003
破壊は困惑していた。
マークを付けていたあの少年。辿り着いたと思ったらその子の友達か?それに妖精が寄生していた。
しかもその妖精、私の知り合いだ。
「お、来たか破壊。いい宿主見つけたなー、羨ましいぜ」
「う、うん。沈下は……その子に憑いたの?」
「ああ。本当はそっちのが良かったんだけどなー、破壊のマーキングがしてあったから仕方なく譲ってやったよ。初めての寄生だもんな。応援してやらんと」
マーキングはしておいて正解だった。いや、それよりも沈下が憑いた女の子だ。
彼女も生命エネルギーがかなり多い。狙われやすいもの納得、か。
「ねえ、その子から出て行ったりとかは……しない?」
「はあ?お前バカかよ。こんなにたくさんのエネルギーをみすみす逃すわけねえだろ。いくら初めてだつっても、2つも譲る気はねえよ」
別にそんな気は無い。
ただ人間たちが食い物にされているのが嫌なだけ……目の前でそれを見るのが嫌なだけ、なのかな。
「ほれ、お前もさっさと卵植え付ける準備しろよ。横取りされても知らねえぞー」
沈下はヒラヒラと手を振りながら女の子の中へ消えていった。
どうしよう。女の子は泣いてるし、
助けてあげたい、けど……
破壊が触れば沈下は壊れる。
別に仲間とか家族とか、彼らのことをそういう風に思ったことは無い。むしろ、数々の美味しいものや楽しい娯楽を作り出す人間の方が大切に感じるくらいだ。
だからそれを奪った妖精を憎んではいるが、殺すとなると別だ。そういう行為自体に嫌悪感がある。
神殿ではレボルフを守るために咄嗟のことだったから仕方ないにしても、今回はわざわざ出向いて殺さなければならない。
それがどうしても、私を躊躇わせる。
……いや、守ろうと決めた時にこうなる事は予想出来ていた。
いずれたくさん殺さなければならないんだ。
これは、その練習か。
破壊の心は決まった。
彼女は自分の顔をぺちり叩き、未だ泣き続けている女の子の中へと飛び込んだ。
ポピーは魔法使いになった。
それが聞こえたのは俺とアルスだけだろうが、俺たちの様子からしてもうクラス中に知れ渡っていることだろう。
俺は彼女に何をしてやることも出来ず、ただひたすらにその頭を撫でている。
それからもうすぐにチャイムが鳴った。
「ルーナ様、一緒に来てもらえますか?」
先生は扉を開けるや否やポピーのことを呼び付ける。
ルーナ・
「先生、ポピーは今……」
「ええ分かっています。そのことについてお話があるのです。レボルフ様も、状況をご存知でしたらご一緒に」
「先生!俺もだ!俺も知ってる」
先生は無言で頷き、俺たち3人を廊下へ出るように促す。
ポピーは机に突っ伏してしまっているので、俺が肩を貸して連れて行くことに。
「校長先生、失礼します。ルーナ様と、状況を知るレボルフ様、ライリー様をお連れしました」
「……入ってくれ」
「ギボウシ先生!ポピーが……どうにかならないんですか!」
「アルストロメリア君、少し落ち着こう。それを今から話し合うんだ」
関東学園の校長先生もまた華族。
ジェイダン・
「ポピー君、誕生日はいつかね?」
「……6月、13日」
「まだ10歳じゃないじゃないか!」
「珍しい症例ではありますが、何件かはそういった報告もあります。ただ、その規則性は掴めていないようですが」
妖精たちは10歳になったから寄生しにくるわけではない。生命エネルギーが最高点に達するのが10歳というだけなのだ。
しかし、稀にレボルフやポピーのように特別多く持って生まれる人間がいる。
そういった者は10歳を待たずして魔法使いになる可能性があるのだ。
「3人とも。魔法使い、魔法についてはどこまで知っている?」
「……普通であれば考えられないような力。えっと、物理……放牧?を無視するって」
「うん、惜しいね。正しくは物理法則だ。体から火を出したり、物を浮かせたりといった力だが、調べてみても本人は一切のエネルギーを使っていないことが分かった。魔法を使っても10年。使わずとも10年。魔法使いになってしまった以上、同じ時間を有意義に使わねばならない。
協力してくれるかな?ポピー君」
「……うん」
原因の究明。
未だどの国もなし得ない事だが、できないと決まったわけではないのだ。
ポピーが寿命を迎えるまでの10年で、治す方法まで見つける。
俺とアルスは、ポピーの後ろで拳を突き合わせた。
時間的にはもう始業式が始まっている。
体育館から校歌が聞こえてくるが、俺たちは別のところにいる。
校長先生と俺とアルスと、ポピー。
この4人で実験室に来ているのだ。
何故こんなところにいるのかと言うと、ポピーの魔法を調べて政府と研究機関に映像を送るためだ。
校長先生とポピーの話から、彼女の魔法は何でも沈めてしまう力、沈下だと判明してはいるが、実際に見てみれば何かが分かるかもしれないというわけ。
「カメラの準備オッケー」
「物の配置も終わったぞ!」
「うむ。ではポピー君、魔法を使ってくれるか?」
「……うん」
ポピーは実験室に置かれた台の上に立ち、床に散らばるブロックやタイヤなどを見つめる。
「……あれ?」
「ポピー?もうカメラ回ってるよ?」
「……うん、分かってるけど……」
待てど暮らせど、物が沈み込んだりはしない。
「……おか、しいな。何にも、なんない」
しばらくカメラは回り続けるが、そこに映像が記録されることは無かった。
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