第三章 8-3
「左様でございますか。ではダシャラタよ、ダイバ老師の軍門に
彼女から偽の天人地姫への面会を相談されたアナン老師が、出し抜けにダシャラタへと向けて言い放つ。その
先ほどまでの威勢の良い姿は
そもそも、老師は最初から翻意を促すためにイクシュヴァーク家を訪れたのだという。
見す見す忠義の士を見殺しには出来ず、後事のために引き際を諭そうとしたのだが、彼女たちとの思わぬ邂逅により僅かな光明が射し込めてきた。
ダシャラタも最初こそは渋っていたが、敬愛する老師の
そして、武人らしく手早く身支度を整えると、即座にダイバ老師の寺院へと向かい、仇敵に対して恭順の意を示した。
彼にとっては屈辱に塗れた日となったが、己を殺して堪え忍んだことが功を奏し、翌日には天人地姫への拝謁が叶う手筈となった。
彼女たちも一度旅宿に戻り、少ない荷物をまとめて引き払うと、再びイクシュヴァーク家の敷居を跨いだ。老師の仲介もあり、事が片付くまでは逗留することになったのだ。
その夜は
明くる日の昼下がり、ダシャラタとラーマはダイバ老師の寺院に向けて出立した。拝謁は当主と勘当を解かれた嫡子のみが許され、シータは邸宅に
やがて、ラーマたちは目的の寺院に辿り着くと、
二人を
寺院の僧侶に先導され、沈黙したまま通路を歩む二人の後方には確かに彼女たちがいた。厳戒態勢の中を堂々と歩くその姿は、
『
周囲に温度差による空気層を生み出し、光を屈折させて背後の光景を投射することで、内部を透明化させる水属性の防性魔法である。
ただし、通常は術者本人を隠すものであり、他者を含む場合は効果範囲から出さぬように注意する必要がある。しかし、不用意に範囲を広げてしまうと、今度は意図せず第三者の侵入を招いてしまう危険もあった。
彼女たちが誰にも察知されずに済んでいるのは、無論ミストリアの卓越した魔法技術によるところもあるが、ラーマたちが先を行くことで、進行方向と速度が定まっていることもまた大きい。
やがて、一行は荘厳な造りの寺院の中でも、際立って厳粛な雰囲気を漂わせる一角へと足を踏み入れた。そこはダイバ老師が執務を行う区画であり、偽りの天人地姫が逗留している場所でもあった。
そして、一つの部屋の前で誘導する僧侶の足が止まる。緊張した面持ちのラーマたちの前で扉が開かれると、彼ら二人だけ――実際には彼女たちも含めて四人だが――が中へと招き入れられた。
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