005
始業式も終わり、すぐに授業は始まる。
1時間目が始まる頃にはポピーもいつも通り。
窓際で暖かな日差しに包まれ夢の中だ。
俺たちの心配は何だったんだと叫びたい気分にもなる。
「おーい。起きろポピー。お昼食べる時間無くなるぞー」
「んー……あとちょっと」
こうなったらもうダメだ。放っておこう。
「午後の授業が始まっても知らないからなー」
結局ポピーは机に突っ伏したまま動かなくなり、アルスと2人で昼食を摂ることに。
「なあブルーデイジー。魔法ってつまり何なんだろうな?」
「そんなこといきなり聞かれてもね。大人だって分かってないんだから」
「だよなぁー……」
魔法か。もし寿命を減らさないでもいいなら使ってみたいけど。そんな都合よくは――
「使いたいの?」
「うわっ!?」
耳元でいきなり声が聞こえた。
驚いて椅子から落ちたから皆の視線が痛い。
「何してんだよ。大丈夫か?」
「あ、ああ。ちょっと驚いたっていうか……」
「驚いた?何に?弁当に虫でも、入ってないか」
アルスは怪訝そうな表情をしているが、俺だって変な気分だ。あの変な声は――
「ちょっとー。変なって酷いよ」
「うわっ!?」
「おい、またかよ。何してんだって」
「いや何って、さっきから変な声が聞こえて。俺だけ?」
「そうだよ。さっきから君に話しかけてるんだ。あと、変な声って言うのやめてよ」
俺だけに聞こえている声……
なんだか気持ち悪くなり、左耳に触れる。
「ちょっ!?危ないじゃん!潰れるとこだった……」
「つ、潰れる?何か、いるのか?」
「いるよー!いるいる!」
「おいブルーデイジー?ほんとに大丈夫か?」
傍から見たら俺は1人で喋っているように見えているのだろう。だが、これは幻聴でもなんでもない。耳元で、本当になにかが喋っているのだ。
「今から君の左手の上に乗るから、よーく目を凝らして」
そう言われ、見てみるも何もいない。それに何も感じな……ん?
「光?」
言われて、暗くしてようやく気づくような、それほどに微かな光が確かにあった。
それは掌の上でふよふよと動き回り、生き物であることが見て取れる。
「なんだ、これ?アルス、お前もちょっと見てみろ。ここ、目近づけて」
「ガチでさっきからおかしいぞ、お前ええ!?な、なんだこの光!?動いてるぞ!」
あー、アルスの慌てぶりを見て落ち着けた。なんかこういうの、あるよね。
「えっとー……光さん?さっきみたいに、もう1回話せる?」
俺がそう聞くと、その光はふよふよとまた耳の方へ
「光さんじゃないよ。私は妖精。破壊の妖精だよ。よろしくね人間さん」
「破壊の妖精?そんなおとぎ話みたいな」
信じられないと言おうとしたが、あるではないか、まんまおとぎ話の産物が。
「魔法……妖精……もしかして」
「わ、鋭いね。一瞬で辿り着いちゃうんだ」
「っ!?アルス!あの光だ!妖精が俺たちを魔法使いにしてるんだ!」
「は!?まじかよ。おいポピー、起きろ。逃げんぞ!」
俺は衝撃の事実を聞かされて、その場から飛び退いてしまった。そうなれば当然
「やば。妖精、どこいった?」
小さすぎる光の粒は当然見失うわけで。
キョロキョロと辺りを見回すことに。
廊下に逃げて……そうだ、先生!先生に――
「待って待って、話を聞いて!」
「っ!そこか!」
右耳を引っぱたく。
さながら蚊と戦っているようだ。
「魔法使いにはしないよ!」
「今度はそっちか!」
次は左耳を叩く。
段々とクラスの皆の視線が痛くなってきた。
でもやめるわけにはいかない。俺の、俺たちの寿命がかかっているのだから。
「お願い!話を――」
左耳
「魔法使いにはしないって!」
右耳
「真実を教えるよ!」
左み――真実?
「なんだよそれ?妖精が俺たちを魔法使いにして殺してるってことじゃないのか?他にもなにかあるのか?」
「あ……疲れた。うん、本当のことは教えるからさ、とりあえず潰そうとするのはやめてくれる?私は誰も魔法使いにしたりしないから」
ま、まあ、変な人というレッテルを貼られるのも嫌だし、何もしないというのなら潰すのは辞めることにしよう。
俺はいそいそと蹴飛ばした椅子を元に戻して座る。
未だ皆からチラチラと視線を感じるが、もういいや。今はこの妖精だ。
「よし。教えてくれ妖精。魔法ってなんなんだ、魔法使いってなんなんだ、なんで子供ばかり殺されるんだ、ポピーを魔法使いにしたのはお前か、ようせ――」
「ちょっ待って待って!色々飛ばしすぎだよ。1個1個説明するから、聞いて?」
仕方ない。ゆっくり進めることにしよう。
「まずは魔法から、だね。
魔法っていうのは、私たち妖精が持つ力のこと。次の魔法使いは何って言うのにも繋がるんだけど、妖精が人間に取り……んー、寄生することで使えるようになるの」
「は!?寄生!?お前ら、気持ち悪!」
破壊の声は小さすぎて1人に聞かせるのがやっとなため、俺が言われた通りをそのまま発しているのだが、アルスが噛み付いた。
まあ寄生されるのが気持ち悪いというのには大いに納得だから何も言わないが。
「なんだよそれ。妖精ってオレたちの中に入ってんの?それに、寄生ってあれだろ?中から食べて行ったり卵を植え付けたりとかの」
「そっちの人間さんの言ってることは間違ってない、だって」
ああ、アルスの顔が……それはオエー!という表情だな。
「じゃあ次の、魔法使いは何と子供ばかりって言うところに進むね」
次々と語られてゆく真実に、俺たちは驚愕するしかないのだった。
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