くだらない呪い
澁澤 初飴
本当に、程度が低くて馬鹿らしい。しかし、この呪いにかかってしまったら最後、あなたは。
呪いにかけられたようだ。
それは突然だった。
あの日私は、すんでのところでその安住の地に飛び込んだはずだった。
尿意を催しての、布団から飛び起きて駆け込むトイレ。
私はそこで間に合ったことにほっとしながら心ゆくまで本能を解放していた。
間に合ったのだ。
その日のそれは間違いない。いくら泥酔しても、私は布団でしでかしたことはここ何十年とない。だから、間に合わなかった時の後悔などはないはずなのだ。
なのに。
素面で、仕事中の小休止で、出先のコンビニで、馴染みのラーメン屋で、トイレを使っていると私はふっと恐ろしい錯覚に囚われ、抜け出せなくなる。
これは夢ではない。夢ではないはずだ。夢ではないことはわかっているのに。
膀胱が緊張を解き、下半身が緩み切る、ある意味今生の極楽。そこで私は地獄を覗き見てしまう。
まさか、これ、夢じゃないよな……?
あなたは本当に今、覚醒しているか。
覚醒している夢を見ているのではないか。
トイレに行きたい、起きられた、間に合いそう。
ああ、すっきりする。
それは、あなたの夢でないと、どうして断言できる?
くだらない呪い 澁澤 初飴 @azbora
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