第二章 EP(終)
-エピローグ-
彼女を乗せた馬車は帝都カンヨウを離れた後、街道を北上して途上の宿場町に寄りながら一週間走り続けた。そして、セイトの都を後にした車両はバラトリプル教国との国境、ケンモン関へと近付いていく。
そこは雄大なターパ山脈を構成する
かつての大戦においては、皇国軍からの防衛に重要な役割を果たしており、軍備に乏しい教国が独立を保てる大きな要因でもあった。
現在は帝国側と教国側にそれぞれ関所が設けられており、両国に王国を加えた三国同盟に基づいて、原則的に通行の自由が保証されている。
やがて、その門がはっきりと見えてきたとき、途上には久方ぶりの漆黒の
「ミスティーー!!」
いつかのように、振り向いた
「レイニー、なぜ来たの?」
再び、彼女は問われていた。その覚悟は出来ているのかと、それに見合う力は得てきたのかと。だから、彼女が振り絞った答えもまた同じであった。
「私はあなたと一緒に旅がしたい。もう一度、私のことを認めてほしいの」
ミストリアはそれ以上を問わず、黙って前方に手を
それは未投射、不干渉、非接触の三層からなる害意に対応した恒常的な障壁ではなく、特定の脅威に向けて実戦的に展開される任意の障壁である。
前回は愛という構造的
彼女は悠然とした歩みでミストリアに近付くと、可視化された障壁に手を触れた。それは愛を以ってしても進行を阻み、ミストリアとの間に永遠ともいえる境を作り出す。
もしも、純粋な武力でこの障壁を突破しようとしたならば、恐らくは王国の軍事力を総動員しても不可能であっただろう。任意の障壁は意識して展開させねばならない分、恒常的な障壁を上回る強度を誇っていた。
しかし、事ここに至っては、それは問題ではなかった。彼女が身に付けた
彼女の視界にはまた知覚の世界が広がっていた。そこには無数の球体があった。色も大きさも様々で、何より一つ一つがとても強靭だ。やはり、失礼ながら
しかし、それでも同じことなのだ。彼女はチョウセンとの一件で学んだように、目に映る全てを消すのではなく、最低限の
そして、そのまま力強く抱き締める。不甲斐ない自分を詫びるように、また共に歩むことへの許しを乞うように……。
それに応えるかのように、ミストリアも抱き締め返してくる。ここに証明がされた。故に認められた。再び二人の道は交わった。それを見届けたのか、反転した馬車が街道を走り去っていく。
だから、誰も気付かなかった。彼女は感極まって、涙を零しながらミストリアを抱き締めている。だから、誰にも彼女を抱き締め返すミストリアの顔は窺えない。
それは有り
これは、現代に蘇りし空属性を操る少女レイネリア=レイ=ホーリーデイと、伝説を生きる神々の忘れ形見ミストリア=シン=ジェイドロザリーが、秘匿された世界の果てに至るまでの物語である。
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