第15話 告白イベント④ 安西流騎

 明里との通話は、あの後すぐに終わった。

 どういう経緯か聞いたところ、明里は安西先輩に告白し、安西先輩は瀬戸楓が好きだから無理と断ったらしい。

 なぜ、瀬戸楓と名前を出したのか。好きな人がいると言えば良いのに、そう瀬戸さんは言っていた。

 確かに太一も引っかかるところではあるが、気にしすぎだとも思う。

 とりあえず、安西先輩が告白してきたとしても、断るという意見で一致した。

 瀬戸さんもタイプじゃないらしいし、太一も付き合った後にあんなことやこんなことをするのは抵抗がある。

 もし、安西先輩が何か企んでいたとしても、今は情報が少なすぎて、対策が取れないということで、一旦様子見ということになった。

 太一としては、山口薫との模試対決の大仕事が終わったのに、打ち上げも行き着く間もないから、何事も起きないことを祈るばかりだ。


 もちろん、そんなことはないが。


 ――


 今日も女子たちの歓声を浴びて1日が始まる。

 学校に行くと、必ず後輩の女の子から「安西先輩よ! キャー!」という声が聞こえてくる。

 声の方を振り向き、少しだけ微笑む。いわゆる営業スマイルだ。

 今どき、少女漫画に出てくる一匹狼型のイケメンは時代に馴染まないと思う。それに、少女漫画のようなときめくような恋は、一匹狼と恋愛経験がない美少女という組み合わせには起こり得ないとも思う。

 流騎は生まれて今まで女に困ったことは無いから、自分からモテたいと思ったことはない。流騎は、その人生経験から、少女漫画のような恋をしたいなら、男か女のどちらかはモテていることが必要だと信じていた。つまり、恋愛の質を求めるなら、恋愛の量が必要だということだ。

 流騎は今まで恋多き人生を歩んできたが、少女漫画のような燃える恋は出来ていない。

 だから流騎は、燃える恋をするために、日々の努力を欠かさない。

 また、聞こえてきた声の方へ向き、微笑を浮かべる。

 

 自分で言うのもなんだが、自分の容姿は整っていると思う。

 高校卒業後は適当に大学に進学して、YouTuberにでもなろうかな。

 昔は、イケメンの最も効果的な使い道はスカウトかオーディションを経て芸能界入り、CMやドラマなんか出て、自分の容姿を武器にするのが王道だった。

 でも今は、YouTubeやインスタなどお金をかけずに、自分の武器を発揮する機会がほぼ平等に与えられている。

 流騎みたいな人間にとっては、良い時代になったと思う。


 でも、流騎には、1つ思い通りにならない人がいた。

 ――瀬戸楓だ。

 彼女は、運良く女子バスケ部で同じ体育館の部活動に所属していた。ほぼ毎日声をかけるチャンスはある。

 流騎は付き合った人数は10人を超えてから数えてない。全員が流騎のことが好きになって告白してきた人たちだ。

 流騎から告白したことはなかったし、これからもすることは無いだろうとも思っていた。

 しかし、瀬戸楓を初めて見た時から、瀬戸楓にだけは自分から告白しても良いと思った。

 もちろん、初めは自分のことを好きになってもらうように他の女の子以上に優しくしたし、アタックもした。

 それでも、瀬戸楓は靡かなかった。むしろ、流騎のことを避けるようになったようにも見えた。

 これまでろくにアタックというものをしたことのなかった流騎からすれば、瀬戸楓の行動の意味が分からなかった。それに自分の何が不満なのかも分からなかった。


 それとなく、バスケ部の後輩に、1年でイケメンな奴はいるかと聞いてみたが、流騎先輩みたいな人はいないっすよと言われた。

 それは当然だ。これまでの人生で自分の見た目で否定されたことは一度もない。むしろ、自分の容姿はポッと出のジャニーズにも劣らないと思う。

 じゃあ、何が悪い? 勉強だって平均くらいはできるし、バスケだって2年からレギュラーになっている。

 瀬戸楓にとって、自分の何が不満なのか、皆目見当もつかない。


 そう考えるようになってから、流騎の頭の中は瀬戸楓一色に染まっていた。

 何度も告白することを考えたが、流騎の中の脳内シミュレーションでは何度告白しても断られる未来しか見えなかった。

 これまで自分は成功する未来しか見えない人生を描いてきたのに……。


 それから流騎は、どうすれば瀬戸楓への告白成功率を上げられるかということだけを考えてきた。

 少し、ほんの少し、悪いやり方と思われるかもしれない。だが、瀬戸楓の毎日部活を誰よりも遅くまで頑張る姿、誰でも優しく接し、周りから慕われている姿を見ていると、他の誰かの好感度など捨ててでも自分のものにしたい、する価値がある。

 それに、瀬戸楓のあのチームメイトに向ける、軽い風邪なら治せてしまうんじゃないかとも思える天真爛漫な笑顔を流騎にも向けて欲しい。今の自分にはその他の何ものよりも優先度が高かった。

 

 全ては、瀬戸楓と付き合うためにこの計画を実行してきたのだ。

 だからこそ、瀬戸楓以外のモブ女子どもにも積極的に声をかけて、向こうから告白してくるように仕向けたのだ。

 3人くらいから告白されたが、その中の迫田明里は瀬戸楓と同じ1年で中も良さそうだから、効果はあるだろう。

 特に目をかけて育ててきて良かった。

 

 ――俺がここまでしないといけないのは、全て、そう全て瀬戸楓のせいだからな。

 流騎はそう自分に言い聞かせた。


 準備は整った。

 後は、実行あるのみだ。

 決行は明後日だ。

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