001
「はぁーあ、嫌だなぁ」
思わずそんな声が漏れ出てしまうくらい、人間の街が好きでは無い。いや、好きでは無くなった……か。
朝のこの時間帯であれば、前は人々が活気よく行き交っていた。美味しい食べ物や飲み物なんかをちょびっと分けてもらうのなんかとても楽しみだったのに。
それが今ではもう、至る所から泣いている声しか聞こえてこない。
「それもこれも、私たち妖精のせい、なんだよね」
そんな悲しみに明け暮れている人間たちとは真逆に、妖精は今も元気に数を増やし続けている。
魔法使い
子供が10歳で変貌するそれは、言わば妖精が寄生した個体。
人間たちは原因すら分からずに、己の子供が死んでゆくのをただ見ていることしかできない。
医療でダメだったからか、神殿なんかをたくさん建て始めたけど、完全に逆効果。
だって、10歳になる子が自らやってくるのだから。
妖精にとっては宿主のバーゲンセールのようなもの。探す必要すら無くなってしまった。
「行くあてもないし、近くの神殿にでも行ってみようかな。寄生されそうな子がいれば、邪魔とか、してみたり」
出来るかは分からないが、やるだけやってみよう。きっと私みたいなのは偽善者と呼ばれるのだろうが、何もしないよりかは多分マシだ。
「神様!どうか、どうか私たちの息子は魔法使いにしないでください!」
「もうレボルフだけが、あの子だけなんです!私たちの子供を、これ以上奪わないで……」
両親に片方ずつ手を握られている少年。明日0時に誕生日を迎え、10歳となるのだ。青空のように鮮やかな瑠璃色の髪を肩口より少し上まで伸ばし、華奢なその体躯はまるで女子のよう。
レボルフ=T・
家名に花の名を冠する、華族だ。
彼とその両親は、まさに神頼みに来たというわけだ。
「父様、そろそろ時間なのでは?」
「あ、ああ。そうだな。ではレボルフ、私は仕事に行ってくるよ。アリア、頼んだ……」
「はい。行ってらっしゃい、ジャック」
父は政治家だ。華族の一員として、混乱の最中にある日本を導こうと奔走している。
ただ華族と言っても、かつてのように爵位が別れていたりはしない。家名の花の色が髪と目に現れる。そういった血筋の人間を、華の一族として敬うという慣習が残っているだけ。
「レボルフ、帰って学校の準備をしましょう」
「はい、母様」
今日から俺は小学5年生。新学年が始まる期待と魔法使いへの不安が入り交じって複雑な気分だ。
魔法使い、か。魔法は1度は使ってみたいが、あと10年で死ぬのは嫌だな。やっぱりなりたくないか。
俺は母に手を引かれ、抱えの運転手が待つリムジンへと乗り込んだ。
「あ、危なかったー……」
今の子の生命エネルギー凄かった。ここに来たってことはもうすぐ10歳なんだろうけど、あれは間違いなく狙われるね。
でもどうしよ。今精霊壊しちゃったけど……大、丈夫だよね?誰にも見られてないよね?
レボルフを狙った妖精はいた。彼はまだ一応9歳だが、その生命エネルギーの多さゆえに勘違いした精霊が寄生しようとしていたのだ。それを破壊の妖精が咄嗟に破壊し、今のところ彼は守られた。だが
「うーん。寄生されるのも時間の問題だろうし、しばらくは守ってあげようかな」
破壊はレボルフの生命エネルギーが低下するまで彼を守ろうと決めた。
しかし、その生命エネルギーが低下するのがいつか分からない。通常であれば11歳になれば目に見えて減り、妖精たちは他を狙うから安全になるのだが、彼の場合は元がかなり多いので多少減ったくらいではターゲットから外れない可能性が高い。
「よし、皆には悪いけど騙されてもらおう」
破壊は壊した精霊を神殿の隅に隠し、つい数時間前に自分を放り出した妖精が待つ住処へと帰る。
もうさっきの子には印を付けた。これで彼を見失うことは無いし、多少なら時間稼ぎもできるはず。
待っててね、生命エネルギーが凄い子!
20XX年4月7日。
この日を境に、妖精たちの運命は大きく変わることとなる。
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