too busy to die
@ht800514
第1話 Too busy to die
《オープニングイメージ》
ミ~ン、ミンミンミン。ミ~ン・・・・
午前中にも関わらず、夏の虫が五月蝿く聞こえるアパート3階の一室。
「ぐ~・・・・ぐ~・・・・・」
ワンルームのベットには大柄な男、『コマ』が鼻で大イビキをかいて寝ている。
「ぐぴ~・・・・・」
『ハッ~ハッハッハ~!』
昨夜に消し忘れたテレビからコマのイビキを掻き消すようにご機嫌な笑い声が聞こえてくる。高級スーツにハットを被った外国人マフィアの男2人が、部屋の中で雑談をしながらボードゲームを楽しんでいる。
この映画のラストシーンに差し掛かり、エンディングソングと共にエンドロールが流れ始める。
このテレビの真前に頭を向けたコマが寝るベッドがあり、テレビの傍に立て掛けてあるデジタル時計が12時を指す。
タララララララン↖︎♫タララララン♫
どこかのコンビニで聞いたことがあるような、ゆっくりなリズムのアラーム音。
『う~ん・・・・もう時間か~』
心の中で呟き、モゾモゾと起き上がると無数の傷がついた太い手でアラームを止め、190センチの長身は立ち上がり窓を開ける。
ガガガガガガガッ!
テレビの中では穏やかに映画が締めくくると思いきや、敵対組織の人間が窓から乗り込んで銃を乱発する。2人の男達はボードゲームごとテーブルを盾にし、インテリアや部屋の壁がズタボロになりながら撃ち合いに応じる。
寝起きのコマは、そんな映像をボ~っと見てリモコンを手に取る。
『銃なんてこの街じゃもう何年も見てないよ・・・』
白熱したマフィア映画のエンディングを途中で消して、シャワーを浴びるか迷うが社会的習慣からか、なんとなくシャワーを浴びる事を決めた。
シャーーー・・・
たくましい身体の特に前側部分に無数の古傷があり、地上戦をこなしてきた軌跡が見て取れる。一番大きな傷は喉元にあった。コマは眠気覚ましの熱いシャワーを浴び、仕事着である黒いスーツに着替え、テーブルに置いてある2つのカップのうち1つの下敷きになっているメモをスマホと一緒にポケットに忍ばせ部屋を出る。
気分がシャキッとしたので寝起きが悪い日のシャワーは正解だったと、廊下を歩きながらコマは思った。
下りのエレベーターの中で、今日の予定が書かれてあるメモをポケットからガサっと取り出し確認する。
”13:00 幹部会(抗争か?)
15:00 ランチミーティング
16:00 ストナと買い物”
降りた1階の、無駄に広いエントランスを出て幹部会に1番乗りを目指して早歩きでアジトへ向かう。
コマは黒スーツ軍団のマフィア『ブラックライン』幹部。武器を使わずステゴロの抗争で出世してきた期待の若手マフィア。
ブロロロロロ・・・
左側通行で歩いていると、ピラミッドの様に鉄パイプを積んだトラックがコマを追い抜き、鉄パイプの1本が荷台から転げ落ちた。
ゴロンゴロン、ガランガラン
転がる程にスピードが増していき、勢いづいた鉄パイプがコマ目掛けて正面から転がってくる。
『うおっ、あぶね・・・・』
大きく横に大きくジャンプしてかわすが、着地しようとする路肩にあるはずのマンホールの蓋がない。マイケルジョーダンのスリーポイントシュートがリングに触れずネットを揺らすような、パスッと穴に入り、コマの巨体はどこまでも縦長のトンネルをノンストップで落ちていく。
『おお?うおおおおおおお!』
キキッキ~!
両手両足を突っ張って踏ん張ろうと試みるが、摩擦はおこるものの190センチの勢い
は止まらない。
遥か上にあった地上の光が届かなくなり目の前が真っ暗で意識が遠のいていく中、どこからか音が聞こえてくる。
タララララン♪
デジタル時計のアラーム音だった。
タララララララン↖︎タララララン🎶
どこかのコンビニで聞いたことあるようなゆっくりなリズムのアラーム音。
『ん?』
《テーマの掲示》
午前中、アパート3階のワンルーム。
ミ~ン、ミンミンミン。ミ~ン・・・・
目を覚ますとベットで仰向けになっているコマ。
『う~ん、夢か・・・・リアルな夢だったな』
タララララン♪
アラームを止めた後、昨夜からつけっぱなしだったテレビを消す。シャワーを浴びるか迷うが、夢の中で済ました気分になり浴びずに黒スーツに着替える。
メモとスマホをポケットに忍ばせて足早にアパートを出てアジトへ向かう。
「お~い、コマ~」
アジトに向かうまでの道のりで黒スーツマフィアの相棒『ゴダン』と合流し歩きながら巷に広がっている噂話を共有する。
『待ち合わせに2分遅刻だぜゴダン』
「そうか?それより聞いたかよ。また裏切り者が出た。この抗争はいつまで続くんだ?」
コマは手話で返す。
『いい加減終わらせよう。俺達で昔の平和だった頃に戻すんだ』
「・・・・そうだな相棒。こんな暑いのに黒スーツ着させられて、葬式じゃあないんだからよ。俺はもっと派手な色でおしゃれがしたいんだ。お気に入り服屋が向こうの縄張りにあるのが気に入らねぇ。くそっ」
『それにしてもゴダン、お前のポケットはいつもパンパンだな。何が入ってんだ?』
ゴダンはポケットからいくつかのビリヤード玉を取り出して、お手玉のように扱う。
「ああ、シルエットが崩れるけど、これがあればいつでも戦えるぜ。で?どうやって終わらせんだ?やっぱ速攻で殴り込むか?」
『抗争はお互いが傷つくだけだ。話し合いで解決したい。お前は交渉ごと得意だろ?やってくれ』
「コマはゴツいガタイで平和的な事言うな。成長ってやつか?こんなちっちゃい俺が交渉って大丈夫かよ?武器はいっぱい持ってるけどな」
『体格も武器も関係無い。お前は喧嘩好きだが弁がたつ。だから必要なんだ。ボスだけじゃ絶対喧嘩になるだろ?交渉のテーブルは俺が用意する』
「まぁ、1つの案として受け取っとくよ。でも、それで終わらなかったら?」
街で唯一の、勝負の神様が祀られている神社の前を通った所で、2人は立ち止まる。
『何度でもやる』
「何度でも?」
『何度でもだ。抗争は最後の手段だろ。やっぱり避けたい』
コマは少年時代に大きな事故に巻き込まれたせいで声を失った。手話は我流で習得し、マフィアの中でしか伝わらないポーズもあり、他の土地では理解されない手話もあるらしい。
「ハッ、何度でもか~。コマはかっこいい事言うねぇ。今日の幹部会でかましてやれよ」
2人は再び歩き出し、神社境内に不思議な風が吹く。
ブロロロロロ・・・
鉄パイプを積んだトラックが、2人のすぐ横を何も落とさず追い抜いていく。それを見送るコマは、一瞬構えるも何も起きない事に少し怪訝な面持ち。
アジトの手前にある駄菓子屋と薬局が隣接している歩道に差しかかったところ、手提げバスケットを肘にかけている白い服を着た女が2人を待ち構えるように立っている。
「暑いですね!新発売のアイスキャンディー試食品をどうぞ~」
女は2人に手渡して、それが最後のものだったらしくどこかへ帰っていった。
「ラッキ~ありがとね~!ちょうど冷たいもん欲しかったんだよ~。あ~最高!」
ゴダンは近くのベンチに腰掛け頬張る。コマは野良猫と戯れている子供を見つけ、自分は食べずアイスキャンディーを無言で渡す。
「あ、ありがとうございます・・・」
子供はお辞儀し、その場で猫と分け合う。
『早く食えゴダン。幹部会に遅れるぞ』
「急ぐなよコマ、まだ時間はあるんだ。別に1番に行かなくてもいいだろ?」
『ゴダン、1番乗りしておけば余裕を持って自分のペースで話を進められるんだよ。話し合いの場じゃあ鉄則なんだ」
「まあ確かに一理ある。そういやお前の兄貴もそうだったらしいしな。でも俺は1番遅くいくタイプなんだよな~」
『マフィアの世界じゃあ真っ先に死ぬ人間だなそりゃ』
「脅すなよ~。徐々に変わっていくからさ」
話しているうちにアジトの前に到着した2人。
入り口付近の駐車場広場では、コマ達と敵対する白スーツマフィア『ホワイトライン』を裏切ってこの黒マフィアに加入したヤサ男『テヅメ』が1人突っ立ってタバコを吸い、コマ達に気付かない。
それに比べて傍でキャッチボールをしてる2人の新人達はすぐさま察知しグローブを投げ捨て、姿勢良く幹部に挨拶する。
「おはようございます!」
「おいっす~」
コマは無g捨てられたグローブを拾い新人部下に渡す。
『新人、どんな物にも魂が宿ってるんだ』
「はぁ・・・・・」
ゴダンは困惑した新人達に
「物を大事にしろってことだよ。ブラックラインはそういう組織なの。その黒スーツだって替えはないんだからな」
「は、はい!すいません!」
鈍感なテヅメは駐車場に座り込み自分の世界に入って一服している。
「フ~・・・・美味い・・・」
コマ達が建物に入ろうとした時、駐車場に派手なドリフトで停車したヴォルクスワーゲンが現れる。
ヴォォォ~!ズィィィ~!
