002
「た、ただいまー……」
「おかえ、あれ?破壊じゃん?珍しー。いないと思ってたら外に行ってたんだ」
破壊の妖精は自分の住処へと帰ってきた。
それは木の洞や洞窟、岩陰など。人がいないところに寄り集まって暮らしている。
破壊たちはと言うと、木の洞に5体で。
破壊、炎、石化、浄化、沈下の妖精だ。
ちなみに、私を放り出したのは炎で、ここのリーダー的な存在でもある。
そんな炎……というか、石化以外はいないようだ。
「えっと、皆はどこに?」
「さあ?私が帰ってきた時には誰もいなかったよ。ま、どうせ新しい人間のところにでも行ってるんじゃない?」
「そっか」
他の3体に同じ説明をするもの面倒だし、石化に伝えておいてもらおうか。
「私さ、今しがた宿主見つけてきたんだよね。だか――」
「うっそー!ずっと選ばなかったのにどうしたの!?心変わり?やっと増やす気になった?そっかそっかー。うん。お姉さん嬉しいよ」
「いや、別に姉じゃないじゃん。とにかくそういうことだからさ、10年は帰ってこないと思うから、他の皆に伝言よろしくね!」
私はそれだけ伝えてさっさと飛び立つ。住処の方から「任せとけー!」と声が響いてきたから上手く騙せたことだろう。
怪しまれていないようで何よりだ。
私はマーキングしておいたあの少年の元へと急いだ。
「レボルフ様!おはようございます!」
「うん、おはよう」
桜咲き誇る新学年。
誰と同じクラスになるのかといったドキドキと共に登校だ。
「よ!ブルーデイジー。相変わらずの人気だな!」
「やあアルス。あれは俺じゃなくて父様が凄いだけだよ」
黄色いツンツンとした髪を短く揃えた彼はライリー・アルストロメリア。
アルストロメリアという華を家名に持つ華族だ。
どういうわけか、華族どうしは家名で呼び合うという風潮があるので、俺は彼のことをアルスと略称して呼んでいる。
「いやー、お前狙いのやつも多いと思うけどな」
「俺狙い?なんでまた」
俺自身は何もしていないのにと、怪訝な表情で首を傾げる。
「まじか、お前……いや、何でもねぇや!」
「は?何なんだよ。変なやつ」
アルスは言葉を飲み込んだ。
お前は年上から人気なんだぞという言葉を。
さて、そろそろ俺たちの学校を紹介しておこう。
国立関東学園。小中高一貫のマンモス校。
広いグラウンドに2つの体育館。プールに図書館、食堂、寮、そして病院と、文字通り世界の宝と化した子供たちを育成、守る施設がこれでもかと詰め込まれている。
人口が激減したことで殆どの学校が閉校に追い込まれた。そこで、国は各地方ごとに1校ずつ国営の学校を建てたのだ。
全国で9校。それだけしか無いからこそのお金の掛けようというわけだ。
「ブルーデイジー!クラス分け見に行こうぜ!今年も同じクラスだといいな!」
「そうだね。まあ、心配する必要は無いと思うけど」
華族は一般人から敬われる。そして数も減ってしまったために多く無い。
そんな様付けで呼ばれるような存在を別々のクラスに配置してみろ。友達など出来やしない、見事にぼっちの完成だ。
だからこそ――
「ほらやっぱり、5年1組。俺とアルス、それに
「本当だ。眠り姫ともまた同じかー」
アルスが眠り姫と呼んだのはポピーの事。
白いボブカットの女の子で、寝ている姿ばかり見られることからそういうあだ名が付いたのだ。
「眠り姫が遅刻しないで来るか賭けようぜ!俺は遅刻に1票!」
「俺も遅刻の方かな」
「は!?おいおい、それじゃあ賭けにならねぇじゃねーか!つまんねー」
「いや、だってポピーが時間通りに来ることなんて年に1回あるかどうかじゃないか。分が悪すぎるって」
そう、それくらい彼女はおっとりと言うか自堕落なのだ。華族でなければ進学など、もしかしたら在籍することも出来ていないかもしれない。
アルスは賭けが不成立になったことにブーブー文句を垂れているが、俺は特に気にせずに教室へ向かう。
ガララと景気よく音を立てる扉を開ければ皆からの挨拶が……無い?
クラスの雰囲気もやけに暗いような。
学年初日から何事かと不思議に思うが、その理由はすぐに分かった。
窓際の一番前の席。ポピーが泣いていた。
嫌な予感がした。皆の腫れ物を扱うかのような視線。華族の女の子が泣いているからとかそういうのでは無い。
もっと嫌な……
「ポピー!どうした?何があった?」
「……ま、ほ……かい」
ポピーの声は嗚咽混じりで聞き取りにくかったが、俺もアルスも、分かってしまった。
魔法使い。彼女はなってしまったのだ。
「クソが!何なんだよ!ふざけんな!俺たちばっかりそうやって!」
アルスが机を蹴飛ばしている。
俺も兄を失ったから荒れる気持ちもよく分かるが、周りが萎縮してしまうから止めさせないと。
でも、今はポピーの方だ。
かける言葉なんて、見つからないけど……
魔法使いになってしまった子への対処なんて、どうしたらいいか誰も分からない。
俺はとりあえず、泣き続ける彼女の頭を優しく撫でていた。
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