第2話 瀬戸楓
私は人生で一度しかない高校生活を全力で過ごしたいと思ってる。だからこそ、部活も勉強も友達も全力でする。手を抜いたら後で後悔するのが分かってるし、何よりも、私が、そうすると決めているからだ。
今日は、先生の会議とかで部活がない特別な日だ。こういう日はクラスのみんなと遊ぶに限る。そのまま家に帰るなんて勿体無い。
今はカラオケに向かっている途中だ。
「……でさ〜、駅前のタピオカがチョ〜美味しいんだよ! 今度一緒に行こうよ、楓ちゃん!」
今話してくれているのは、高校で友達になった鳥谷陽菜。ふわりと背中まで伸びた明るめの髪を靡かせて陽菜は言った。毛先まで艶々としていて、普段から手入れが行き届いていることが分かる。陽菜は私と同じようにクラスだけでなく、先輩からも可愛いと噂が出るほどの美少女。さらに、陽菜はいつも明るくキラキラしていて、クラスを明るく照らしてくれるムードメーカーだ。容姿だけでなく性格という二物を神様は与えてしまったのだと出会った時は思った。
でも、少し話してみると、陽菜の持つ武器は、神様から得たものではなく、努力によるものだと知った。陽菜はピアノで全国大会に出場した経験があることをさらっと話していた。それも、何の自慢する様子もなく。おしゃれに気を使っているのは、ロングの髪の艶や、着ている服装を見ても分かる。それでも、ネイルをした形跡はなかった。綺麗で細い手は、生まれてきた赤ちゃんの手がそのまま大きくなったようだった。
「そうなんだね、いいねタピオカ! 行こう行こう、私も気になってたんだ〜!」
部活が忙しいからいつ実現するかは分からないけど、そんなことは関係ない。流行っているということは知っているタピオカも飲んだことはないし、そこまで興味もないけど、それも関係ない。
どこで何をするかは関係ない。私の大事な友達が誘ってくれているんだから、断る理由がない。
いや、きっとあまり仲良くない友達だとしても、遊びに誘われたらとりあえず行くと思う。自分の人生という時間を使うのに、優先順位を考えるには早すぎる。高校生活という有限の時間は楽しみに溢れてないといけない。楽しそうと思うことは全部やる。そう決めたんだ。
「ちょっと、男子は何の話してるの?」
陽菜が男子グループに問いかけた。男子グループは先ほどから固まって何か話し込んでいたようだ。
「いや、淳が丸山とか来なかったメンバー気にしてたんだよー。そんなこと気にしなくて良いって言ってんのに。」
「いやでも、そういう訳には……」
「確かに、丸山くんってあまり関わりないよね。もう高校生活始まって、話したことないや。」
「そう! そうなんだよ、楓ちゃん。授業のグループワークくらいでしか話したことなくて、意識的に避けられてる気がして、俺何かしたかな……」
丸山太一くん。なかなか話す機会がなく、どういう人物なのか全く情報がない。私も丸山くんのことは、よく分からないし、自分からみんなを避けているような気がする。部活をしている様子もないし、何か習い事でもしているのかもしれない。もし、何もせずに、みんなを避けて高校生活をしているのなら、それは貴重な人生一回きりの高校生活を無駄にする行為だし、私の一番嫌いなことだ。
まぁ、何も知らない状態で判断するのも良くないし、また丸山くんのことも知る機会があると良いけどな。
「でも、佐々木くんが気にする必要ないと思うよ。」
楓は、佐々木くんに声をかけた。
「え、あ、ありがとう! 瀬戸さんにそう言ってもらえると」
頬をポリポリと恥ずかしそうに掻きながら、佐々木くんが言った。
「そうだよ。別にいいじゃん。来なかった人のことなんて。それに、佐々木くん。顔が真っ赤だぞー!」
陽菜が佐々木くんの顔を指差し、ニコリと笑顔を送る。私も笑顔を返した。
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