マフィア1のドライバーで、コマの彼女である『ストナ』だった。街のはずれから車でアジトに通っている。
「ウヒョー!すげ~ドリフト!あっ、みなさんコンニチハ」
テヅメはやっと周りに気付き挨拶を。東北訛りのストナは車から出て手話を交えて挨拶する。
「おはよう」
『おはよう。久しぶりだな』
「ストナ、タイヤもったいないぜ?見てて面白いからいいけど」
「うるせっ。このポケットパンパン男。武器持ちすぎだ~」
「ちゃんとゴダン先輩って言えよ」
3人はボスの屋敷であるアジトの中へ一緒に入っていく。
幹部のコマとゴダンは、幹部会の為、2階のボスの部屋へ。
ドライバーのストナは1階のリビングでその他仲間と待機する。テヅメは気付きの悪いくせにアジトのセキュリティーと、組織で飼っている黒い犬の世話で中には入れない。
アジト2階にて幹部会が始まる。
ボスの一面黒い部屋に入ると、コマとゴダンは最後に到着したらしく他6人の幹部は既に全員いた。
『ゴダン、お前がのんびりアイスなんか食ってるからだぞ』
「怒んなよ~。間に合ったんだからオッケーとしようぜ」
唯一上座のソファに座っているスレンダーな女性、『ブラックライン』ボスがコーヒーをすすり、隣に立っている老人マフィア『エーイチ』が話し始める。
「・・・・・全員そろったのう。みんなもう知ってると思うが、ウチの組織から3人いなくなった。裏切り者2人、拉致監禁1人じゃ。ホワイトラインの奴ら、汚い手ぇ使ってきやがったぞ」
コマは挙手し、他の幹部は手話に注目する。
『それはお互い様だ。俺も白マフィアからテヅメを引っ張ってきたしな』
ゴダンは口を挟む。
「俺達が通り過ぎたことも気付かない役立たず男のことか?あいつが一匹狼ならとっくに死んでるぜ。コマはおかしな奴を引っ張ってきたもんだぜ。まぁ確かにお互い様ってのは一理あるな。向こうを裏切ってウチに来たテヅメみたいな奴もチラホラいて人数はトントンってとこか」
『ボス、仲間を助けたいなら、話し合って黒白関係なく1つになればいい。俺達は獣じゃないんだ。話せば分かるさ」
「そうそう。抗争しなきゃ街の奴らも安心だしな」
「おいおい、マジかこいつら・・・」
コマとゴダンが珍しく平和的解決を望むことに幹部達はどよめき、エーイチは投げかける。
「なんじゃ喧嘩したくないのか?お前ららしくないのう。ホワイトラインが話し合いに応じるか疑問じゃが、どうですか?ボス」
「・・・ホワイトライン、アイツらは私達とは違う。抗争をゲーム感覚でやるような冷徹なボスと和解はできないだろう」
『ブラックライン』アジトからこの街の対角線上にある白スーツマフィア『ホワイトライン』アジトの中は『ブラックライン』とは真逆の、白が基調。
薄明かりで『ホワイトライン』ボスは上座のソファに座り、周りに体格の良い白スーツ構成員が直立している。いかにも悪さをしでかしそうな、いや、既にしでかした後のような雰囲気が漂うボスの白い部屋。
牢屋に閉じ込められていた黒マフィアの男が両脇に抱えられ、その白い部屋に連れてこられる。
「ここで跪け。俺達のボスの目を見るんだ」
「なんだよお前ら、目見るの?なんだか雰囲気怖いな」
「お前は白だ白だ~白だ~。俺達と同じ白いスーツを着て仲間になるのだ~。白だ白だ白だ~」
白マフィアボスはソファから立ち上がりマインドコントロールが始まる。
「え?白?白?・・・・あっは~。クラクラする~」
黒マフィアの男は、その場で気を失い横たわる。
「俺たちホワイトラインは確実に勢力を増してきている。そして俺が~!この街を掌握する!それが街の為~!ぎゃ~はっはっはっは~!ぎゃ~は~っはっはっは~!」
「ぎゃ~はっはっはっは~!」
再び『ブラックライン』のアジト。幹部の男『ボックス』が得意の白マフィアボスのモノマネをしている。
「ぎゃ~はっはっはっは~!ぎゃ~は~っはっはっは~」
「おい!ボックス!」
ゴダンが制止する。
「はっはっは・・・・は?」
「敵の真似して、何ふざけてんだお前?」
「あ~ごめんごめん。つい白マフィアの話になったから。俺って得意だろモノマネ・・・」
「まぁとにかくじゃ、それぞれの幹部が部下への目配り気配りの強化をしてだな・・・」
エーイチが幹部会を締めようとするところ、話半分で聞きながらゴダンがコマにささやきかける。
「結局抗争か。まぁそっちの方が俺は得意だけどな。コマ、お前はどうするんだ?・・・ん?あれ?」
ギュルッ!
『どうした?ゴダン』
「いや、腹が・・・・」
ギュルルルルル~
他の幹部も腹を壊し始めたようで、既にトイレに駆け込む者もいる。
バタン!
「これからワシら幹部にも裏切りの勧誘、罠を張ってくるかもしれん。ウチの縄張りにいても気をつけるように」
「うう・・・トイレ空いてないの?」
ギュルルル・・・
「あっ、腹が・・・・」
さっきまでモノマネで調子づいていたボックスも腹を抑える。
『ボックスお前も腹か。今日は腹下す奴が多いな。お前ら集中して話を聞けよ。腹の事は忘れろ』
「お、おう。わかった。違うこと考えるわ・・・あ~美しい」
ゴダンは美しい自然の山や川をイメージする。
サワサワサワ、チュンチュンチュン
風が林を揺らし、小鳥がさえずる。
「癒される~大自然」
『話は聞けよ』
「・・・・というわけじゃ。それではボス、最後に一言よろしくお願いします」
エーイチの後、ボスはソファから立ち上がり幹部達に言い聞かせる。
「私は、どうしようもなく怒っている。ホワイトラインめ!『クソ!クソ』め!」
「クソって言わないで~。今日これから予定あるのに~」
ボックスの腹のくだりが強くなる。腹痛で苦しむ幹部達は、ボスのいちいち掛かった言葉に腹が反応してしまう。
「私をなめやがって!こんなに『フン』ガイしたのは久々だ!」
「おう?うううううう・・・」
ゴダンは腹を抑えかがみこむ。
「もしかして『ウン』がないのか私は?」
「あ~!くる~・・・・・」
「『クソ』ったれめが!」
「あ、ボス・・・・あんまりそういう言い方は~」
「なんだゴダン!あ?」
「ボス落ち着いて・・・・・」
「ゴダン!さっきから『ピーピー』言ってんじゃないよ!」
「ああ~。ああ~~!トイレまだ~?」
バタン!
「あっ、やっと出てきた~」
「フゥ~スッキリした~」
ボックスはゴダンより先にトイレを済ませていた。
「お前かよ!先やってんじゃねぇよ~」
ゴダンはようやくトイレに入る。
バタン!
「よし解散じゃ!みんな持ち場へ戻って部下達に・・・・」
「あっ、また来ちゃった~」
エーイチの話を全く聞いていないボックスは腹を抱えたまま、一目散に部屋から出ていく。
「ボス命令だ。白スーツを見つけたらボコボコにして私の所へ連れてこい!コマ!ゴダン!お前ら得意だろ!」
『・・・了解ボス』
ゴダンはトイレの扉から顔を出し、
「ウ、ウィッス・・・・」
コマ、腹を抱えたゴダン、エーイチの3人は部屋を出て移動しながら話す。
「どこ行くんだコマ?今から殴り込みか~?調子戻ればいつでもいいぜ。武器は持ってるし」
『しない。っていうかどっちのマフィアが街を掌握しても、結局平和になるんじじゃないの?どっちが勝っても同じ気がすんだけどな』
「コマの意見も筋は通ってるな。別に白の奴らも無茶な街作りするって言ってるわけじゃないんだろ?エーイチ」
「お前らそんなこと言うな。ボスがボス以外の事できるわけないじゃろ。ワシら『ブラッ
クライン』が勝つ事が街の為になると信じろ」
『ボス同士が話し合ったりできないのか?』
「ずいぶん昔、した事あったがな・・・・」
数年前、黒マフィアボスの部屋にて。『ホワイトライン』に電話をかけ、縄張りについて交渉を始める。
トゥルルルル、トゥルルルル
「もしもし・・・何回言えば分かるんだ。・・・・・・・いや違うぞ。違う。違う。私達『ブラックライン』をなめているのか?・・・・・」
ガン!ガン!ガン!
