最終章 その殻を破れるのはあなただけ
第42話 もう一つの克服
佐々木くんが教室にあわてて入ってきた時、きっと丸山太一の話なのだろうと直感した。
「楓ちゃん! 太一見てない?」
佐々木くんは楓ちゃんを呼んだ。楓ちゃんが丸山太一と仲良くしていることは知っていたが、佐々木くんも気づいていたのか。
気に食わない。
佐々木くんから呼ばれた楓ちゃんは、急いで駆けつける。その様子からして、楓ちゃんは丸山太一のことを心配している様子だ。
もし私が風邪を引いたり、怪我をしたと言ったら、そんなに心配してくれるのかな。
陽菜は、気に食わなかった。
それは、ここ最近、楓ちゃんと丸山太一が仲良くしているところを目撃してからだ。楓ちゃんは、丸山太一とは別次元の存在だ。例えるなら芸能人と一般人。学校で会うのは、ライブや握手会で一般人が芸能人に会うようなものだ。つまり、学校以外で会うことは、許されないのだ。それなのに、2人は学校外で会っていた。
きっと丸山太一から誘ったに違いない。そして楓ちゃんは優しいから、断れなかっただけだろう。でも、楓ちゃんは付き合う友達を選ばないといけない。そうしないと楓ちゃんの価値が下がってしまうのだ。
丸山太一と楓ちゃんが一緒にいるのを目撃してから、丸山太一は何か良からぬことを考えているに違いない、そう思った。
それが実現してしまったのが、昨日。野球部の入部テストだ。
丸山太一が楓ちゃんに接触したのは、きっと野球部の入部テストに佐々木くんの推薦を取り付けるためだろう。佐々木くんが楓ちゃんに気があるのを利用するためだ。
どうして丸山太一の元にばっかり、人が集まるのか。
佐々木くんと楓ちゃんが走り去っていくのを眺める。教室が少しざわついた。あの2人が慌ただしくするのは、ただ事ではないのだ。しかし、後を追う者は続かなかった。なぜなら、あの2人は学校中から認知されており、自分たちが知らないようなことを知っているのは至極当然のことだからだ。例えば、芸能人が芸能界のニュースで慌ただしくしているのを一般人が見ても、自分には関係ないことだと思うのに近い。
そろそろ頃合いかなと思っていた矢先、陽菜の予想外の人物が丸山太一の元へ向かった。
鈴木が立ち上がり、ひょこひょこと教室を出ていったのだ。誰も目に留めていないが、陽菜だけはその動向を眺めていた。
まさか、あのいつも本を読んでるだけの鈴木も動くとは。ますます気に食わない。
陽菜は、3人が向かった先の状況に察しがついていた。きっと、3人は入部取り消しが決まった傷心中の丸山太一を慰めているのだ。入部取り消しまでは知らないかもしれないが。
「さてと」
陽菜は、重い腰を上げて、立ち上がる。
「あれ、陽菜も行くのー?」
「じゃあ、私たちも行くー?」
「いや、私だけでいいよ。みんなは来ないで。」
陽菜は、動き始めた数人の女子を制した。
「えー、なんでー? 陽菜、丸山くんのこと嫌いじゃなかったけ?」
「嫌いだけどね。けじめつけてくる。」
陽菜は教室の扉を開けて、言った。返答というより、自分の背中を押すために言ったのだ。
陽菜は自分が犯した罪について、自覚していた。そして、その清算をするために、向かった。
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