最終章 3-1
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遠くから私を呼ぶ声がする。
いつものように、寝坊した私を修道女が起こしに来たのだろうか。きっと、魔女のように恐ろしい顔をしているに違いない。でも、お願いだから、どうかもう少しだけこのままで居させてほしい。
だって、ここはとても心地好くて、まるで空を飛んでいるようだから。大地の
でも、それは少し変だ。何かが足りないような気がする。原初の場所にあっても尚、始めから一緒だったもの。とてもとても大切な、私の半身。
また、私を呼ぶ声がする。それがきっと、今の私に欠けているものなのだ。だから行かなければならない。永遠の安息にはまだ早過ぎる。お姉ちゃんがいないのなら、私がここにいる意味など無いのだから。
お姉ちゃん、それは私の全て。私を私として足らしめるもの。自己を確立させる存在を認識し、覚醒を始めた意識とともに瞼が開く。そこには祭壇の放つ
ああ、こうして間近で眺めると、やはりあまり似ていない。でも、泣いている顔もとても綺麗だ。私が泣かせた原因なのだから、早く大丈夫だよと教えてあげたいのに、思わず
あのとき、確かに私は一度死んだ。天に捧げられし
―――否、我らが欲せしは
しかし、地の底から響くような荘厳な声が私の思考を否定した。初めて聞いたはずなのに、どこか懐かしさを纏わせた言霊は不思議な安心感を与えてくれる。それはあの古びた祭壇から発せられたようであった。
一切の陽光が射さぬ大聖堂の地下、唯一の光源たる灯火は
その声は自らを『アプ』と称した。それは忘れもしない、修道院にいたときに幾度となく耳にした言葉、ヴィナンクル
私たちは人に捨てられ、神に拾われたのだ。私が力尽きたあのとき、お姉ちゃんはその御声を知覚したという。そして、私を助けたいと強く望むと、その願いに応えるかのように周囲を神々しい聖光が包み込み、やがて私が目を覚ましたそうだ。
私を甦らせてくれたのはお姉ちゃんだった。死者の蘇生、
私たちは涙で滲む視界の中、互いの無事を確かめるように抱き合いながら、再会の歓びを分かち合った。
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