三章 ラジテ村 第一話

 ――よく似合うねえ!


お姉ちゃんは笑った。ひまわりで編んでくれた花かんむり。灼熱の太陽と真っ白な大きな雲。突き抜けるほど青い空とは対照的に大地には真っ黄色な花畑が広がっている。大輪のひまわりは、熱く、それでいて嫌みのない夏の太陽とよく似ていた。


――どこかの王子様みたい!

お姉ちゃんはそう言って、ケヤクを強く抱きしめた。


 彼は幸せだった。この村に来られて良かった。故郷で真冬に起こった戦争から逃げ出し、母の手に引かれて何日も歩いた。人や家が燃えるあの嫌な匂いはここにはない。近所の人たちはどうなっただろう。あの戦争がなぜ起こったのか、幼い彼には分からなかった。ただ逃げた。母に手を引かれ、ただ走り、走り、そして、歩いた。怖くて、ひもじくて、それでも歩くしかなくて、ひたすらに歩いて、ここに辿り着いた。


 優しく風が吹いた。お姉ちゃんの淡い金色の髪が風にたなびく。


――ねえ?

お姉ちゃんが問いかけた。


なあに? と彼は答えた。


――この村に来られて良かった?

うん! もちろん、と笑って答えた彼を、お姉ちゃんは悲しそうに見た。


――でも、だめよ。すぐ出て行かないと


彼は不思議に思った。


――なんで?

――来ちゃうから

――なにが?

――“黒いの”が来るから


 それは黒い鷲だった。漆黒の大きな鷲獅子。その背には黒い鎧を纏った騎士。騎士は指で差した。


――あれだ

黒の騎士は付き従う兵たちに言った。兵たちは頷き、彼女を捕らえた。


――いやっ! 放して!

逃げようともがく両手を掴み上げられ、お姉ちゃんは叫ぶ。泣き叫び、その髪を振り乱してもがいた。


――だめ!


自分も何かを叫び、兵の一人に突き飛ばされた。


――やめて!


彼は追い縋ろうとし、蹴り飛ばされた。少女は後ろ手に括られ、馬に縛り付けられた。


 黒い男が言った。

――喜べ。お前にはいい服を着せてやろう





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