ボスは急に受話器を机に叩きつけ、顔の正面に受話器を構えて叫ぶ。
「おい!ふざけんじゃないぞ!さっきから意味の分からん事言いやがってぶっ殺すぞ!おい!あ!・・・・切れた・・・・クソ!白マフィアが・・・」
ツー、ツー、ツー・・・・
「なんでウチのボスはすぐキレるんだろうなぁ」
アジトを出た3人は建物の裏側に回り、併設された牢屋へ向かう。
「ゴダン、コマ、お前らもみんな短期じゃろ。ワシだけが穏やかな人間じゃ。とにかくもうコッチからは連絡できない」
『これからどうなるんだろうな』
アジトの真裏にくっついた半地下の牢屋に到着する。
そこには以前捕まえた白マフィアを閉じ込めている。
「なんだここかよ。エーイチ何すんの?」
中腰になったエーイチは鉄格子ごしに語りかける。
「おい。ウチにお前らのスパイが紛れ混んでるらしいじゃないか。誰だ?」
「教えたら帰してやるぞ。それとも黒スーツに着替えてウチでやるか?」
ゴダンの誘いにも囚われた白マフィアはブレない。
「・・・・知らねぇ・・・・」
「忠誠心ある奴じゃな。じゃあ一生ここにいるか?」
白マフィアは曇った表情になり、
「チッ、ほんとに知らねぇんだって!」
ギュルルル~
「あっ!でっかい声だすからまた~」
ゴダンの腹がまた活発になる。
『大丈夫か?ゴダン、近所の薬局行くか?』
「うん・・・行く・・・・・」
『俺も付いて行ってやるよ。エーイチは?』
「ワシはもうちょいここでコイツと話をしとくよ。ゴダン、みっともないから途中で漏らすんじゃないぞ。スーツの替えも無いんだからな」
エーイチを残してコマとゴダンは下痢止めを求め、薬局へと向かう。
《きっかけ》
ゴダンの下痢止めを手に入れる為、コマとゴダンはアジト近くの薬局前に着くと他の幹部達も薬局の中で列を作っていた。
「みんなもまだ下痢かよ。今日はどうなってんだ?コマ、お前は表で待っててくれ」
『了解。珍しいこともあるんだな』
コマはタバコに火をつけ薬局から少し離れた芝生スペースのベンチに座り待つ事にする。大木の真下にあるベンチはちょうど日除けになって涼がとれた。
「すぐ戻るからよ。あ~痛ぇ」
ゴダンは前屈みのまま薬局に入っていく。
『今抗争が始まったらヤバイぜ。みんな何やってんだよ』
アイスキャンディーをあげた子供と野良猫が草むらで野糞をしているところを見かける。
「シクシクッ、お腹痛いよ~」
「ニャ~、ニャ~」
子供は半べそをかいている。
『・・・こいつらも下痢かよ?』
ガヤガヤガヤ、ガヤガヤガヤ
勢い良く扉を開け、幹部達でごった返す薬局に入るゴダン。
バン!
「うわぁ・・・並んでんなぁ。とりあえずトイレ借りるぜ!」
薬を受け取る前にトイレに駆け込むゴダン。他の幹部達は順番を待っている。
「お~ゴダン。お前もかよ」
「みんな揃って腹壊すってついてないな。なんか食ったっけ?」
薬局の店員が幹部達にアナウンスする。
「皆さん、順番を守ってもうしばらくお待ち下さい~」
「おいおい!マジで早く薬くれよ。こっちは大変なんだからよ」
「もう待てね~よ。俺からくれよ~」
別の店員がレジ下で呟く。
「全員集まってもらわないと・・・」
細い廊下の突き当たりにあるトイレでは最後尾だったゴダンが武器としてポケットに忍ばせていた石やビリヤードの玉を洗面所に置いて、個室でもう一度用を足している。
「はぁ~・・・ちょっと収まったな。それにしても一斉に腹下すって事あんだなぁ。コマは別だけど」
ドン!バコン!
ワーワーワー・・・
ナンジャ~・・・ヤッチマエ・・・・
トイレの外から何かが壊れる音と、怒号が聞こえる。
「ん?なんか向こうがやかましいな。喧嘩してんのかアイツら。薬は順番に受け取れっつ~の」
ジャ~~~
「ふ~・・・」
タンタンタンタン
バン!
駆け足と共にトイレの扉が乱暴に開く。
用を足し、ベルトを締めないまま個室から出てきたゴダンと鉢合わせするように、白スーツを着た複数の男が問答無用で襲いかかる。
「うお?なんだこいつら!」
白スーツマフィアが罠としてこの薬局を使い、幹部達が揃うまでバックヤードに潜んでいた白マフィア達とゴダン達は戦闘にになる。
店の外では、遠くから大勢の武装した白スーツ達と白い猛犬で観察するようにとり囲む。
「よ~し、俺達の計画通りだ。おい約束の金だ。持ってけ」
白スーツの男はアイスキャンディーを配っていた女に金を渡し、第二陣として猛犬と共に薬局の中に入っていく。
「ヒヒヒッ、ボロ儲けじゃん!」
「アイツらの縄張りで暮らしていながら、ひでぇ女だ。すぐ消えろ」
「またいつでも使ってよね。じゃあねバイバイ~」
薬局の中では、第一陣と戦闘真っ只中。
武器を洗面所に置き忘れたゴダンは、ボコボコにされながらもトイレから脱出し、ズボンがずり落ちたままステゴロで戦う。
店内の花瓶や商品が床に散在し、いつもより戦い辛い。
ボックスは元々の戦闘力がなく真っ先に店のかたわらでノビている。他の幹部達も応戦するが身体の調子が悪いうえ、敵の領域で奇襲をくらったことで地の利が悪い。
ワーワーワー!
バリン!
『うおっ?まさか抗争?』
窓ガラスが割れ、異変に気づいたコマはタバコを投げ捨て薬局に乗り込み白スーツ達と戦う。
バコッ!ドン!
街ナンバー1の戦闘力を誇るコマは素手で何人も殴り倒すが、あまりにも多勢に無勢で徐々に体力を削られていく。
ゴン!
後ろから角材で後頭部を叩かれ、目の前が真っ暗になり意識を失う。
「おい!ついにコマをやったぜ~!」
「俺達の勝ちだ!」
勝利した白スーツの男達は歓喜の声をあげる。
《悩みの時》
『・・・・はっ!』
いつも見慣れた天井が見える。
仰向きのコマが意識を取り戻すと、そこは自室の3階アパート。再び自分の部屋のベッドで寝ていた。コマは困惑しテレビをベッドの上から見つめる。
『・・・・次のシーンで、窓から入ってきた奴と撃ち合いになる』
テレビではボードゲームをしている強面2人の部屋に、敵対マフィアが窓から乗り込んで撃ち合いになり、部屋がボロボロになるシーンに。
『これ、覚えてる』
黒スーツに着替えたコマは、アパートを出て少し歩き、鉄パイプを積んだトラックを待
つ。しばらくするとトラックが通り過ぎ、荷台から鉄パイプ一本が滑り落ち、コマめがけて転げ落ちてくる。
ガラガラガラガラ、ガン
コマは避ける事なく右足で鉄パイプを停める。傍には蓋がないマンホールがある。
『人生がリセットされたのか・・・・マジか?』
今日の未来、コマにとっては過去だがこれから起こる事を遡り思い出す。
『そろそろゴダン来るかな・・・」
コマの予想通り、アジトに向かうまでの歩道でゴダンが現れ呼び止めた。
「お~いコマ。聞いたか?また裏切り者が出たってよ。抗争はいつまで続くんだ?」
『思った通り遅れて来たなゴダン、ちょっと試したい事があるんだ』
「は?なんだいきなり試したい事って?」
『アイスキャンディーは口にするな』
「は?アイス?アイスって何?」
2人が神社を通り過ぎ、歩き進めるとアジトの手前にある駄菓子屋と薬局が隣接している前で、アイスキャンディーを配る白い服の女が待ち構えるように立っている。
「暑いですね!良かったらサンプルのアイスキャンディーどうぞ~」
「え!アイス?・・・・おいコマ?」
ゴダンは預言者を見るようにコマを覗き込む。
『受け取れ』
「あ、ああ。おネエさん駄菓子屋?珍しいね。ちょうど冷たいもん欲しかったんだ。どうも~」
2人は1本づつ受け取り、アイスを持ったまま歩き進む。女の声が聞こえなくなる所で、コマに囁く。
「おいおい・・・何で分かったんだよ。エスパーかお前は」
『どうやらそうらしいな』
2人はアイスを食べずに野良猫と戯れる子供に全て渡す。
「あ、ありがとうございます・・・」
子供はお辞儀し、その場で野良猫と食べ合う。
「コマいいのかよあげて。なんかヤベェもん入ってんじゃないのか?」
『ちょっと腹壊すだけだろう。あの子には悪いが最終確認だ。早くアジトに向かうぞ。ストナも同じ時間に着く』
「おいおい、なんでそんなこと分かんだよ~?」
コマとゴダンはアジト前でストナと合流し中へ入っていく。
一方薬局では、黒マフィア達がやってくるはずの時間になったが、誰も来る気配がない。
「う~ん、う~ん」
外の茂みでは子供と野良猫が野糞をしている。
店員に扮した2人の白マフィアは不審に思う。
「・・・誰も来ないな」
「なんで?」
ガチャ
外で待機していた白マフィアの1人が店内に入ってくる。
「いらっしゃいませ」
「何がいらっしゃいませだ!お前らほんとに下剤入れたのか?」
「自分が調合したので間違いはないんですが、あの女はちゃんと配ったんですかね?」
「アイツは金の為ならなんでもする女だ。そこは心配ない。もう少し待とう」
「了解しました」
ガチャ
「おいおい、計画は順調なんだろうな」
1人に釣られた白マフィア達は心配になって、薬局にぞろぞろと様子を見に入店してきた。それを待ってましたとばかりに黒マフィア達は外から薬局を取り囲む。
バリン!バリン!
