新しい柔軟剤

長島芳明

新しい柔軟剤

 洗剤会社に勤めているエヌ氏は上司から嫌われてしまい、折しも不景気で追い出し部屋に左遷されてしまった。



 柔軟剤の開発部署だが、市場シェアでは1%未満の会社だった。上司から「半年以内にシェア5%を超えるような商品を特許申請しろ」と命令されたが、開発予算は宝くじの一等賞レベル。大手と比べると100分の1以下の予算である。



 さらに用意されたのは30年以上前に閉鎖された、ホコリ臭い研究室。部下は独りもいない。



「冗談じゃねえよ。やってられっか」



 早速、居酒屋で同期の親友と飲んで愚痴の語り合いをした。



「自主退職だと、退職金が少ないしな。どうすんだよ」

「新商品を開発すればいんだろ」

「だからどうやって」

「知るか!」



 ベロベロに酔っ払って恋人の家に泊まって目が覚めると、恋人はビデオ通話でエヌ氏の上司と話をしていた。聞き耳を立てていると、恋人同士のような会話をしていた。



「ふざけんなよ。追い出し部屋の理由はこれかよ!」



 エヌ氏はゴミ箱を蹴り上げた。ビデオ通話の二人は慌ててビデオ通話を切り、恋人は慌てた口調で「やましい関係じゃない」と説明したが、エヌ氏は部屋を飛び出した。



 そしてエヌ氏は研究室に入り、試行錯誤をしていろんな研究を繰り返したが失敗の繰り返しだった。タオルは柔らかくならず、氷のように固くなる有様だった。





 半年後。



 上司や親友の同期の目の前で柔軟剤の発表会が開始された。エヌ氏は洗濯機にタオルと柔軟剤を入れた。そしてタオルを乾燥させた。


「約束通り、特許を申請しました」

「では、どれどれ」



 上司はニヤケ顔を浮かべてタオルを手にすると、タオルはカチコチになっていた。



「手触りはどうですか?」

「こんな金属のように硬いタオル。使えるわけないだろうが」

「使えますよ、こんな風に」



 エヌ氏は上司からタオルを奪い、硬くなったタオルで上司を撲殺した。




 やがてエヌ氏が開発したレシピは特許として開放され、殺人の凶器シェア5%以上を達した。

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