第三章 5-2
彼女たちは村の外れにある古びた一軒家に上がると、シータに案内されて客間に
ルンビニは聖地であることから周辺に比べて裕福な村であった。一方で、誰でも自由に住める訳ではなく、二人が訪れたときにも相応の
村では食糧を共同管理しており、
やがて、客間の準備が整い、シータが就寝の挨拶を告げて部屋を後にしようとする。きっとラーマの部屋で
「それで、あなたはその天人地姫と会ってどう感じたのかしら」
唐突な問い掛けにシータだけでなく、彼女もまた面食らってしまう。教都にいる天人地姫は偽者だが、逗留先には信徒が殺到しており、拝謁は容易でないと聞く。
……いや、本当にそうだろうか。ミストリアの言には何か確信めいたものが感じられた。
しかし、詮索されたくないのであれば、単に否定すれば済む話である。それにも関わらず、まるで返答に迷うような曖昧な態度を取ることは、暗に肯定しているとしか思えない。それが分からないほど、彼女はシータという少女を過小評価してはいなかった。
そして、
ラーマとシータは教国でも有数のクシャトリヤ、武門の家柄の出身であるらしい。二人は幼い頃からの
そして、その原因となったのが、教都に現れた天人地姫の存在であった。教国は王を
現在の座長であるカショウ老師は高齢であり、次回の
当初、両者の支持は拮抗していたのだが、事実上、天人地姫がダイバ老師の後ろ盾となったことにより、現在ではその殆どがダイバ派に傾いているのだという。
ラーマとシータの一族は共にアナン派であったが、戦況が不利と見るや、シータの家はダイバ派に鞍替えをしてしまったそうだ。そして、翻意の見返りとして天人地姫への拝謁が叶うこととなった。
結集を間近に控え、座長就任後の冷遇を恐れての苦肉の策であったのだが、その転身を善しとしないラーマの一族との関係は完全に決裂し、批難や衝突が絶えなくなった。
まさに戯曲で語られるような悲恋であったが、それを聞いた彼女の心情は実に複雑なものであった。
今ここで、その天人地姫が偽者であると言うことは容易い。しかし、それが一国の指導者を左右する程のものとなってしまっては、一体どのようにして収拾を付ければ良いのか、皆目見当も付かなかった。
万策尽きた彼女は、また助けを求めるようにミストリアに視線を向けたが、やはりその表情は涼しげなものであり、自身の偽者が
その無責任な姿勢には
ミストリアの超然とした態度につられるように、
果たして、シータはそれをどのように受け取ったのだろう。大きく目を見開いたかと思うと、次の瞬間、
「御身の
彼女は唖然としながら、きょろきょろと左右を見回した後、再び眼下の光景を眺めた。やはり、シータが自分の足下に跪いている。いつの間にかラーマも一緒だ。
一体これはどういうつもりなのだろう。これではまるで……自分がそうであるかのようではないか。
いや、本気なのか。本気で二人はそのような勘違いをしているというのか。隣では本物が声を押し殺して笑っていた。
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