ゴダンがビリヤード玉を遠くから投げて薬局の窓を割り、店員の顔面に直撃、失神させる。
「お~い!お前ら囲まれてるから~!縛られやすく小さくまとまっっとけ~!」
陣形の利で、見事白マフィアを出し抜き捕獲することに成功。
アジトの牢屋にまとめて入れて、幹部会を再開する。
ボスの部屋で行われている幹部会で、珍しく感情的なコマがボスに迫る。
『ボス、こっちから攻め込もう。今すぐ!』
「お、おお。そうか?」
ゴダンが口を挟む。
「ちょっと待てコマ。急に攻め込むのは危険だ。まず作戦考えてからだな」
『グズグズしてたらまた奴ら仕掛けてくるぞ!俺は一回やられてんだ』
「やられてる?」
エーイチが口を挟む。
「おいおい、温和なお前さんがそんなに言うのは珍しいな。一体どうしたんじゃ?」
『俺には奴らの行動が分かるんだ。グズグズしてたらまた罠を張ってくるぞ!』
「それは本当か?コマ」にわかに信じがたいがソファから前のめりになるボス。
『本当だボス。それに俺の兄貴が亡くなったのも白の奴らが意味のない喧嘩をふっかけてきたのが原因だろ!そんな理不尽なのはもう終わらせる』
部屋の外ではドア越しにストナが盗み聞きしている。
「コマ・・・・」
ボカン!
10年前、マフィア同士のイザコザが原因で車が炎上する。中にはコマの兄が乗っており、当時少年のコマは助けに近づくが車が爆発しガラスの破片が近づいたコマの首に刺さり気を失った。そこからコマは自分の声を聞くことがなくなった。
コマの熱意と過去を知るボスは決断し、幹部達に命令する。
「よ~し、分かったコマ!そこまで言うんだったら勝負かけるか!お前ら気合い入れてけよ!」
「おーーーー!」
「よ~し、やるか!」
ゴダンも腹を決めるが、ボックスは急な展開に戸惑う。
「え~~!マジやんの?これから買い物する予定あったのに~」
「おっしゃ!部下達を集めろ!」
ボックス以外の幹部達は、勢い良くドアを開けて出て行く。ドアの前で盗み聞きしていたストナは離れようとするが間に合わず、ドアで鼻をガツッと強打し鼻血を片方から出す。
「痛った~い。なに勢いづいてんのみんな?」
最後にコマが部屋から出てきて廊下で目が合う。
『ストナ、何やってんだ?鼻血でてるぞ』
「ちょっと!なにあんたまで熱くなってんの?言ってることめちゃくちゃよ!」
『そんなことはない』
「いつも話し合いで解決するって言ってたでしょ!アホ!」
鼻血を出したままのストナは怒り、アジトから足早出て行く。
コマは説得するために、ストナを追いかける。
ガヤガヤガヤ・・・・
アジト前の駐車場では、幹部達が部下に招集をかけ、抗争の準備を始めている。白マフィアを裏切って黒マフィアに加入した新人テヅメは、薬局で白マフィアから奪った白い猛犬を世話し、既に手なづけていた。
「おい!テヅメ!」
アジトから出てくるなりゴダンはテヅメを呼ぶ。テヅメはサバンナで置き去りにされた子鹿の様にいつもオドオドしている。
「え・・・はい・・・」
「なんだその返事は!今から喧嘩だ!準備しろ。犬は手なづけたか?」
「はい、まぁ・・・」
「犬も連れてくぞテヅメ、お前は心にやましい事があるからそんなオドオドすんだ。お前はもうウチの人間だろ?いい加減覚悟決めろ!」
そう言いながらゴダンは、アジトの裏の方に歩いていくストナと、追いかけるコマを見かける。
「お~い!コマ、ストナ、お前らどこ行くんだよ~・・・・聞こえてないな。もめてんのか・・・」
「じょ、女性の気持ちって、わかんないものっスよね~」
テヅメはゴダンの後ろで呟く。
「はぁ?そんなもんわかってたら哲学者はこの世にいないぜ。無駄口はいいから準備しろテヅメ」
《第一ターニングポイント》
夕方にさしかかろうとしているアジト周辺で、早歩きするストナと前に出たコマは口論になる。
『おいストナ、落ち着いて俺の話を聞け。まず鼻血を拭け』
「何よ!喧嘩しに行くんでしょ!みんなで傷つけ合って、頭おかしいんじゃないの?」
ストナはイライラが加速し、更に早足で先に進む。
『一方的に俺たちが勝つ。というか俺は無敵なんだ』
コマは説得の手話を見せる為にジョギングして、ストナの前に回り込んで会話する。
「あんたアホか!理由になってないよ!何が無敵よ!馬鹿じゃないの!」
『理解できないと思うが、俺だけで全て終わらす事ができるんだ。鼻血拭け』
「話し合いで解決しなさいよ!コロコロ考え変わっちゃて。街はみんなのものでしょ!マフィアのものじゃない!」
『話し合いしてたらこっちがやられるんだ。俺に全部任せろ』
アジト裏の牢屋前で2人は立ち止まり、ここで初めて向かい合う。
自分達に何かをしに来たと思い込んだ囚われの白マフィア達は、ここから逃がすようコマに懇願する。
「おい!助けてくれ!お前達には危害を与えないからここから出してくれ!」
『ストナ、ヨソから来たお前には知らない事が多いんだ』
バチッ!
コマの言葉にキレて鼻を殴り、ストナはどこかへ走り去ってしまう。
「ヨソ者扱いするな!」
コマはストナと同じ側の穴から鼻血を出し、コマは追うことなくその場で立ち尽くす。
間近で見ていた牢屋の中の白マフィアは事態を理解できないでいる。
「あ~れ~?・・・・・」
《サブプロット》
ブロロロロロ~・・・
「・・・・・・」
殺気立つ満席のバスが走る。20名以上いる無言の黒マフィア達は、ストナの運転で奇襲をかけるため白マフィアのアジトへ向かっている。それぞれが緊張感を持ってバスに揺られている。テヅメだけが携帯をイジったり、小声で通話してたりしている。
「・・・・私は納得できない・・・・」
ストナは運転しながら不満を漏らすが助手席のエーイチはストナだけに聞こえるだけの声量で
「全て納得して生きてる奴なんか、いないさ・・・」
「なによそれ」
「これが終わったらコマとしっかり話し合うんじゃな」
「もうすぐ敵のアジトだぞ。覚悟決めろよみんな」
「おお!」
ゴダンがアナウンスし、黒マフィア達の熱が上がっていく。
「用意はいいか。あれ?ボックスは?ボックス!」
「お~いボックス、ゴダンが呼んでるぞ」
バスが出発する時間を間違えたボックスは、前々から予定していた町外れの服屋にショッピングで立ち寄って1人孤立している事実に気付かないでいる。
服屋の店主がそんなボックスを見てソワソワして声をかける。
「お客さん、黒いスーツ着てこの辺彷徨いちゃまずくない?」
「えっなに店長さん?それにしてもこのスタジャンかっこいいね」
「ダメだこりゃ」
「買っちゃおうかな~。ん?何あの人達こっち見て。白い服?」
「は?・・・・黒マフィアか?」
ここが敵の縄張りと知らず買い物を楽しでいると、当たり前のように服屋店内で白マフィアに出会ってしまう。
「ホワイトラインさん、店内ではやめてよね?」
バス内にて。
ツーツー、ツーツー・・・
「ダメじゃゴダン。何回かけても連絡がとれんということは、ボックスはさらわれたかもしれんの」
「え~!こんな時に服買いに行くか!?なんで~?」
「あいつは本当バカな奴じゃ。先に助けるか?」
「ああ!人質優先だ!計画変更ってことでいいだろコマ・・・・あれ?コマは?」
「いないな・・・コマもか?」
ヴォンヴォン!ヴォーン!
