第三章 7-1


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「今日は久しぶりに大物が獲れたッスよ」


 ブッタガヤを後にした一行は、第三の聖地サールナートに向けて歩を進めていた。教都が近付くに連れて、街道も山間部から平野部へと移り変わり、同道する信徒の数もより一層増してきている。


 旅の道連れが二人増えたこともあり、ブッタガヤで購入した食糧が次第に心許なくなってきた。そこで元狩人のラーマから狩猟の提案があり、丁度良く草原で暴れていた魔猪マッスルボアを仕留めたのであった。


 シータが涼風一陣ウィンド・アローで脚を止め、ラーマが弓矢で急所を射抜く。あまりの手際の良さを目の当たりにして、彼女は二人に称賛の声を上げた後、背筋が凍えるように寒くなった。


 これはまさに彼女たちが初遭遇した時、本来は丸太兎ファッティラビット相手に披露されるはずだった連携であろう。


 特にラーマの腕は想像を遥かに超えるものであった。彼女には武芸の才能はないが、王国の貴族の子弟と接する機会が多く、彼らは思惑こそ違えども皆一様にその力量を見せ付けようとしてきた。


 故に、彼女の目もまた素人ながらも肥えたものであったのだが、こと弓に関してはラーマの右に出る者はいないと断言できる。射撃の速度、威力、精度……どれを取っても比較にならぬほどに洗練されていた。


 優れた武芸は魔法と区別が付かないという格言がある。もし、あのとき飛んできたものが魔法ではなくこの矢であったならば、結果はまるで違ったものとなっていたことだろう。


 空属性は旅の中で進化を続けてはいるが、未だ遠距離からの実体を伴う攻撃には無力である。これには何らかの対策が必要だと考えてはいるが、マイナを介した魔力や生命力の消滅だけでは、有効な解決策を見出すことが出来ずにいた。


 この件に関してはミストリアからも具体的な提案はなく、結局は相手の機先を制すること、そして自身の身体能力を向上させることが必要不可欠であった。


 ラーマたちが手際よく魔猪を解体すると、ミストリアが魔法で火を起こし、彼女がそれを串に刺してあぶる。


 程なくして、皆で野性味溢れる塊焼かいやきにかぶり付くと、口内に広がる濃厚な猪肉ししにくの味わいに舌鼓を打ちながら、四方に映える雄大な自然の営みに感謝した。


 一通り空腹が満たされた後、残った猪肉は街道を旅する信徒に分け与えたり、野菜や穀物等と交換したりした。また、幾らかは火でいぶして保存食にもした。どうやら骨や皮にも用途があるらしいが、その辺りは専門家である二人に任せることにした。


 途中、付近の集落への立ち寄りや信徒との交渉、再度の狩りなどを経て、ブッタガヤを出発してから五日後、一行は第三の聖地サールナートへと辿り着いたのであった。

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