最終章 1-2
ヴィナンクル
特別な加護を受けた者、或いは長く厳しい修行を積んだ者には、その存在が朧気ながらに感じ取れるというが、本当のところはどうなのか分からない。
それでも、信仰体系として確立されていれば構わないのだろう。聖合国として各州をまとめるためには、政治や経済などの統治機構だけでなく、精神面での連帯機構が必要であったという訳だ。
そして、数多ある教義の中には、原始的なもの、現在の私たちの感覚では忌むべきものもあった。それが天人の
教皇は私たちに宣告した。天人より神託が下された。兆しを持つものを御所望である。それは
その先はあっという間だった。誰も私たちを守ろうとはしなかった。これが厄介払いならばまだ救いもあったが、全くの逆、皆で涙を流して喜んでいた。天人に仕えるもの……それを
本当に馬鹿な人たち。これも信仰のなせる
私たちは信仰の総本山となる大聖堂へと連れて来られた。そこで身体を隅々まで洗い清められ、大人の女性のように化粧を施され、今まで見たこともない
ただでさえ、いつもの粗末な服装でも見栄えがしていたお姉ちゃんは、それはもう言葉では言い尽くせないほどに綺麗だった。皆がお姉ちゃんに心を奪われていた。それが私には堪らなく嬉しかった。
そうそう、そのときは私のことも褒められた。私なんか、お姉ちゃんの足元にも及ばないのに。同じ日に生まれ、同じ修道院で育ち、同じ
それでも、私には良かった。どんなに似てなくても、私はお姉ちゃんと一緒なのだ。お姉ちゃんが側に居てくれる、大切なのはその一点。それがたとえ、これから神に捧げられる贄であったとしても。
私たちは白い教皇と赤い枢機卿に連れられて、大聖堂の地下へとやって来た。そこはとても暗くて、教皇たちが持つ燭台がなければ足下すらも見えないほどだった。
それから幾つもの岐路を曲がり、足が疲れを感じ始めた頃、やがて古びた祭壇に辿り着いた。そこで教皇は
祭壇に置かれた燭台の下で、私たちは互いに身を寄せ合いながら、ただそのときを待ち続けた。
何を待っているのか、それは分からない。もう私たちには地上に帰る
やがて、燭台の炎が消えると、周囲は完全なる暗闇に包まれた。何も見えない空間の中で、隣にいるお姉ちゃんの存在だけがこの世の全てだった。
それからどれくらいが過ぎただろう。すぐに時間の感覚は曖昧になった。私たちは多くを語り合い、互いの鼓動を感じ合い、世界がまだ続いていることを確認し合った。
しかし、いつかは限界がやって来る。空腹感はとっくに麻痺していた。もし、視界が利いていたら、
死が私の間近に忍び寄っていた。でも、不思議と恐れはなかった。お姉ちゃんが一緒なのだ。お姉ちゃんが一緒なら、それでも構わないのだ。
段々とお姉ちゃんの呼ぶ声が小さくなる。私はもう何も考えることが出来なくなっていた。お姉ちゃんの温もりを微かに感じながら、私の意識は深い闇の中へと沈んでいった。
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