後方からバイクに跨ったコマが、バスの横を突っ走り前に出る。
『俺が全員ぶっ飛ばしてやるぜ~!』
「コマいた!なんでバイク~?」
「え!」
「なんじゃコマ!」
「え~!何やってんの~!」
エーイチは窓を開けて叫ぶ。
「コマ!1人で行くんじゃない!お~い!」
コマはそのままトップスピードでバスを突き放し、ジャンプ台のような坂をかけ上がると空を舞う。
「飛んだ~!」
バイクごとアジトの2階ベランダ部分から侵入を試みるが、ベランダの前に強化ガラスがあり正面衝突。
バリン!
バイクはガラスに刺さり、コマはガラスに跳ね返されて地上まで墜落、意識を失う。
黒マフィア達は全員でバスの窓から顔を出し叫ぶ
「コマ~~!!!」
『うう・・・・はっ!』
コマの部屋でリセット。
『もう一丁だ!』
今度はバイクで突っ込まず、白アジト前の芝生でシンプルに仲間とつからを合わせて白兵戦の抗争を始める。
バコッ!ドカッ!
コマは複数を相手に、得意のステゴロ殴り合いで戦いを挑む。
後ろから角材で殴られたり、こけたり水をぶっかけられたり。
敵を追いかけて殴ったり、追いかけられたり、双方入り乱れた戦闘。
「おい作戦Bプランだ」
一心不乱の中、誘い込まれたコマは待ち構えていた複数に狙い撃ちでされボコボコにされる。
「よっしゃ~。コマをやったぜ~!これで俺達『ホワイトライン』の勝ちだ!」
ブロロロ・・・
リセット。コマは仲間と同乗したバスの中で揺られながら考える。
「・・・・私は納得できない・・・・」
ストナの訴えも虚しく、心に中で自問自答するコマの耳には届かない。
『くそ・・・闇雲に動いてもさすがに無茶だったな。敵の戦力さえ分かってないし、どうしようか・・・・』
黒マフィアの1人が助手席のエーイチに人生相談している内容は不思議と耳に入ってきた。
「エーイチさん、僕って失敗するのが怖くてなかなか行動できないんですよね~」
「気持ちは分かるがな、お前さんには勇気が必要だ。グッドルーザーって言葉知ってるか?負けて多くを学んで、最後には勝つんじゃ。マフィアの仕事も同じで死なない程度なら負けても恥ではないんじゃよ」
「ありがとうございます。エーイチさんは何でも知ってますね」
『ほう・・・なるほどな。次の戦いはやられる前提で情報収集してみるか。俺が死んでも学んで喧嘩はやり直しできるしな』
キキ~ッ、ギッ・・・
バスを白アジトの近くの林に停車し、各自殴り込みの準備をする。
「よし、準備できた者はバスから降りるんじゃ。ストナはここで待機じゃ」
黒マフィアがゾロゾロとバスを降り始める。
「コマ、どうやって攻める?俺はいつでもいいぜ」
ゴダンのポケットは、武器ではちきれるくらいになっていた。
「コマさ~ん、ここは俺に任せてくださいよ~」
『黙れテヅメ。今回はアジトの中を色々見たい。俺を先頭に突っ切るぞ。ゴダン着いてこい』
「危険じゃないか?それに『今回は』ってなんだ?人質のボックスどうすんだ?」
『情報収集が目的だ!俺に続け』
コマはバスを飛び出し、走って一騎がけする。ゴダン達は後ろを遅れて続く。
「もう行った!みんな行くぞ~!」
「お?お~~!」
アジト入り口でたまっている白マフィアと、全面抗争が始まる。
ワ~~!ワ~~!
コマにとっては3回目の抗争。
大勢の仲間の犠牲はあったが、目的意識がはっきりしていたからか、コマ、エーイチ、ゴ
ダンはアジト内潜入に成功し、1階ロビー中央に到着する。
「こ、この建物は?」
「どういうことじゃ?ウチのアジトと作りが同じじゃ」
『確かに。てことは白ボスの部屋は上・・・・』
「おいコマ!いっぱい出てきたぞ!」
白マフィアが大勢で2階から降りてくる。
「なんだ黒マフィア3人か。やっちまえ!」
「アジトに余力を残しておったか。敵ながら賢いのう」
コマ達は応戦するが、結果ボコボコにされ意識を失う。
『い、痛ぇ。もうちょっと見たいけど・・・ここまでか~・・・・』
バコッ!
『よ~し!』
リセットされたコマは、気持ちが切れる事なく、すぐに着替えて部屋を出る。
『敵の戦力と戦略はわかった。間取りもバッチリだ。次で決めるぜ!』
白マフィアアジト近くの林。
ブロロロロ・・・キッ
停車したバスの中で待機し、戦いに備える黒マフィア。
「皆さ~ん、ここからは一番詳しい俺に任せてくださいよ~」
『ん?今までなかった展開だな』
テヅメは敵に見つからず、アジトまでのルートを示し、全員それに従い移動する。
「戦わなくていいならこりゃ~楽でいいや。な?コマ」
『こっちは何回もやられてんだ。ぶっ殺してやるぜ』
「みなさ~ん、こっちっスこっちッス~」
「テヅメ、こんな裏道が敵のアジトまで繋がっておるのか?」
「もちろんですエーイチさん。このまま真っ直ぐ進んでください。俺は後ろで見張りしますから」
珍しく饒舌なテヅメは、先頭から最後尾に回り、そのまま黒マフィアが進んでいくと、
ズボッ!
「う、うわ~危ねぇ!」
「なんじゃ~?この穴は!」
油断した黒マフィアは全員落とし穴に落ちてしまう。
「かかったぞ。全員出てこい!」
茂みの奥から白マフィアが次々と現れる。素早く周りを囲まれた黒マフィアは上から土をかけられ身体がどんどん埋もれていく。
道案内役のテヅメは、いつの間にかいなくなっていた。
チームリーダーらしき白マフィア1の肥満男が得意げに笑いながら話しかける。
「%$&!#*〓仝!!!」
その場のいた全員が思った。
『な、なんて?』
「・・・テヅメの奴!裏切りやがった。畜生!」
ゴダンは埋もれながらも、肥満男にビリヤード玉を投げるが脂肪で弾き返される。
「$?@!#$〓%!!!」
「あのデブ、ムカつく!」
「あやつはもともとスパイとしてウチに来とったのか?」
「うわ~!助けてくれ~!」
黒マフィア達はもがくが、蟻地獄の様に埋もれていく。
コマが唯一、穴から駆け上がることができたが、仲間が全員身動き取れない状況に。
『くっそ~!・・・・リセットだーーー!』
もう一度戦いをやり直すため、後から応援で来た敵の車に自ら突っ込む。
「コ、コマ!何するんじゃ!」
ドン!
《お楽しみ》
リセットされた回数を数えるのも面倒になったコマは、足早にアジトへ向かいながらさっきまでの経験したことを思い出し、怒りは頂点に達しながらも突破口を考える。
『くそ!テヅメの野郎~!だったら俺にも考えがあるぜ!』
「こんにちは~。よかったらアイス・・・」
「ん?アイス?」
バゴッッ!
歩み寄ったゴダンの頭上からコマの足裏が一瞬にして伸びアイスキャンディーの女を飛ばす。
「ホゲッ!」女はぶっ飛び路肩に倒れる。
「お、おいコマ!いきなり何すんだよ?」
女をよく見るとカツラが取れ、実は女装していた男だった。
「うお!・・・・・男?こいつは白マフィアかよ」
『先を急ぐぞ。ゴダン』
驚くゴダンを尻目に、コマは足速にアジトへ入っていく。
ブロロロロロ・・・
白マフィアのアジトへ向かうバスの中で、コマは携帯電話をイジるテヅメを見つける。
『テヅメ。ちょっといいか?』
「?はい、どうしましたコマさん?」
『犬も一緒だ。』
ブロロロロロ・・・キキ~ッ!
「うわ!なに?何するんですかコマさ~ん!」
白マフィアアジトの手前で停まったバスから、コマとテヅメが真っ先に降りる。
コマはテヅメの両腕をキツく縛り、直立不動の状態で白猛犬の群れの真ん中にカカシの様に担がせて白マフィアの罠である落とし穴まで走らせる。
ワンワンワン!ワンワン!
