第41話 過去との対面、そして克服


 「太一くん、そうだよ。私たちがいるじゃない。」


 太一は、声に反応する。聞き馴染んだ瀬戸さんの声だ。


 泣いている? 鼻を啜り、声が掠れていた。

 瀬戸さんまで来てくれたのか。

 佐々木が呼んだのか? 瀬戸さんが太一の心配をしたとなると、クラスや学校の奴らからどう思われるか。

 太一は自身の申し訳なさと、佐々木と瀬戸さんの声に涙が溢れる。涙もろくなったものだ。今までこんなに泣いたことはない。あの時、中学の頃、あの噂を信じて俺を庇ってくれる人は、学校に居なかった。でも、今は俺を信じてくれる友達がいる。その存在がいるという安心感に、また涙が溢れてくる。


 「太一くん、昔の話をしてくれた時、私思ったんだ。太一くんの話には、誰も友達の名前が出てきていなかった。本当に1人で戦ってたんだよね。辛かったよね。」

 瀬戸さんの声から、頑張って話していることが分かる。鼻を啜る頻度は増え、嗚咽が漏れていた。


 「でも、太一くん、今は私たちがいるじゃない! 佐々木くんも私も一緒に先生に説明するから! 負けちゃダメ!」

 瀬戸さんは、声を荒げた。



 「ぼ、僕もいるよ。」

 太一は聞き馴染みのない声が現れた。声の主に覚えがない。

太一は咄嗟に顔をあげて、声の主を確かめてしまう。


 「鈴木、くん?」

 瀬戸さんも、佐々木も後ろを振り向いて、階段を登ってきたところの鈴木に注目した。

 太一は声が出なかった。頭の整理が追いつかない。それは、瀬戸さんも佐々木も同じようだった。


 「ごめん。瀬戸さんと佐々木くんの後をついてきたんだ。階段下で出てくるタイミング伺ってて、話も盗み聞きするみたいな感じになっちゃった。」

 鈴木は、視点を彷徨わせながら、話す。

 きっと、この場に出てくるには、すごい勇気が必要だろうと太一は思った。


 「でも、僕も丸山くんのことを信じるよ。それを伝えたくて。だって、僕の小説のことを応援してくれたのは、丸山くんが初めてだったんだ。だから、誰にも本の話とか出来なかった。」

 それは、瀬戸さんだったからだ。太一はそれまで鈴木のことを何も知らなかった。鈴木を友達とも思っていなかった。そんな太一のことを。


 「それに昼休みとか、一緒に2人で教室に残って本を読んでくれたのも、僕は嬉しかった。僕も中学の時、1人教室で本を読んでると、バカにしてくる人たちもいたから、わざわざ図書室まで移動するようにしてたんだ。でも、丸山くんがいると、1人じゃないって安心して教室で本を読めたんだ。」


 太一は鈴木がそんなことを考えているとは思わなかった。

 そして自分が恥ずかしくなって、また涙が溢れてくる。

 自分は鈴木のことを、バカにして、自分が1人だと思われないために良い隠れ蓑としか思っていなかったことを恥じた。


 「俺はバカだ。大バカ野郎だよな。」

 太一は、頭を抱えて嗚咽する。

 「俺はこんなにも素晴らしい友達に恵まれていたのに、みんなが俺のことを信じてくれていたのに、最後俺が殻に閉じこもって、みんなを信じることが出来なかった。」


 ごめん、本当にごめんと太一は、謝った。

 佐々木は背中をさすってくれる。


 「いいんだよ。今それに気づけたことは本当に幸せなことだと思うぜ。」

 「ありがとう、ありがとう。」

 太一は、涙が溢れてぐちゃぐちゃになった顔を何度も下げた。


 「あのさー。もう全部話しちゃったらー?」

 階段を登る足音が聞こえる。

 全員が登ってきた人物の姿を振り向いて見た。

 「ねぇ、笠原くん? 全部知ってるんでしょ?」

 太一は涙で霞んだ目を拭って視界が開けさせる。

 そこには、鳥谷陽菜が立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る