第5話 笑顔
「ん…………」
凛が目を覚ますと、近くに整った顔。赤眼が凛の唖然とした顔を映していた。
「おはよう~」
「……………………きゃぁぁぁぁぁああああ!!!!!」
「っ、元気なのは嬉しいけど、さすがに耳が痛いよ…………」
咄嗟に起き上がり、離れる凛。その時、まだ床に転がっている雫が目に入る。その近くには笑顔を浮かべた時雨。右手を動かし、頭に添えた。
何しているんだろうと思いながら見ていると、雫の身体から突如として黒いモヤが現れ始める。
「なに、あれ……」
現れた黒いモヤは、時雨の手にどんどん吸われていく。
全てを吸い込んだ時雨は、手を一握り。下唇を舐めると、もう興味が無くなったというように立ち上がり勇人を見た。
「鬼神様、終わりましたか」
「うん。反省しなかったから、閉じ込めた」
「はい、私もお腹がいっぱいです」
「それなら良かった。そいつはどこかに捨てておいて」
「はい」
凛はスムーズに進み過ぎている会話に困惑し、何も言えない。そんな彼女に勇人が目を向け頭を優しく撫でる。
「お疲れ様。大丈夫、もう、大丈夫だよ」
白い歯を見せ笑った勇人の表情を最後に、凛は突如意識が遠くなり、何も言えず意識を失った。
力が抜けた凛を、勇人がしっかりと受け止め、抱きしめた。
「……………………美味しそう」
「さすがに寝込みは駄目ですよ。しっかりと起きている時に、食べてください」
「…………力使ったからお腹空いた。食べたい」
「我慢です。ほら、この人のならいいから」
床に倒れ込んでいる雫を蹴り、時雨は笑顔で差し出す。だが、勇人は世界滅亡が目の前まで迫っているような顔を浮かべる。その顔に時雨は笑いが込み上げ、口元を抑え我慢する。
「……………………我慢する」
「そんなに嫌なんですね」
「だって、高級なデザートが目の前にあるのに、わざわざその辺に落ちているコンビニのおやつのかすを食べたいと思う? なら、我慢するよ」
「例えが失礼ですが、わかりやすいですね」
時雨の言葉を最後に、勇人は立ち上がり廊下の方に歩き出した。外はもう夜になっていたため、廊下は暗く彼にとっては過ごしやすい環境になっている。
「私のモノだよ。一目惚れなんだ、凛は誰にも渡さない。絶対に、ワタサナイ」
笑顔で言い切り、闇の中に姿を消した。
教室に残された時雨は顎に手を当て、不思議そうに眉を顰める。
「そんなにその彼女がいいのですね。まぁ、今まで出会った中で一番、人に近い存在だからですかね。ふふっ」
「今後が楽しみですねぇ」と、笑い声を教室に残し、その場から消えるように姿を消した。
☆
旧校舎の教室。中には勇人、時雨、凛の三人が居た。
勇人が一つの椅子に座り、凛を膝の上に乗せ抱きしめる。そんな光景を楽しんでいる時雨。
「あの、楽しんでいないで助けていただけませんか?」
「人の幸せな時間を邪魔するのは駄目でしょう?」
「い、いえ、助けてほしいのですが」
「私の主は鬼神様なので」
「ハートでも付きそうな笑顔で言わないでください」
何でこんなに懐かれたのか理解出来ない凛は、ただひたすらに困惑する。
困惑させている勇人は、今も何食わぬい顔で抱きしめていた。目元に巻かれている赤い布がヒラヒラと揺れている。
横目で彼の顔を見ている凛は、少し残念そうに赤い布を見ていた。
「ん? 何?」
「……なんでもありません」
なんで見られていたのか理解出来ない勇人は、凛が顔を背けた事により見えてしまった首筋に意識が落ちる。
次の瞬間。
――――――――ガブッ
「いっ!!!!」
噛まれた首筋を抑え、勇人を見る凛。その視線を受け止め、にこっと笑う。
「――――美味しい」
「…………良かったです」
もう諦め、凛が手を離した瞬間、勇人がまた同じところに噛みつき、再度同じ甲高い悲鳴が教室内に響いた。
「~~~~~~~~いきなりはやめてください!!!!!」
鬼神勇人は霊が見えない 桜桃 @sakurannbo
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