006

「えーっと、つまりなんだ。オレたち子供はその生命エネルギーってのが多いから狙われて、お前たち妖精は俺たちに寄生して増える。んで、その対価に魔法を使えるようにしていると」

「そういうことです、だってさ」

 

 世界中が知りたい情報が明かされた。

 妖精なんてのがいたのも驚きだし、俺たちに卵を植え付けて増えてるというのにも驚きだ。

 さらに、明確な対策方法が無いってのには驚きを通り越して絶望だね。

 

「ねえ、聞きたいんだけどさ、なんで破壊はそれを僕たちに教えてくれたの?君は増えたいとかは思わないの?」

「うん。思わないね。だってさ、考えても見てよ。卵から産まれてくるのって全部自分なんだよ!それって怖くない?なんで教えようと思ったかは、分かんない。信じてみようって思ったからかな」

 

 曖昧な答え。

 だが、「こうやって姿を見せてるんだから、少しくらい信用して欲しいな」と破壊は言う。

 見えないが何だかモジモジしていそうな口調だな。

 

「まあでも、他の妖精よりかはマシなんじゃねえの?ポピーを助けてくれたのもお前なんだろ?」

 

 そうだポピーのこと!突然魔法が使えなくなっていたっけ。

 

「うん、一応ね。元々は私たち妖精のせいだから恩着せがましくするつもりはないけどね」

「いや、それでも助けてくれたことには違いねえ。ありがとうございます。破壊の妖精さん」

 

 さっきまであんなに噛み付いていたアルスが礼儀正しくお辞儀までしている。

 彼はこいつ破壊のことを信用したという証か。

 でも俺はまだ……

 

 そうこうしている内にお昼休みも終わりのようだ。

 ポピーはお昼も食べずに寝たまま――

 

「やべ。俺たちも途中じゃん!」

「あ!きょ、教科書で隠して……とかいけるか?」

 

 そんな考えを巡らせるのも束の間、午後の授業の担当先生が入ってきて……ギボウシ先生!?

 彼は教室を見回したあと、手招きをしだした。どうやら俺たちを呼びに来たようだ。

 

「今朝の話の続きがしたいから、着いてきてくれるかね。お弁当は持ってきて構わないよ」

「か、神だ」

「救世主。お腹の救世主様だ」

 

 俺たちは小さくハイタッチして、食べかけのお弁当は大事に抱え、未だ寝ているポピーは腕を引っ張ってギボウシ先生の後を付いて行った。

 

 

「さて。クラスの子達からね、君たちが突然暴れだしたと。それに何やらがどうのって騒いでいたらしいね。何があったのかな?」

 

 知らぬうちに誰かに通報されていたらしい。

 まあ、あんなに暴れていたのだから無理もないか。

 

「えっと実は、妖精が俺たちを魔法使いに――破壊、いるか?」

 

 俺たちは破壊から聞いた話をそのままギボウシ先生に伝えた。

 破壊を呼び出してみれば頭上からすーっと現れる。

 こいつ、頭の上に乗ってたのか?

 

「ほう。これが妖精……魔法使い事件の原因、か」

 

 ギボウシ先生はどこからともなく虫めがねを取り出し、破壊を観察している。

 ただ、虫めがね越しでも何となく人っぽい形をしているなー、程度しか識別できず、今まで妖精を見つけられなかったことを強く認識させる。

 

「破壊の妖精、と言ったね。君は私たち人間の味方、と考えていいのかね?」

 

 破壊は大きく首を縦に振った。

 

「ふむ。ではささやかながら家をプレゼントしよう。明日、玩具の家を持ってくるから、それまではここで好きにしていなさい」

 

 破壊は大きく首を横に振った。

 

「ん?ここは気に入らないかね?」

 

 破壊はこれまた大きく首を横に振って、ふよふよと俺の耳元まで飛んできた。

 

「この子の生命エネルギーが多いから他の妖精に狙われちゃうんだ。だから一緒にいて守ってあげなきゃいけないの。らしいです」

 

 初耳だ。俺って生命エネルギー多かったのか。

 それで生命エネルギーって結局何なんだ?

 破壊も、無くなったら人は生きていられないもの、しか知らないようだし。

 まだまだ調べなきゃいけないことは多そうだな。

 

「あと、あの女の子も多いから一緒に守ってあげないと!」

「ポピーもなのか。あ、もしかしてまだ10歳じゃないのに魔法使いになった理由って」

「そうだよ。生命エネルギーが多い子は狙われちゃうんだ。だから2人とも、ずっと一緒にいてね!」

「ずっとって……家、別々なんだけど。それでも?」

「もちろん!」

 

 うーむ。なかなか困ったことに。

 とりあえず父様に相談してみよう。

 

「な、なあなあ。2人が多いならオレは?」

 

 その場にいる子供でただ1人、アルスは破壊が守る対象に入っていない。それ即ち

 

「君は普通、というよりどっちかって言うとちょっと少ない、かな……だって」

「少、ない?なんで、オレだけ……」

 

  あらら。ガックリ項垂れてしまった。

 でも、生命エネルギーがそもそも何か分からないし、少なければ妖精に狙われないらしいじゃないか。

 今のところ多いメリットなんて見つからないぞ。

 

「さあさあ、色々と新しい発見がありましたが、3人ともそろそろ教室に戻りなさい。ポピー君も起こして、お弁当を食べてからね」

「あ、はい!すぐに食べちゃいます!」

 

 俺は我が物顔でソファを占領しているポピーを叩き起し、3人でお弁当をかっ食らった。

 

「それでは、失礼しました!」

「うむ。午後の授業もしっかり励むように。それと破壊君。その子たちのことを頼んだよ」

 

 破壊はどうも俺の髪に掴まるのがお気に入りらしく、返答は聞こえなかったがきっと呑気に手でも振っていたりするのだろう。

 俺たちは駆け足で教室へと戻った。

 

 

「妖精、か。アレの言っていた言葉は信用できるのか?いや、そんなことはどうでもいいか。問題はどうやってあんな極小の生物を研究施設まで連れ去るか、だな」

 

 1人となった部屋に、男の声だけが響いた。

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