ニラカナのリレー小説企画 第十九話

繊月ハクサイ

第十九話

 アリアは愛しい相棒の心の中から、その〝侍〟に向かって憎しみと怒りのこもった瞳を向けていた。


 くそっ、このままじゃ本当にエイルが……殺されてしまう……!


 嘆きながらも、アリアは自分がエイルと入れ替わったところでどうにもならないことは理解していた。


 どうすればいいの……。


 そうしてアリアの思考が停滞を迎えると、空からバサバサと、その存在を示すかのように音を立てながら〝烏〟は舞い降りた。


 真っ白なこの世界に舞い降りたその烏からは、ただのカラスではないと思わせるような、初めからそこにしかいなかったような、そんな不思議な感覚がする。


「あなたはもしかして、神様なの……?」


 その神々しい姿に見惚れてしまったからか、なぜだかアリアはその烏に向かってそう話しかけていた。


 なぜこのエイルと私の精神世界に〝烏〟がいるのか、なんで私はこうも惹きつけられているのか。


 後々考えれば思うところはいくつもあるがアリアはただ、この〝烏〟がエイルを助けてくれるような、そんな気がしていたのだ。


 「ねえ、このままだとエイルが殺されてしまうの。どうしよう……?」


 ただのカラスにこんなことを話しかけても意味はないのかもしれない。


 そう思いつつも、アリアは自分の勘と一筋の希望を胸に〝烏〟に話しかける。


「私は、どうなってもいいから……! 私は! どうなってもいいから!! だから……もし、あなたが神様なら、どうか私に力を貸してください…………!!」


 その瞬間、ふっと微笑むかのように〝烏〟の瞳は淡く光り、その瞳がグワっと見開かれたと思うと、それと同時に辺り一体に暖かいような冷たいような風を吹かした。


 吹きつける風を浴びると、アリアの体には力が漲り、思い起こされるのはエイルとアリア二人のたくさんの思い出。


 旅を始めた頃の思い出、二人で初めて敵を打ち倒した時のなんとも言えないような高揚感が次々と湧き上がってくる。


 それと同時に、どうしようもなく痛感してしまう。

 

 ——きっとこの力は、私の命と引き換えなんだ……。


 でも、今はそんなことどうだっていい、私は、自分の命よりエイルの笑顔がいい。


「エイル! 代わって!」

「っ……ア、アリア……なにか、策は……あるの?」

「うん……。大丈夫、もう大丈夫だから。私と代わって」

「うっ……、わかった」


 エイルは長く連れ添った相棒を信頼して静かに身をひいた。


 ずっと待たしてごめん。精神世界の方が時間が経つのが遅いからって流石に遅すぎたようだ。

 エイルの体は、もうボロボロだった。


 そうだ、この力の最後はエイルの傷を癒すために使おう。


「おい、どうした? もう反撃はできないか!? ああ!?」


 狂ったような瞳でアリアを見つめる〝侍〟のただでさえ紅色に染まっていたその服は、さらにエイルの血で紅く染まっている。


「ん……? なんだ? お前、さっきまでと何か違うような……」

「ああ、私はさっきまでのエイルとは違う……。何もかも違うよ」

「へっ、よくわかんねえが雑魚が入れ替わったところでどうにもならねえよ!」


 たしかにその通りだ。


 これまでの私なら。


「今からお前を、ぶっ殺す……!」

 

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ニラカナのリレー小説企画 第十九話 繊月ハクサイ @EIeita3021

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