第5話 ルール決め


 瀬戸さんは思いつく限りのルールを指を折ながら挙げていく。例えば、英単語は毎日100個覚えること。友達の誘いには出来る限り参加すること。部活は休まないことなど。小指まで折り曲げられ、もう一度小指が伸びた。あと、お触り禁止。お菓子を食べすぎない。スキンケアは毎日する。太一は途中から記憶を諦める。

 「すまない、とりあえずお互い共通のルールを作らないか?」

 太一の提案で、それもそうねという許可が出たので、お互いの共通ルールを5つ設けることにした。

 

 ルール① それぞれの体は可能な限り触らない、見ない。

 ルール②それぞれ決めたことは必ずこなす。

 ルール③誰にも入れ替わっていることを言わない。

 ルール④その日にあったことはLINEで全部報告する。

 ルール⑤お互いのことを詮索しない。

 ルール⑥元に戻すためにお互い全力を尽くす。


 そして、瀬戸さん独自ルールは、3つ追加された。これでも挙げていくとキリがないため、かなり交渉を頑張った。

 瀬戸さんルール①勉強を1日最低2時間はする。

 瀬戸さんルール②友達の誘いは特別な理由なく断らない。

 瀬戸さんルール③夏の大会でベンチ入りメンバーに選ばれる(ように努力する)。

 

 これに比べると、太一の独自ルールは圧倒的に少なかった。

 太一ルール①今と人間関係を出来るだけ変えない。

 太一ルール②バイト頑張る。

 1つ目の人間関係は太一にとって重要だが、2つ目のバイトなんて後から絞り出したようなものだ。寝坊で遅刻したり、体調不良を偽って欠勤したことだってある。だが、瀬戸さんは悩みに悩んで3つに絞ったが、太一は1つだけだと、アレだと思ったから張り合っただけだ。

 「おっけ、じゃあ、これでルールは決まったわね。正直、私のルール守るの大変だと思うけど、頑張ってね!」

 瀬戸さんは、太一の肩をぽんと叩く。

 外見的には逆だから、もしクラスの人に見られていたら一大事だろうなと太一は周りを気にせずにはいられなかった。

 「ま、まぁ、俺もこう見えて、週4でバイトをしているからな。部活とはまた違った、金を稼ぐ大変さというのも苦労すると良い。」

 太一は腕組みをして、瀬戸さんに対抗してみせた。

 本当は、誰かの応援に入る時くらいしか週4は入ったことはないし、入ったとしても高校生のバイトだから、3、4時間だけだ。うちの高校の女子バスケ部は県でもベスト4常連校の強豪校だから、部活の方が圧倒的に大変だということもはっきり分かっている。

 「そうだよねー! 私も一度はアルバイトやってみたかったんだ! 大学生になってからかなと思ってたけど、こんなにも早く叶うなんてね!」

 瀬戸さんはちょっと楽しそうで、これからの生活を待ち望んでいるように見える。先ほど、これからどうしようかと悩んでいたのが嘘みたいだ。太一にとってみれば、瀬戸さんの貴重な高校生活を一部奪ったような形になり、どう償えば良いか考えてしまうが、瀬戸さんの顔をみてると少し救われる気がした。

 「ありがとう瀬戸さん。俺、戻る方法、死ぬ気で探すから。」

 太一は、瀬戸さんに向き直って言う。これは、太一自身への宣言の意味もあった。

 「うん! お互い頑張ろうね!」

 太一は、なぜ一緒に頑張ってくれようとするのか不思議だった。太一はもちろん本気で元に戻る方法を探すつもりだ。だが、なぜ瀬戸さんは太一のことを信じてくれるのか。太一は分からない。しかし、そこにみんなが好きで尊敬していて憧れる理由があるのだと感じた。

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