう。自分でも分からなかった。
「少年A…、あなたは一体なんなの…」
その晩、一睡もできなかった。とにかく、元少年Aへ漠然とした好奇心と興味が私の脳裏して占拠して、どうにもできなかったのだ。ただ資料やインターネットでの情報を読んだだけなのに、何故か私は彼の存在に、謎の執着が芽生え始めているのを感じた。
どうにか睡眠をとることに集中しようとするが、寝ようと意識すればするほど、私の思考は彼のことでいっぱいになる。何が私をそうさせているのか、自分でも理解不能だった。
結局、そのまま朝を迎えてしまった。寝ていないせいなのか、睡眠導入剤のせいなのか、頭部に鈍痛を感じる。それでも今日も出勤しなければならない。重い体を必死の思いで動かして出勤の準備をした。もう、今日の化粧は適当でいいや…。
軽くファンデーションを塗り、適当に眉毛を描き。薄い色味の口紅を塗っていつものスーツに着替えた。
「…おはようございます」
「おはよう、佐野。どうした、お前…目の下、くまが凄いぞ」
山下は私の目元を凝視すると、いつもと違う私の様子に心配そうな表情を浮かべる。
「今日、寝てなくて…」
「はぁ!?なんかあったのか!?」
この編集部に配属されてから、私は何故だか山下に異様に気に入られていた。それもあって、寝不足で濃いくまが目立つ私が心配でたまらないようだ。
「いや…、元少年Aのことがなんだか凄く気になって、一晩中調べてたんです」
私がそう答えると、山下は腕を組んで深いため息をついた。
「気になって…か。仕事熱心なのは良いことだが、あまり無理するなよ」
「無理はしてないです。ただ、凄く気になって仕方がないんです。彼について…」
私の言葉に、山下は渋い顔をして何か考え込んでいる。数十秒間、沈黙の時間が流れた。
「ちょっと早い気もするが、具体的に進め始めるか…」
「…何をですか?」
「元少年Aの追跡取材の計画だよ」
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