第14話 告白イベント③ 新たなる刺客
太一は、山口薫に勝利した。
模試は3教科だけなので、午前中に終了し、昼から自己採点した。
結果は僅差だったが、山口の反応を見る限り、かなり凡ミスをしていたようだ。
結果を見せ合い、山口は泣きそうな顔をして、「ごめん」と呟いて帰る支度をしていた。
おそらく、めんどくさいことを言ってごめんという意味だと、太一は解釈した。
あの様子だと、もう近づいてくるようなことは無いだろう。
だけど、その姿を見てると、どうしても同じ男として少しだけ同情してしまう。
太一なら分かる。この完璧美少女である瀬戸楓に挑んだことだけでも、勇気があるし、素晴らしいことだと。
これは瀬戸さんには言えないなと思いながらも、太一は山口に声をかけてしまった。
「お互いにお疲れ様だね。これからも良きライバルとしてよろしくね。」
太一の発言に他意はない。
瀬戸さんが医学部を目指すなら、受験まで競い合うライバルは必要だ。なら、この山口には少しばかり利用価値があると思っただけだ。それに、これで関係が終わるのは、瀬戸さんの価値観的にも望まないとも思った。
だが、山口は目頭が真っ赤になっているのが分かる。制服で目を乱暴に擦り、震える声でありがとうと言った。
山口にとっては、この言葉で救われたんだろうと分かる。
泣くほど嬉しかったのなら、やはり言って良かったと太一は思う。
山口を後にして太一は部活に向かった。
――――――
今日は模試で部活に遅れることは伝えてあった。
進学校だけあって、遅れる理由が模試なら顧問や先輩の理解を得るのも簡単だった。
逆に部活サボれるからと模試を受けようとする輩も現れていたが、そういう奴は、先輩からすれば分かるらしい。
いつもは部活に向かう時は、憂鬱な時が多いが、太一にとって、今日は山口に勝つという大仕事を終えてきたから、気分はルンルンだ。スキップしたい気持ちを抑えているくらいだ。
もちろん、周りには言えないが、瀬戸さんには部活終わりに電話で報告しよう。そうだ、これは打ち上げなんかもしてもいいかもしれないな。太一は一人暮らしだから、太一の家でやる分には、周りの目は気にならないし。
太一は部活中も、瀬戸さんから褒められるのを想像していたためか、いつもより早く楽に終わった気がした。
今日は早く帰るぞ。
太一がいつもより急ぎめで帰る支度を進めている時に――。
「――楓ちゃん。ちょっと今晩良いかな……?」
隣のロッカーで帰り支度をしていた明里がこちらをチラチラ見ながら聞いてきた。
自信のない声色のせいか、いつもより小動物感が強いように感じる。
そして、この感じで来られると断れないということを知っている感じがビンビンに伝わってくる。
今回の恋愛相談は、前回安西流騎先輩に告白すると言っていたものの結果だろう。
そして、その結果は、明里の様子を見ていると聞かなくても明らかだった。
「もちろんだよ。あの後どうなったか聞かせてくれるんだね?」
「うん、この頃、楓ちゃん模試の勉強で忙しそうだったから。」
「ごめんね、でもずっと気になってたんだよ?」
なんでこっちが謝らないといけないのか、太一には分からないが一応場の雰囲気を読んで謝ることにした。
あぁ、帰りにまた瀬戸さんに伝えないとな。
――――――――
明里から通話が来て、やはり想像通りの結果が伝えられた。
太一の想像では、明里が泣き崩れて、励ます流れかと思ったが、明里は意外にも泣かなかった。
告白したのは2日前のことらしいから、もう泣き疲れたのかもしれない。それなら、今日の通話はすぐに終わるから良いかなとも思っていた。
しかし、明里は少しの間沈黙し、太一と瀬戸さんにとって、新たな災難の到来を告げた。
「流騎先輩、楓ちゃんのことが好きなんだって。」
「え?」
太一と瀬戸さんは同時に声が出る。瀬戸さんも声を抑えきれていない。
――――――――
すぐに瀬戸さんから指示が飛んでくる。
『どういうことか聞いて!』
「え、ごめん、それはどういう……。それは、安西先輩が言ってたの?」
「流騎先輩が言ってきたの。私、この前に楓ちゃんに相談してから、告白したの。その時に断られたんだけど、楓ちゃんのことが好きだから、無理だって。」
通話口から鼻を啜るのが聞こえてくる。太一は、明里が本気の恋をしていたのが分かる。
瀬戸さんからの指示が来ない。
瀬戸さんも悩んでいるのだろうか。
でも、太一の中では告白されたとしても、嫌なら断れば良いだけだし、そんなに深く考える必要はない気がするけど。
あ、もしかしたら、瀬戸さん、安西先輩と付き合うつもりなのか?
そうだとすれば、太一は告白にOKを出さないといけなくて、付き合ったら、あんなことやこんなことをしないといけなくなるわけで……。そう考えると、太一的には付き合いたくはない。
それに、安西先輩は女癖が悪いとも言っていたな。あれは、瀬戸さんの思い違いなのか?
「楓ちゃんは、私に気を使わなくて良いからね。楓ちゃんの好きにすればいいから。」
明里は涙を拭いながら、言っているのが分かる。
瀬戸さんからまだ指示は来ない。ここは一旦持ち帰って会議すべきだと太一は判断した。
「ありがとう。私も少し考えてみるね。」
そういって、明里との通話は切れた。今日はいつもよりだいぶ早い。明里の中で、いろいろ気持ちの整理をしたいだろうしな。高校生の恋愛は冷めるのに時間がかかるだろうし。
「それで、瀬戸さんどうする? 付き合う?」
明里との通話を聞いていた、もう1つの通話先にいる瀬戸さんに問いかけるも、それはない、と即答された。
「それじゃあ、何で悩んでいるわけ? さっきから何か考え込んでいるみたいだけど。」
「分からないけど、たぶん、普通に断って終わりという訳にはいかないと思う。」
「どういうこと?」
「安西先輩は、相当自分に自信あるタイプだし、私のことが好きだという気持ちがあるなら、すぐにでも告白してもおかしくないと思う。」
「確かに、それは俺も安西先輩と少し話しただけでも分かる。なんですぐ告白してこないんだろう? それとも、最近好きになって、タイミングを見計らってるのかもよ?」
「そうかもしれないわね。そうだと良いけど」
瀬戸さんの考えは、おそらくただ単に告白するのではなく、何か安西先輩に企みがあるのではないかという気掛かりなんだと思う。
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