第10話 迫りくる危機

 データを解析する間、ダンはバロック小屋にこもっていた。


「つまんない」

 アメージンググレースを口ずさみながら、ダンの作業が終わるのを待っていたアイシャは扉の開く大きな音に飛び上がった。


「ダン!」

 無精髭をはやし、げっそりと頬肉を削ぎ落としたダンに、アイシャは駆け寄った。


「どうしたの?」

 眉をしかめるアイシャに、鬼気迫る表情でダンは語った。


「まずい……まずいぞ。プロジェクトがもうすでに動き出している!」


「とりあえず落ち着いて」

 アイシャはダンを小屋に連れ戻すと、椅子に座らせコップに注いだ水を差し出した。


「プロジェクトってなんのこと?」 


「聖者の行進だ」

 この間コピーしてきたファイルの名前だとアイシャは思い当たる。


「このAWエリアの埋め立て率上昇緩和プロジェクトの総称だ。新しくエリアを作るより、今あるゴミを圧縮して容積を増やそうっていうプランだ」


「まぁ、合理的よね?」


「BWにいた頃、俺はこのプロジェクトの責任者だった」

 不意に明かされるダンの過去に、アイシャは耳をそばだてる。


「BWの奴らはAWに暮らす者を人とは認識していない。かつての俺もその一員だった」


「今は違う。ダンはあたしたちをいい方向へ導いてくれているわ!」


 アイシャのフォローにダンは小さく首を降った。

「これは当時のおごり高ぶった俺が考えたプランなんだ。いいか? ゴミの圧縮を担うのは『ジャガーノート』と呼ばれる山車だしだ。高さ25メートル総重量150t。シロナガスクジラに相当するこの山車が一万基投入され、隊列を組んで行進する」


「なっ……」


「ジャガーノートが通ったあとは草の一本も残らない。踏み固められ圧縮した平地が広がる。ジャガーノートは指定されたエリアをすべて平坦にするまで止まらない。ジャガーノートが動き出したら止めるすべはない。全ての生き物は踏み潰される」


 ダンは顔をしかめた。

「本来まだ動くはずのないプロジェクトのはずなんだ。おそらく俺たちの動きに気づいた奴がいる。そいつがBWの人間を殲滅させるためにプロジェクトを前倒しにしたんだ」


「あたしが止めてくる!」

 怒りに燃えるアイシャをダンが止めた。


「待てアイシャ、このプロジェクトはメインコンピューター直轄なんだ。一筋縄じゃいかない」


「でも――」


「勘違いするなよ? 考えるんだ。生き残るのは俺たちだ!」

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