第三章 4-3
「ちょっと、いくら何でもそれはやり過ぎよ」
「これもシータがヘマしたせいッス。いいから、今のうちに獲物を仕留めてしまうッスよ」
シータと呼ばれた少女はまだ不満そうであったが、言われたとおりに魔法の詠唱を開始した。先ほどはまさか魔法が消去されたとは考えもしないだろうから、単なる失敗と
「獲物を持って帰らないと村を追い出されるんス。頼むから妙な真似はしないでくれッスよ」
少年は視線を戻すと、懇願するように片目を
そんな二人の動作と機微を彼女は自分でも驚くほど冷徹に捉えていた。少女の詠唱は長篇に及んでおり、今度は牽制目的の
問題は短剣を突き付けている少年の方だ。本心では危害を加えるつもりはないようだが、どうやら食い詰めて切羽詰まっているらしく、いつ心変わりをするとも限らない。
つまり、これは絶好の機会なのだ。今度の標的は魔物ではなく人間、それも複数に対してマイナとプラナの同時並行処理ともなれば、そうそう巡り合える局面ではない。
特に、何の
例え自分にはその気が無くとも、恐怖に駆られた相手が抵抗して揉み合いとなり、弾みで刺してしまうこともある。そのような結果に対して、原因は抵抗した相手にあるとでも言うつもりか。
剣を抜くからには、それなりの覚悟を負わねばならない。もしも返り討ちにあったとしても自業自得なのだ。故に、これほどお
心のどこかで、発想が
しかし、現実とは無情なものだ。今ここで求められているのは智よりも力……少なくとも、魔物を助けようなどという無理を通すのであれば、代わりに道理を引っ込ませるより他にない。
やがて、少女の詠唱が終わりを迎えると空中に巨大な氷塊が顕現された。それは陽光を浴びて
『
魔力によって空気中の水分を限界まで凍らせ、巨大な氷塊として叩き付ける水属性の上位攻性魔法である。
衝突後は氷片が
まさかここまでの魔法が
それにしても、たかだか
現に少年も驚愕の表情を浮かべており、少女に向けて何やら叫んでいるようだが、時は既に遅く、氷塊は落下を始めていた。
そして、それは彼女にとっての好機でもあった。瞬時に知覚の世界で氷塊を捕捉し、マイナに宿る魔力を対消滅させていく。このまま地表へと花開く前に、散らしてしまうことが出来るだろう。
しかし、それだけではまだ足りない。彼女は強引に思考を分割して並列処理の体勢に入る。少年は魔法に気を取られており、こちらの様子には全く気付いていない。今なら身体に触れることも容易いだろう。
だが、敢えてそうはしない。少年には一切触れず、その周辺にあるマイナから魔力を奪う。やがて、枯渇して剥き出しになった因子が、まるで自己防衛するかのように彼から生命力を奪い、魔力へと変換する。
そして、また彼女がその魔力を奪い去る。それは
いつしか空から氷塊は消えていた。ただ、野原を吹き抜ける
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます