第20話 朝練とバスケ部

 打ち上げで次の目標は、バスケ部の遠征に参加することに決まった。うちの高校の女子バスケ部は県内でも優勝候補の一角に数えられる強豪校だ。毎年、年2回の遠征を行なっていて、近隣の高校を集めて合宿を行う1回目の遠征と、夏の総体前の最後の遠方に出かける2回目の遠征がある。


 2回目の遠征は、総体の登録選手のみで出かける。登録選手はレギュラーメンバー含めて15人のみだ。部員が50名以上いる中から15人だけなので、かなり厳しい。しかし、1回目の遠征は、将来的にベンチ入りが期待される選手も選ばれ、30人ほどが選ばれることになる。楓のレベルなら、当落線上にいるため、遠征までの2週間の頑張りで遠征メンバーに選ばれることも可能だった。


 楓は、自分の弱点を挙げていったらキリがないが一番は体力にあると感じていた。バスケは試合中止まることなく走り続けなければならない。


 楓はドリブルのテクニックやシュートの精度で言えば、上級生に負けていないと自負していた。しかし、いつも試合の後半になると体力的にドリブルやシュートの精度が落ちて、一年生からしっかり体力を鍛え上げている先輩に負けてしまうのだ。


 強豪校では、試合中走り抜けられる体力があるのが大前提になってくるため、特に一年生の楓は、今回の遠征を体力不足を理由に見送られる可能性が高い。

 つまり、楓が遠征に参加するには、今度ある練習試合で1試合中ずっと体力を切らさずにプレーできることを証明する必要があるということだ。そのために、太一くんとの打ち上げがあった翌日から約1ヶ月間毎朝ランニングをしている。


 楓は、太一くんの体で楓のランニングスピードについて来られるか心配していた。いや、到底ついていくのは無理だろうと思って、自転車に乗って一緒に朝練しようと思っていた。

 しかし思いの外、太一くんは運動神経が良いらしく、楓のランニングスピードについてこれていた。もちろん、先に力尽きるけど。これには何で太一くんはこんなに運動神経いいのに運動部入ってないのか聞いたが、興味ないと言われてしまった。太一くんらしいと言えばらしい。

 

 もう1つ驚いたのは、ランニング途中に陽菜に偶然会ってしまったことだ。

 「え、何、付き合ってるの?」と、あの陽菜が真顔で聞いてきたが、太一くんが「そこでたまたま会って、途中まで一緒に走ってるだけだよ〜、誤解しないでね!」と上手くフォローしてくれた。

 こういう時のフォローを見ていると、太一くんがとても『隠キャ』には思えない。


 ――


 約1ヶ月の朝練期間が終了して、運命の練習試合。

 練習試合は、太一が実力以上の結果を出すことができ、2試合目フル出場で圧倒的な存在感を出すことができた。


 この練習試合は、遠征のメンバーを選ぶ基準にもなっている中で、太一を変えずにずっと使ってくれたのは、監督の期待通りのプレイができたからだろう。

 期待通りのプレイができたのは、太一が模試対決の時のような緊張をしなかったことが大きい。模試の時以上に準備期間がしっかりしていたし、日々の練習から自分の成長を感じられていたというのも自信につながっていたのだと思う。


 これで、朝練と練習試合という関門を乗り越えた太一は、確かな手応えを感じつつ、遠征に参加できるかどうかのメンバー発表を聞くことになる。

 メンバー発表が行われる明日が楽しみでもあるし、怖い気持ちもある。

 きっとこのチームの中で、3年生の当落線上にいる数人と同じくらいドキドキしていると思う。

 いや、その人以上かもしれない。

 何たって自分は、1人で戦っているのではない。自分の結果には2人分の重みがあるのだから。

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