第14話 敵の正体

 決戦当日、BWでは華々しく花火が上がった。正装した天界人たちがジャガーノートを前に記念式典を行う姿を偵察機は捉えていた。


 スピーチをする天界人を見て、ダンの顔色が蒼白に変わる。


「マーティン!」

 怒りの形相でモニターを睨みつけたダンを諭すようにアイシャは声をかけた。


「知り合い?」


「あいつは……俺のポストを横取りするだけのために、妹に近づいたゲスな男だ」


「妹さん?」


 ダンは苦しげに記憶をたどる。

「たった二人きりの家族だった。妹はほだされて機密情報をマーティンに漏らした。まんまとやつの策略にハマり、俺はAWへと追放になった。騙されたことを知った妹は、自ら命を絶ったんだ」

 アイシャは初めて聞くダンの過去に戸惑いながらそっとダンの背中に手を当てた。


「辛いだろうけど切り替えて。みんなの命がかかってる」


「……ああ、分かってる」


 ダンの心は波打った。マーティンは狡くて汚いが頭の切れる優秀な男だ。敵に回せば厄介極まりない。嫌な汗が背中を拭う。しかし今更作戦を撤回することなどできない。もはや背水の陣なのだ。


 ダンは大きく腹式呼吸を繰り返すと、ルークに声をかけた。


「ドローンのスタンバイは?」

 

「バッチリだ」 


「いいかみんな、無駄死にするなよ! 通信機器が一つ手に入りさえすればいい。作戦成功させたやつは信号灯を打ち上げろ。信号灯が上がったら全員退避だ!」

 誰もが気休めだと頭ではわかっていた。戦闘が始まれば無傷で終わるはずなどないことは、全員覚悟していた。

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