「う、うわ~!そっちは!穴~」
テヅメは落とし穴にハマると、待ち構えた白マフィア達が集まる。
「ん?なんだ、テヅメしかいねぇじゃあねえか!」
周りを囲んだ黒マフィアは間髪入れず白マフィアを穴に落とす。
「はっはっは~!策士、策に溺れるってやつか~!コマ、よく分かったな」
ゴダンは穴に向かって玉を投げ込み、高笑いを決め込む。
白マフィア達は砂で身動きできなくなり、黒マフィア全員が戦わずして、無事にアジトへ進むことに。
白マフィア1の肥満男が声にならない程に叫ぶ。
「$#!&%*仝〓!!!!!」
その場にいた全員の心の声が一致する。
「な、なんて?」
白マフィアのアジト前に着いた黒マフィア。
「コマ、いくら新参でもテヅメの奴、かわいそうじゃないか?」
『あいつはクズだ。後で説明する』
仲間達は不信がる。テヅメが裏切り者だと知る者はコマだけだった。
扉を開けゾロゾロと侵入する。テヅメをおとりにしたことで黒マフィア全員が安全に1階のロビーに入ることができた。
「これはどういうことじゃ?全くウチのアジトと作りが同じじゃ」
『エーイチ気を抜くな。2階か残りの奴らが来るぞ。ゴダン構えてろ』
「ほんとだ!いっぱい出てきたぞ!」
コマの予言通り、アジト内で待機していた白マフィアが大勢で2階から降りてくる。コマ達は応戦し、今度は黒マフィアが数的有利に進める。
『ゴダン、エーイチ。ここはみんなに任せて俺達は2階行くぞ』
2階に上がり、廊下にも複数の白マフィアが待ち構えていた。
『ゴダン。俺は先に行きたい』
「分かったコマ、エーイチ、行け!」
ゴダン1人を残してコマとエーイチは次の部屋へ向かう。
ゴダンは張り詰めたポケットから武器を取り出し投げ続け、白マフィアの足止めを狙う。
『頼んだぞ!お前達の犠牲は忘れないからな!』
殺伐とした状況下に置かれたエーイチは、昔の血がたぎり、普段の温厚な人格者とはかけ離れた形相になり、キレる。
「うおおおお!ワシにもやらせろ~!殺すぞ~!」
エーイチは、ジャケットの裏に忍ばせていたナイフを敵に投げまくるが、ゴダンにこの場は任せた以上、コマはエーイチを強引に次の部屋に連れていく。
『エーイチ、ここはお前の見せ場じゃない』
「は、離せコマ!ワシも戦う~!」
《ミッドポイント》
コマとエーイチはついに白マフィアボスの部屋の前に到着した。
『落ち着けよエーイチ。目的はボスの首だ。自分を見失うなよ』
「そ、そうじゃったな。すまんコマ。昔の血がたぎってつい熱くなってしもうた。扉を開けよう」
しかしこの部屋の扉は、鉄板でできていて鍵がかかっていて開ける事ができない。
『エーイチ、ダイナマイト持ってるだろ?全て出すんだ』
『おいおい正気か?向こうに人がいたら大惨事だぞ?』
『敵の心配してる暇はないんだ。早く』
「コマ、今日のお前さんはどうかしてるぞ。拉致されたボックスの事も後回しで・・・・あんなに平和的だったお前が」
『優先するのはボスの首だ』
エーイチから半ば強引にありったけのダイナマイトを取り上げ、鉄の扉にセット。導火線に火をつける。エーイチは扉の向こうに向かって叫ぶ。
「誰かそこにいるなら離れろ!危ない!」
ドゴン!
「なんてこった・・・」
ダイナマイトが爆発し、鉄扉が歪む音がする。
ゴン!ゴン!ゴン!
コマは歪み、脆くなった鉄扉を拳で何回も殴り、開いたスペースから身体をくねらせて部屋の中に入ると、白髪の中年男性の白マフィアボスが1人、扉から距離のある、少し高い場所に設置されたソファに座って待っていた。
「ようこそ。ブラックライン」
『ボス、あんた1人か。これで終わらせれるな』
《迫り来る悪い奴ら》
白マフィアボスとコマ、エーイチが対峙する。
「なんだ、2人しかいないのか」
『お前は1人だろ』
コマは白マフィアボスの近くまで歩を進め小さな窓から差し込む夕日が顔を差す、エーイチはまとめて攻撃されないよう横に周りコマと一定の距離を取りながら右手に小さなナイフを忍ばせる。
「ボス、腕っ節ナンバー1の拳がもうすぐお前さんの顔面が届く位置にいる。観念するんじゃな」
「フッ『ブラックライン』お前らの負け」
「は?何を言っとるんじゃ?」
物影で顔は見えない白マフィアの1人が、誰にも気付かれずエーイチの背後を取り、首と腕を押さえナイフを取りあげる。
『エーイチ!』
「はは・・・今更こんなことしても無駄じゃ。コマ1人いればボス、おまえなんか一瞬で終わりじゃ。ボスとわしの命、天秤にかけるまでもないじゃろ?」
『そうだ。もう観念しろ。エーイチを離せ』
白マフィアボスは諭す様に、2人に話しかける。
「コマ、おまえは喧嘩の仕方が間違ってる。それじゃあこのゲームには勝てないんだよ。ほら見ろ」
ゴダン、ボックス、黒マフィアメンバーが歪んだ鉄扉からゾロゾロと部屋に入ってくる。全員白いスーツを着ている。
「コマ、エーイチ。もうやめよう」
「みんな!無事じゃったか。なんで白いスーツ?」
『あいつら。なんで?・・・・』
「コマ、お前はやり方が間違ってるよ」
監禁されていたはずのボックスだった。
「なんで真っ先に助けてくれなかったんだよ~」
『ボックス、俺達に必要なのは勝利なんだ。分かってくれ』
「お前の情熱はすごいけど、俺達を無視してるよ。コマ・・・・」
『ゴダン・・・・勝つためにやったことだろ?街のために・・・』
「街の為ってのはマフィアも含めた街の人達の為にやるんだよ。コマ、俺たちは1つにならなきゃいけない。仲間を助ける気持ちがないならケモノと同じ。お前は終りだよ。俺達はもう終りだ」
『ゴダン』
黒ボスが縛られた状態で白マフィアに連れられて鉄扉から現れる。
『ボス』
「コマ・・・・やられたよ」
「ボスをアジトで1人ぼっちにしちゃあ可哀想だよ。勝つのは常に冷静で人員の配置ができる人間だ。全ては俺の手の中のある。ストンそうだろ?」
「何!ストンじゃと?」
『兄貴!?」
黒マフィアの絆が壊れていく。そしてエーイチを押さえている白スーツの男は10年前に死んだとされていたコマの兄、ストンだった。
「コマ、お前はルールを理解していない。そんな奴が勝負に勝てるわけはない。今回も俺たちの勝ちだ」
「本当に・・・・ストンか?」
エーイチは後ろを振り向こうとするが、ストンは制止する。
「おっと、こっちを向くな・・・10年ぶりかエーイチ」
『生きてたのか兄貴!しかもなんでここにいるんだ?』
10年前の喧嘩、ささいな小競り合いだったけどあの時、『ホワイトライン』のナンバー2が死んじまったんだよ」
『だからってなんで?』
コマの戸惑いに、ストンは小声で呟く。
25
「数が、合わないんだよ・・・・」
「数?何を言ってるんじゃ?」
間の悪いことに、バスで待機していたはずのストナが様子を見に、鉄扉の隙間から部屋に入ってくる。
「コマ!」
『ストナ!なんで来たんだ!危ないぞ!』
「コマ、こんなやり方が良いと思ってるんだったらあなたは、私が思っていた人と違うみたい!」
『何言ってんだ?あ・・・・』
ガラゴリ、ギャッシャ~ン!
