第三章 4-2
突如、茂みより放たれた攻性魔法に対し、彼女は素早く
向かって来ているのは、風のマイナを伝導体として細長く矢形に引き伸ばされた魔力……それも複数ともなれば、風属性の『
比較的初歩の部類の魔法ではあるが、主に牽制を目的として魔物を狩る場合にも重宝される。つまり、狙いはこの
思考と並行して、矢群に向けて右手を
しかし、これはあくまで初手、狩人たちの追撃が予想される。現状として死角に潜んだ相手への対抗手段はなく、また人間同士で無益な争いを起こすつもりもなかった。
「ちょっと待って、この子たちは違うのよ」
彼女は射手に視えるように諸手を挙げると、茂みの奥へ向けて戦意のないことを宣言する。構わず狙い撃ちにされる危険もあるため、決して攻性魔法に対する警戒は怠らない。
茂みに向けた視線を逸らすことなく、固唾を呑んで事の行く末を見守る。もしも相手が
「わりぃッス、あれはあんたの獲物だったスか?」
二人の片割れ、
観たところ、体格は中肉中背、胸には守備兵と同様の
一方、少年の背後に控える
「なあ、片方譲っては貰えないッスかね。代わりと言っちゃなんだが、村まで運ぶのを手伝うッスよ」
無言で相手を値踏みする彼女に対し、少年は意に介さずに話を進めていく。どうやら身ぐるみを剥ごうという訳ではなさそうだが、毛塊たちの分け前に預かろうという魂胆らしい。
丸太兎は魔物の中でも、脅威というよりは狩猟の獲物、
プラナの収奪の修練においても、既に毛塊たちを相手とする段階は終わっている。先ほど決心したとおり、このまま野に放しても問題はない。そして、その先で狩人の手に掛かり、その糧となることもまた仕方のないことなのだ。
「……悪いけど、この子たちに手出しはさせないわ」
しかし、それは駄目だ。幾ら相手が魔物でも、恩を仇で返すような真似は出来ない。たとえ独善的と言われようとも、目の前で狩ることだけは許さない。
彼女は毅然とした態度で少年の申し出を拒絶した。元より運搬と引き換えに半分を要求するなど言語道断なのだが、少年との間には
一方、後方にいる少女は、睨み合う二人の様子を困惑した表情で見つめていた。それでも口を挟もうとはしないことから、少女もまた意図するところは同じなのだろう。
「あんた、ひょっとして魔物遣いなんスか?」
「いいえ、そんな大層なもんじゃないわよ」
彼女もまた思案した後、それに否定の意を示す。正体を偽ることでこの場を収められるかも知れないが、一方で魔物遣いを忌み嫌う人々もまた多く、特に狩人にとっては水と油の存在であった。
「それなら尚のこと聞けないスね。そこに獲物がいる以上、狩りを邪魔される
そう吐き捨てながら少年は腰の短剣に手を掛けると、威嚇するようにその剣先を向けてくる。途端にチョウセンとの出来事が脳裏に蘇り、自分の心奥が冷たく凍て付いていくのを感じていた。
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