コマが拳でこじ開けた、傾いている鉄の扉が崩れ落ち、ストナの頭に当たってしまう。うつ伏せに倒れた頭部から血が大量に流れ落ち、コマはパニックで目の前が真っ暗になる。
『うわーーーー!』
《全てを失って》
タララララララン♪タララララン♪タララララララン♪タララララン♪
ベッドの上。コマはショックで思考は止まり、仰向けのまま微動だにしない。
12時のアラームは鳴り止まない。
『・・・・・・』
リセットされたコマは過去(未来)で仲間の信頼と彼女をなくした事を思い出し、深く落ち込み自分の行動を後悔する。
『何やってんだ俺は・・・・・』
本来の自分自身が求めるものを改めて回想し始める
タララララララン♪タララララン♪
《心の暗闇》
コマはベッドに横たわりながら、今までの軌跡をたどり本来自分が求めるものを思い起こす。そして改めて街の人々の為に戦うことを覚悟する。
テーブルに置かれた今日の予定が書かれたメモを裏返し、やるべき事を箇条書きに起こす。
”1 説明し、みんなに理解される
2 正義を貫く
3 誰も傷付けない
4 やり直す”
『まだ何も行動できてないけど、神様はこれを解らせる為に不思議な力を与えてくれたのか』
またメモを裏返し、予定の『抗争?』のところを横線で消し『和解』と書き直した。シャワーを浴びずに素早くスーツに着替えポケットにそれを突っ込む。
バタン!と勢いよくドアを開け部屋を出ていく。テキパキ動く今のコマに迷いはない。
エレベーターの中でスマートフォンを手にし、ストナにメッセージを送る。
『これから説明することを真剣に聞いて欲しい。俺は・・・・』
アジトに向かう道のりで、コマはゴダンと合流する。
「お~いコマ、聞いたか?また裏切り者が出たってよ」
『急な話でびっくりすると思うが落ち着いて聞いてくれ。実はな」
「なんだと!マジか!」
『まだ何も言ってない』
「あっすまない。ゴホン!さぁ言ってくれコマ。びっくりするような事を!」
『・・・・やっぱりアジトに着いてから幹部会で説明する』
コマは幹部会で自分の経験した事を正直に、誠実に話した。
ブロロロロロロ・・・・
黒マフィア達はバスで白マフィアのアジト近くまで来て待機する。
キキッ、ギ~ッ
ドライバーのストナはハンドブレーキを深く入れる。
「この場所でいいのね?」
「ああ、バッチリじゃ。みんな乗り込む準備はできとるか?」
ゴダンが口を挟む。
「ちょっと待てエーイチ、まずは俺が様子を見てくる。小柄で目立たない俺が行くって幹部会で決まったろ?」
「ああそうじゃった。気をつけるんじゃぞゴダン」
ゴダンは軽い身のこなしで森の方へ消えていった。
『ゴダンが戻るまでみんな動くんじゃあないぞ。ストナも運転席から出るな』
「そうね、分かったわコマ」
ザワザワザワ、ザワザワザワ・・・
しばらく経ってもゴダンは帰ってこない。幹部以外のマフィア達がソワソワしているのが伝わってくる。
「あの~、コマさん?」部下の1人が耐えきれず声を出した時、
ピロピロピロ、ピロピロピロ
「ヒッ!」テヅメの携帯電話だった。バスにいる全員が注目し、バツの悪い顔をしたテヅメはバスから降り、コソコソと会話する。
「も、もしもし・・・・」
それを見た組織のルールを重んじる新人マフィアは
「おいテヅメお前、バスから出るんじゃないぞ。ゴダンさんに付いてるからって、調子乗ってんのか」
「う・・・・」
通話相手の一方的な話を聞きながら、仲間に何も言えなず罰の悪いテヅメを見かねたエーイチが口を挟む。
「新入り、いいんじゃ。あの電話だけは見逃してやれ」
テヅメはしばらく相手の話に聞き入っているが、突然背筋がピンと伸びる。
「えっ本当ですか!俺はこれからどうしたら・・・・失礼します」
ピッ
テヅメの通話が終わったと同時に、様子を見に行っていたゴダンがバスに戻ってきた。
ゴダンに続いて、テヅメが冷や汗を流し冷静ではない顔つきで乗車する。
「どうじゃった?向こうの状況は?」
エーイチの質問にゴダンは適当に流す。
「あ?ああ・・・・まぁまぁだったぜ」
「なんじゃそれは?真面目にやらんかゴダン」
「エーイチがいきなり質問するからだよ」
全員がバスに揃ったところで、コマは指の骨をポキポキ鳴らし始め、リーダーの戦闘体制に、バス全体が緊張感に覆われる。
『よしテヅメ、お前はここの地理に詳しい。犬と一緒に案内してくれ。先頭を歩け』
「え?俺すか?い、いや~、あんまりこの辺詳しくなくて・・・」
「そんな訳ないじゃろ。元々お前は白マフィアじゃったのに」
『正確に案内しろ。その後は戦うなり帰るなり好きにしていいぞ』
「え?好きにって・・・・痛!」
ドン!
テヅメは背中を強く蹴られバスから転げ落ちる。ゴダンだった。
「お前は道案内だけで良いんだよ!2番手は俺だ!行くぞ!」
テヅメは白猛犬達と飛び出し、罠を張って草むらに潜んでいる白マフィア達にジェスチャーで計画の変更を伝える。白マフィアの肥満男はテヅメの意図が解らず、携帯電話で確認しようとする。
ピロピロピロ、ピロピロピロ
「ヒッ!・・・・なんだよ。かけて来んなよ。バレるだろ」
テヅメは黒マフィアに分からないように電話に答える。
『テヅメ、何のジェスチャーだよ?こっちからじゃよく分からん』
「さっきボスから連絡があった。俺達ホワイトラインの負けだ。ボスが敗北宣言したらしい。そうと決まればさっさと逃げろ~」
「何?敗北宣言?逃げろ~!」草むらの肥満男と白マフィア達は、直ちに避難する。
ワーワーワー・・・
「道案内は終わり!家に帰ります。皆さんさよ~なら~」
テヅメはコマの言う通り、自分の役割が終われば白マフィアと共に消えていった。白猛犬も荒い息使いで、彼らの後を追っていく。
「ハッ、ハッ、ハッ、ハ~」
「アイツ、やっぱり白マフィアと繋がってたんじゃな。よく見抜いたなコマ」
『ちょろいもんだ。よし入り口がガラ空きだ。みんな、ここから俺のコマグループ3名と、ゴダングループ25名に分かれるぞ。エーイチは俺のグループだ」
コマグループの3人はアジト裏側に周り破城槌を持って牢屋に監禁されているボックス達を救出する。一方アジト正面玄関では、
「お~い、白のバ~カバ~カ!」
「かかってきやがれ!」
ゴダングループは建物に残っている白マフィアと構える。挑発をしつこく繰り返し、外におびき寄せようとする。
「なんだこの黒マフィアが!入ってくんじゃねえ舐めてんのか!」
「舐めてんだよ馬鹿野郎!出てこい!」
ワ~ワ~、ボコボコ、バキッ!
ゴダングループに引き寄せられるように、残りの白マフィア達が外に出て、乱闘が始まる。
どさくさに紛れゴダンは1人素早く、アジト内に潜入する。外で暴れる大勢の黒マフィア達はゴダンの為の囮だった。
一方、ボックス達を救出したコマグループは、牢屋を破城槌で壁を壊しゴダンとの合流を目指す。
「サンキューコマ、これ返す」ボックスは携帯電話をコマに渡す。
「どうだった?俺のモノマネ、テヅメの野郎、上手く騙せたかなぁ?」
『ボックス、最高だったぜ!』
15分前。
敵の様子を見に行くと言ったゴダンの向かった先は、アジトの中ではなく、裏の牢屋だった。50メートルは離れた林の中から、牢屋内のボックスを見つけたゴダンは、メモ書きで携帯電話を包み、ボックス目がけて投げる。
バコッ!
見事ボックスのこめかみに命中。
「痛!・・・なんだヒットマンか?俺を狙うとは見る目あるな~」
包まれたメモを広げて見ると、電話番号と命令が、
『白マフィアボスになりきり「テヅメよく聞け。ホワイトラインは負ける。お前達だけでも逃げろ。ゴホゴホッ」と言え』
と記してあった。ボックスはすぐ理解し、「おもしろそ~♪」
外で乱闘しているた白マフィアが罠に気付いた時に建物に帰って来れないよう中から施錠したゴダンの元に、壁を壊して侵入したコマチームとボックスは合流する。
「上手くやったなボックス、このロビーでやるのかコマ?」
『ああ。ゴダン、エーイチ、準備に取り掛かってくれ』
「オッケ~任せとけ」
「ワシもやってやるか」
そう言ったゴダンのポケットからは、いつものビリヤード玉や石ではなく、音声プレーヤーが出てきた。
エーイチのジャケットからはナイフではなく、破裂音の大きい爆竹花火が大量に用意されていた。
「クレイジーな計画考えたなコマ。敵のアジトで丸腰なんてビビって小便出そうだったぜ~」
『バレないように、持ち物が限られてたからな』
「同感じゃ。ナイフを持たないなんて40年ぶりじゃ」
顔面汗だくになって準備している2人に、ボックスはからかう。
「初めての経験、おめでとう。全て順調だぞ」
「お前は何も知らないだろ。いいからモノマネの準備しとけ」
「何?またやんの?」
ゴダンが音声プレイヤーのセットを完了したその時、
ドンドンドン!ドンドン!
罠に気付いた数人の白マフィアが入り口を叩き、アジトに入ろうとしている。
「おい!開けろ!俺達を嵌めやがって!」
「こっちは間に合ったぜ。エーイチ準備はいいか?」
「いつでもオッケーじゃ!」
音声プレイヤーを作動させると、コマが昼まで付けっぱなしのテレビで流れていたギャング映画の笑い声と銃声が流れ始める。
『ハッハッハッハ~!』
ガガガガガガガガガ!
「ハッ!なかなかいい趣味してんじゃねぇか!コマ」
イタズラ心から陽気になるゴダンとは対照的に外の白マフィア達は銃声にうろたえる。
「アイツら笑ってやがる。しかも銃持ってんのか?」
「バカ!そんな訳ねえよ。昔じゃねぇんだ。この町に銃が入ってくるわけねぇよ」
エーイチは、床にばら撒いた爆竹を鳴らす。
バババッ!バババババババババ!
「うわ~マジだ!この火薬の匂い、マジで銃持ってやがる!しかも機関銃じゃねぇか」
ボックスはコマから新しいメモを受け取り、白マフィアボスになりきる。
「俺は無事だ!お前らも自分の身を守れ。避難しろ!ぷっ」
思わず吹き出すが、この緊急事態に白マフィアは気付かない。
「は、はい!ボスもお気をつけて!」
しかし忠誠心からか、避難せず扉の前で待機している様子。
『奴ら逃げないな。これは予定外じゃ』
「コマ、エーイチ。ここは俺とボックスが固めとくからお前らはボスのところに行け!」
ゴダンが提案する。
「了解じゃ!」
『ありがとうゴダン。すぐに終わらせてくる』
コマとエーイチはこの場をゴダン、ボックス達に任せてボスの部屋へ急ぐ。
《第2ターニングポイント》
不思議な力のおかげで幾度となくリハーサルを繰り返す事ができ、犠牲者を限りなく抑えて白マフィアボスのいる部屋の前にたどり着いたコマとエーイチ。
今回もやはり鉄の扉で鍵がかかっており、部屋の中へ侵入する事は困難。
ゴン、バゴン!
コマは鉄の扉ではなく、その横の壁面に拳で小さな穴を開ける。エーイチはその穴に少量のダイナマイトを詰め爆発させ貫通させる。
パンッ!
『別に鉄扉を壊す必要なんかないんだよ」
「珍しくトンチが効くな。コマ」
『部屋の中に入る事が目的なんだ。なんで初めから思いつかなかったんだろうな・・・・・」
コマは貫通した穴の周りを破城槌で破壊し、脆くなった壁は崩れおちる。
《フィナーレ》
壁を壊し、ボスの部屋にたどり着いたコマとエーイチ。
相手を出し抜き戦わずして白ボスと対峙する。部屋は薄暗く窓から月の灯りがソファに座る男をスポットライトのように照らす。
「2人か」
『さっきより早く着いたな。エーイチ、兄貴の名前を呼んでくれ』
エーイチは天井を見上げて、部屋いっぱいに響き渡る声で叫ぶ。
「ストン!いるんだろ?出てくるんじゃ!ストン!」
「?・・・・いいぞ、出て来い」
暗闇から出て来た白スーツのストンは驚きを隠せない。
「エーイチ。なんで分かった?どういう事だ?」
「はは、ワシも半信半疑じゃったよ。10年ぶりじゃなストン」
白ボスは用心深く、2人を観察しながら言葉を選ぶ。
「ストンに驚かないところ見ると、先手を取られてるってとこか」
『兄貴久しぶりだな。おかげで俺も色々学べたぜ。さぁボス、和解しようか』
「和解?なんだ戦わないのか?今はお前らがちょっとだけ有利だぞ」
『勘違いするなよ。ボス』
「ワシらの目的は抗争じゃない。戦う事が重要ではないのじゃよ」
「10年ぶりに会ったらお前ららしくないな。俺がここにいる理由は知りたくないのか?コマ」
ストンが白ボスの前に立ち塞がるがコマは動じない。
『兄貴、それももう重要じゃない。俺たちの望むものは和解。目的は街の人達の平穏。ボス同士話し合ってもらう。俺達のアジトに来い。これは命令だ』
「そういうことじゃ。2人とも来てもらうぞ。さぁボス立つんじゃ」
エーイチが2人を誘導しようとするがストンはナイフ、メリケンサック、金槌など色々な武器を出し威嚇する。
「うお!何じゃ?」
「断る!コマ、エーイチ、俺と戦うんだ!10年間の俺の歴史を・・・・」
ストンが弟に殴りかかろうとしたその時、
バリン!ドン!
突如バスが部屋の中に現れ、ストンを跳ねる。
「ゔっ!」
ストンは壁に激突し気絶して横たわり、ピクリとも動かない。
「・・・・・・」
『兄貴!』
「な!なんじゃ~!ストナ?」
『おいストナ、お前何やってんだよ!』
車体の前半分が部屋の壁から突き出た状態で運転席の窓が開き、ストナがいたずら顔を覗かせる。
「来ちゃった。バスから出てないから良いでしょ?へへへ」
『むちゃくちゃだコイツ』
後部座席からぼんやりした物陰が前に移動しバスを出る。黒マフィアボスだった。
すかさずエーイチが手を貸しに走る。
「ボス!」
「ご苦労だったなコマ、エーイチ」
「なんだ?ブラックライン代表が直々に来たか」
表情は変わらないが、予想外の展開に少し早口になる白マフィアボス。
「まぁね」
「フン、お前らの勝ちをより噛み締めたいのか?趣味が悪い」
『ボス。俺は白マフィアと和解がしたい。街の人達が安心して暮らせるように」
「分かってるよコマ。私に任せろ」
「ストンが動けない以上、今回はホワイトライン、お前らの勝ちだ。おめでとう」
白マフィアボスは、ソファからゆっくりと立ち上がる。
『今回は。じゃない。今回で終わりだ。次回はもうない。今日を持って抗争は起きない。終戦宣言しろ」
「どうだろうな。俺がやらなくても誰かが争いを始めるだろう。なぜだか分かるか?」
『こいつ、まだ何言ってやがる』
「人間は愛と正義を持ってるからだ。周りの人やモノに愛情を持っているから大事にしようとして、それらを奪われないために争う。いつもそれが正しいと思ってな。それが正義だ」
白ボスの話を聞いていると、コマは頭がクラクラし始める。
『何・・・・言ってやがる・・・俺の・・・やってることは、正しいだろ』
「よく聞けコマ。正義なんてあってないようなもんだ。立場によって正義は変わる」
『あ、あれ?』
突然コマの視界が歪みむと身体の力が抜け、うつ伏せに倒れこんでしまう。
「コマ!どうしたの?大丈夫?」
ストナは車内から顔を出し叫ぶがコマは反応できない。
視界がぐにゃぐにゃに歪み、意識が朦朧とする中でボス同士の会話する声だけが微かに聞こえる。
「私の勝ち~。どう?もう一回やる?」
「そうだね。でもその前にお腹空いたから喫茶店行かない?」
『うう・・・・なんだ?どういうことだ?』
横たわりながらももがいて、ゴロンと仰向けになったコマが見た光景は自分の部屋の天井で、そのまま気絶してしまう。
『またリセットするのか・・・」
全てが暗闇になる。
「一旦休憩。俺だって負けるのは悔しいよ」
「あなたさっきから勝ちすぎよ~」
《ファイナルイメージ》
現実世界にて。コマのアパートと同じ作りの3階部屋。
カジュアルな服装の黒マフィアボスに似た妻と、グレーのストレッチジャケットに身を包んだ白マフィアボスに似た夫が、テーブルを挟んで休日の昼下がり恒例のオセロを楽しんでいる。
テーブルの前にあるテレビでは、マフィア映画が放送されている。
黒マフィアボスと白マフィアボスは現実世界では夫婦で、妻が初めて勝利し嬉しさのあまり大騒ぎする。
「やった~!初めて勝ったわ~!ははは~しかも圧勝!」
立ち上がり、ガッツポーズを決める。
『ハッハッハッハ~!』
ガガガガガガガガガ!
テレビの中ではマフィア達が騒ぎ、撃ち合いを演じている。
「負けた。君の為に気を使いすぎたかな?いつだってゲームは僕の手の中にあるからね」
「あら負け惜しみ?どう?もう一回やる?」
「そうだね。でもその前に喫茶店で軽く食べない?」
再戦を前に小腹が空いた2人はオセロ盤をそのままに、アパートを出ようとする。
「一旦休憩ってことで。僕だって負けるのは悔しいよ」
「でもあなた、ずっと勝ってるじゃない~」
「そうかい?何食べたい?」
「なんだと思う?」
「トーストかな」
「も~また忘れてる。何回言えば分かるの~」
「なんだったっけ?」
「パスタよパスタ。あとね~パスタに付いてくるスープが最高なの。あの特製スープだけでも幸せな気分になるの~。ほら行こっ」
妻が足早に部屋を出る。夫は部屋の電気を消し、妻の後を追う。
「へ~スープ?それは楽しみだな」
エレベーターで降りた2人は、アパート前にある喫茶店に入っていく。
タララララン♪タララララン♪
喫茶店の扉を開けると来客を知らせる音楽が流れるが、これはオセロの幻想世界でマフィア幹部『コマ』の部屋にある目覚まし時計と同じメロディーだった。
ヒューーーッ、ヒューーーッ
誰もいない3階の部屋。開けっぱなしの窓から風が入りカーテンが乱れる。
妻の圧勝で終わらせたオセロ盤は黒のコマがほとんどで、惨敗した、数少ない白のコマだけを集中して見ると『SOUP』のアルファベットを表していた。
バタバタバタバタ~ッ
強い風が差し込むと不自然にオセロの1枚が転がり落ち、表が黒を向く。
消し忘れたテレビで流れるマフィア映画がエンディングを迎え、クレジットと曲が流れ終わりを知らせる。
了
too busy to die @ht800514
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